報告書1.黒眼(仮) 後編
見 え た !
見え!見見た。見えた?見!見えた!見え見え。…
見見え見えた…。見?見え。見え。た!見え…。目
見 え た ?
見 え た ?
ー緑塚さんと打ち合わせした数日後ー
黄巣駅にて…
「あ、こんにちは!」
「すまん、遅れた。」
予定では計画を立ててすぐ行くつもりだったが、
緑塚さんに急遽別の仕事が入り、少し日付をずらすことになった。ので、スケジュールも少し緩めになっている。とはいっても今はまだ太陽が暗い。
「運転手の方はどのくらいにいらっしゃるんですか?」
「もう少しで来るはずだ。どうやら車のメンテナンスで遅れてるらしい。」
メンテナンス。大変だな。
「暇をつぶすほどの時間があるわけでもないから、ここでしばらく待っていよう。」
「はい!…そうだ、緑塚さん。少し気になったんですけど。」
「どうした?」
「銃ってどうやって持ってきたんですか?」
ケースに入っていて分かりづらいとは言え、
普通に銃刀法違反だ。きっと何か手続きしたのだろう。
「…お前も何となく予想はしてるだろうが、
軽い手続きをしてある。」
そういうと緑塚さんは武器屋でもらったあのカード…「得意武器」が書いてあるカードを取り出した。
「これを役所に見せて許可証をもらう。そうすれば今日一日は任務の中で自由に使える。」
「…このシステムを悪用する人、いそうですね。」
「まぁ、いるだろうな。任務がどこまでの範囲なのか、明確に線引きもされてないからな。」
と、話しているうちにタクシーが目の前に停まった。
「到着したみたいだな。」
中から運転手の方が出てきた。優しそうなおじいさんである。
「本日、お二人の運転手を務めます。池田です。
何卒。」
「よろしくお願いします…!」
「よろしくお願いします。」
ハッ…!緑塚さんが…敬語!?
「おいなんだその顔は」
いや、慣れないなと思って。
「なんでもないです。」
「…。」
あはは、めっちゃこっち見てる。すみませんて。
「…どうぞお乗りください。」
「あ、すみません。」
待たせるわけにはいかないのでさっさと乗ろう。
シートが真っ黒だし。
「あの、武器ってどこに積めばいいですか?」
「そうですねぇ、後ろはスペースがないので…、
助手席に置いてください。」
「了解です。」
さて、程なくして車の移動が始まった。
あんなに話していたのに、まだ太陽は暗く沈んでいる。ふと、水の確認をした。…まぁ足りるか。
「ここから10分ほどで着く予定です。」
「分かりました。」
緑塚さんが全然喋らないな、
「緑塚さん、大丈夫ですか?」
「え?…あぁ、ちょっと景色に見とれてた。森がきれいでな。こういう景色は好きなんだ。」
何か返事をしようと思ったが、また緑塚さんが
景色に集中したようなので、それ以上話しかけるのはやめておいた。景色か、自分はあまりよく見えない。
「目的地に到着しました。」
おっと、気づいたらもう着いたみたいだ。
「ありがとうございました。」
「ありがとうございました!」
「何かあったら連絡をしてください。すぐに車を出せるようにするので。」
なんだろう、すごく頼もしい。
「では、行ってきます。」
「ご武運を。」
ーしばらく歩いてー
「ここが例のトンネルか…。」
ここまでに草はボーボー、木は生えまくり。
なのにトンネルとそこに繋がる道路が非常に綺麗なのが不思議だ。
「異変と言われれば確かに、そうかも知れないと思う異様さですね…。」
「そうだな…。」
武器を握りしめる。イメージトレーニングはしてある。緊張しすぎないように気をつけよう。
「じゃあ、入るぞ。言ったことは覚えてるな。」
「はい。武器、水、勇気、逃げ足の準備OKです。」
「行くぞ!」
トンネルに入る。…うまくいった!
