魔王の軍勢
因果はめぐる。
いつの時でも。
「おい!神崎!起きろ!!」
耳元で木村がうるさく喋る声を聞いて、神崎は目が覚めた。朝はホテルで優雅にティータイム…、とはなかなかいかないものである。
「なんだよ…、宝くじにでも当たったのか?」
「のんきなもんだな!ちげえよ!外で剣持った人間が暴れてんだよ!」
「は?」
流石に慌てて飛び起きる。部屋の窓から外を見ると、なるほど、これはまずい。
なかなかな大人数で、剣を持ち、ホテルのちょうど少し奥の方で暴れている集団が見えた。
普通ならごりごりに銃刀法違反なので、自分のように異変調査屋の人間だろうか?それとも警察の目が届かなかったとか、そっちのほうがありえそうか。
「自警団が対処に行ってんだが、相手も人数かいるようで、なかなか苦戦してるようだ。俺たちも急いで加勢するぞ!!」
当然かも知れないが、異変調査屋は武器を持ち、異変に対処ができる。力を持つことは即ち、人命が脅かされる状況なら、それを守るため、どこでも武器を使ってよいのだ。もちろん、制圧のためが基本だが。
「まあ、今回は君の武器だよりになるかもね。」
「だから、武器って言い方はやめてくれよ。俺のは、『相棒』さ。」
そう言うと、木村は二丁の拳銃を取り出した。
「今日もイケてるぜ、相棒。…それより、神崎、準備は終わったか?」
「ああ。」
「よし、じゃあとっとと終わりにするぞ。」
こう話して居る内にも、どんどん騒ぎは大きくなっていく。人の避難がうまくいっていないのか。神崎は何となく面倒くさい気がしてきた。
「受付さん!ちょっと急用ができたから、一回外に出るぜ!代金はあとで払う!」
「え!?ちょ、ちょっと待って下さ…」
ホテルを出て、真正面をダッシュで駆け抜ける。ほどなくして、耳の痛くなる悲鳴が聞こえてきた。
「アイツラだ!剣を振り回している集団!」
何度見ても派手な人数いるな。ただ、服装のなりはほとんど一般人のようだ。最近の情勢に乗じた武装集団か、過激な宗教団体だろうか。
「だ、誰か!助けて!」
「…!まずい!」
見ると、今まさに襲われて切られようとする人がいた。首筋に剣が当たる。
「待てっ!」
ブシャッ!鮮やかな血が辺りに落ちた。
「くそっ!」
まだ間に合うかもしれない…!
「…いや、おい待て、近寄るな神崎!」
木村の焦った声が聞こえる。と、ここで気づいた。
今まさに目の前で倒れた人が、すぐに立ち上がり、深紅の剣を構えているのだ。
同時に、降り落ちた血は綺麗に消えていた。
「これは、きっと血で作られた剣だな。」
神崎はそういった木村の頭の回転の速さに驚きつつ、きっとそのとおりだろうと考えた。
「多分、騒ぎを起こしてる人たちも同じだ。一回切られてんだろうね!」
絶対に首を切られたはずだ。動けるということは、操られているのだろう。
それはまた、木村も思ったようで、面倒臭そうな顔を見せてきた。
「これ、この状況を引き起こしてる元凶を止めなきゃ終わらない気がするんだが。」
「まぁ、多分そうだろうね。まだ生きてる民間人を守りながら探してみようか。」
自警団の人たちのおかげか、まだ切られていない人はほとんど避難が済んだようで、避難できていない人は数人のようだ。
「急ぐか。」
「そうだね。」
木村が走り出す。民間人の救助は武器のリーチがある木村に任せるとして、自分は元凶探しだな。
「とりあえず、今暴れてる人を止められるか一応確認するか。」
ひとまず、近くに居る人の剣を砕いてみることにした。
「よいしょっと。」
バリン!
「思ったより脆いね。」
血の剣は軽く叩くとあっさり壊れてしまい、特に手応えは感じなかったが…。
砕けた剣が再び集まり始め、元の形に戻ったかと思うと、何事もなかったかのように剣先がこちらに向けられた。
「無理か。これ以上何も思いつかないし、本格的に探そうっと。」
「あァ…ァうェ゙…」
呑気に話してみたものの、巻き込まれた犠牲者たちの顔をみてると、どうにも苛立ちがわいてくる。
「やってみるか。菩式脚術、『片跳』。」
片足のつま先のちょい内側…に体重をかけ、思いっきり跳ぶ!