「やはり、車には反応するが人には反応しないな。」
「すごい暗いですね…。」
ライトを付けてみた。が、事前情報の通り、
ライトが効かない。光が吸収されたように前が全く光らないのだ。
「やっぱだめみたいだな…。」
足音が響くのでトンネルだとは分かる。
「そうだ、鈴木。カメラを渡しておく。一応写真を撮っておけ。何か写るかもしれないし、どっちにしろ報告書に書けるからな。」
「あ、ありがとうございます!」
カメラを受け取る。電源を付けよう。
「…あれ?」
「どうした?」
おかしい。電源がつかない。
「すみません、電源がつかないです!」
「押すボタンは合ってるか。」
確認する。暗くてよく見えないので手探りになってしまう。
「わかりません!」
「仕方ない。スマホは使えるか?それをカメラとして使おう。」
そうだ、スマホならボタンがわかりやすい。
ポケットからスマホを取り出す。…駄目だ。
「つきません!」
「マジか!…充電切れはないよな?」
「はい、朝は充電満タンでした!」
お互いの声がだんだん大きくなっている。
よく聞こえないのだ。音も吸収されたように。
「仕方ない。写真は諦めよう!」
「分かりました!」
「おそらくだが、このままここに居続けるのはマズイ!もうしばらく進んだら撤退するぞ!」
「はい!」
個人的には真っ暗だし電源つかないしで気が滅入ってしまった。早く帰りたい。
「くそ、本当に何もないな…。」
確かに、歩き続けたが壁に当たらず、小石もなし。
足元を見る。吸い込まれそうな漆黒だ。
あれ?足音、消えてないか。
カラッー
「え?」
どうやら、緑塚さんが持っていた銃を落としてしまっている。
「緑塚さん!大丈夫ですか!?」
「あぁ、ちょっと手が滑っちまった。」
暗くてよく見えない。本当に暗い。
「…佐藤。」
「はい?」
「逃げろ!今すぐ!端的に言う!俺の片腕が消えた!」
え、?
「このままじゃマズイ!」
「でも、緑塚さん、」
「早く!」
くるりと背を向けて走り出す。ー安心しろ、後ろは俺が守るーどこか嬉しそうなそんな声が聞こえてきた。
「…急がないと!俺が生きて帰らないと!」
急げ!早く!
(€¥(|*^2☆-)
「…!?なんだこの音…!」
うるさくはないけど、頭に響く。おかしくなりそうだ。
(07→6€+☆*(・4295,☆2%・8♪)
やばい、やばい!急げ!いそー
…そこで記憶が途切れた。
ーいくつか…時間が経った頃ー
「ええと、佐藤さん?」
ハッ!目が覚めた。慌てて声の主を探すと運転手、池田さんだ。トンネルの前で倒れていたみたいだ。
「あの…!緑塚さんが!」
「落ち着いてください。話はそれからにしましょう。」
落ち着くって…!
「緑塚さんが、中で!」
「…緑塚さんがどうしたんですか。」
「異変に…!」
「分かりました。とりあえずあなたは一回落ち着いてください。」
でも…、
「きちんと伝えるには正しく状況を整理する必要があります。落ち着いて、状況を理解してから話してください。」
「はい…。」
状況を整理して…、理解…。
緑塚さん…。
「…落ち着きました。」
「では、話してください。何があったのか。」
まだ完全には落ち着いてないけれど、事の経緯を説明した。
「緑塚さんは、今…どうなっているかわかりません。」
「そうですね。…きっと助かりません。」
「そんな…!」
そんな、バッサリ切り捨てるの?
「現在警察を呼びました。状況は説明してあります。このトンネルは封鎖されるはずです。」
嘘だろ…。このまま終わるの?何もできてない。
緑塚さんが無事なのかも分からないなんて…。
そんなの…。
「俺、もう一回トンネルに入ってきます。」
「…馬鹿ですか?」
辛辣。
「きっとあなたが行ったって、死人が増えるだけです。そんなことは緑塚さんは望んでいないはずですよ。」
「そんな言い方…!」
「いいから落ち着いてください。あなたができることはこれ以上犠牲を増やさず、正しい情報を持つことです。」
…。確かに、自分が行ったって何もできない。
本当にこれで終わりなのか?こんな一瞬で?
沈黙が辺りに広がった。太陽は暗く照り続けている。
しばらくして、パトカーのサイレンが聞こえてきた。落ち着いたら落ち着いたで、…なんだが目眩がしてくる。何も為す術もなく、また気を失った。
「ん…?」
頭上で声がしたのを聞いて、目が覚めた。
「あ、起きましたか。」
「池田さん…?ここは…?」
「ここは病院です。あなたがまた倒れたので、とりあえず救急車に運んでもらいました。」
確かに寝転がっているものが柔らかい。ベットだろう。それに天井が真っ白だ。
「その指。黒いですね。大丈夫でしょうか?」
驚いて両手を見る。左手の指…本当だ。全部変色している。例えるなら…あのトンネルの中のような…
「これって…。」
ふと気づいた。
「池田さん、そこにあるペンを渡してくれませんか?」
「あれですか?…はい。」
まずは右手で受け取る。もちろん問題ない。
次に左手で持ってみる。
コトン…
すり抜けた。これは…まるで…。
「指が…消えた…!」
(0*(・¥*(☆42-)
「あ、またこの音!」
なんなんだこの音は!不快だ!
「うるさい…!」
(0…$らいか?おーい。聞こえてるね?)
は…?人の声?
(やっぱり聞こえてるね。こんにちは。)
「…誰だよ!」
(僕は…そうだな。黒目。そう呼んでくれ。)
何だよ?誰だ?知り合い?
(もう、今さっき会ったばっかりだろ?)
さっき…?さっき…。トンネル…。
(黒、でわかんないかなー。君は頭が悪いのかい?)
トンネル…!
「緑塚さんは…どうした…!」
(あぁ、君の前にいた彼かい?もう吸収したさ。
僕の力の一部だよ。)
「お前!」
(まぁそんな怒るなって。何だい?君も吸収されたいのかい?)
はっ、できるものならやってみろ。ここはトンネルからはほど遠い位置にある。
(まぁ、それはそうだ。僕はあのトンネル内でしかほとんど力を使えないからね。)
いいのか?そんなに情報漏らして!
(問題ない。君たち人間に、僕は倒せないからね。お互い様さ。このぐらいしないとフェアじゃないだろ?)
というか、何だ?何で急に話しかけてきた?
(んー、まぁ簡単に言うともともと君の脳に少し《影》を落としといた。僕の一部さ。今、僕と君は繋がってる。)
何で俺に…。
(君のことが気にやってたんだよ!何かビビッときちゃって。)
もしかして、太陽がやけに暗かったのは、お前のせいでそう見えてたのか?
(そうだね。君に害を加えるつもりはなかったんだけど…。)
じゃあ、この指は何だよ!?
(おまけ。)
なんなんだよ!不便だろ!
(…じゃあ、こうしよう。左手の親指だけにしてあげる。)
…なんか大人しいな。
(おまけはこっちが勝手に着けてるからね。いらないと言うならしょうがない。)
なんだろう、なんか嫌なペースで話しかけてくる。
おしゃべりだしうるさいし。そもそも緑塚さんの敵なのに…。
「あの…?」
「…あ!池田さん?」
「大丈夫ですか?なんかずっと黙ってましたけど」
「すみません、いろいろ考えてました。」
(うわ〜。嘘ついてる〜。)
黙ってろ!
さて。緑塚さんについてです。
彼は、最期に佐藤を守れて嬉しかったようです。
今までいつも後方射撃(銃がライフルなので。)だった彼は、前線で仲間が倒れるのをずっと見てきたようですから。
彼が生き延びたのは、後輩を犠牲にしたわけでも、
異変が弱かったからでもありません。
運が強かったからでしょう。悪運が。とても。
黒目(仮)についてです。
人を舐め腐ってます。そんだけです。