「うわ、これは凄いね!」
体感100mぐらいは飛んだだろうか?流石に跳びすぎたかも知れない。
「親父に加減の仕方教わるか…。」
とりあえず近くの手頃なビルの屋上に着地した。
少し足が痛い。
ともかく、上からはよく見えた。自分がさっきいたあたりはもうほとんど誰もいなくなり、軍勢は今や駅の方面に向かっている。
「お…、流石、仕事が早いね。」
木村のおかげか、民間人の避難は済んだようだ。
「彼らの中心はっと…、あ、あれかな?」
ぶっちゃけ中心にいたわけではない。術を使っていそうな人を見つけただけだ。そいつは、ただ一人血の剣ではなく、太陽の光を反射している剣を手に持っていた。
「もっかい片跳で移動してみるか。今度は横に、加減して…、」
ドゴォッ!
「あ、ビルの屋上が…。」
やっちまったぜ。これは帰ったら怒られるだろうな〜。
さて、そんな事を気にする暇があるわけでもない。加減はうまくいったが、今度は着地ができるかの勝負だ。
「軍勢がはけてるところに降りるか。菩式脚術、『片降』。」
ドォン!
…この技は、急降下と安全な着地を両立させた、奇襲用の技らしい。今回はちょっと違う用途かもしれないけど。
ともかく、今の轟音で多少の軍勢はこっちに注目がいったようだ。
「真剣を持っているやつを叩いてみるか。」
ドッ!お、ちょっと加減できた。
脚技を駆使して、どうにか親玉らしき人物に近づく。
こっちを振り向いた。
「あなたは…。この場を解決しにきた方ですね。」
「そうだよ。」
親玉らしき人も、他の操られている人と何も変わらず、一般人の装いで、静かに立っていた。
「端的に言う。この人たちを操っているのは君か?」
そう聞くと、その人は微笑んでこう答えた。
「きっとそうですね。私がこの剣で一人を切ったときから、人々は操られ始めました。」
「なんで笑っていられる?」
「なぜ?だって、死ぬときに苦痛のなかでいたくないのが普通でしょう?」
ここで神崎は気づいた。静かに立っていると思っていた彼の足は小刻みに震え、目には恐怖と罪悪感が浮かんでいた。血のべっとりと着いた青いズボンを、今すぐにでも切り落としたがっているらしい。
「もう、私に話せることはありません。もう話したくありません…。早く殺してください…。」
「…あなたをどうにか救うすべは?」
きっと、この人もまた操られているのだろう。斬られていないから、剣から直接に。神崎は救う方向で考えることにした。剣を操る術なのだ、もしかしたら、剣を壊したらそれで解決するかもしれない。
バキン…
「これは…、」
金属の剣は音を立てて壊れた。金属の剣は。
持っていた人は、今だ立ったままだ。
「無理か。」
一人だったら、諦めていただろうな、と神崎は思った。
「本当は君の力を借りたくはなかったけどね!」
「うるせえぞ!四の五の言ってねえでどけ!」
後ろから駆けてくる音が聞こえてきた。
知っている走り方をしながら。
木村勇治。こいつは元々医者志望だ。色々あって、今は銃を構えているわけだが。
さて、武器の性質がどのように異変調査屋メンバーにどのような影響を受けているか、知っているだろうか。
と、いっても、簡単な話である。
「その人の性質が、武器にも現れる」
その人の性格、生活環境、境遇、全てひっくるめて性質だ。…ここまで聞いたら、もうおわかりだろう。
「廻命弾!」
木村は左手の銃の引き金を引いた。
とぐろを巻くようにうねった挙動をしながら、弾丸が命中する。
ヒュン…バキン!
その弾丸は、操られていた人を殺すのに十分な位置を貫通した。しかし、瞬時に傷口からヘビが現れた。
「廻命弾…、最初の段階でまず一度、人命を奪う…。」
蛇はみるみるうちに巨大になり、撃たれた人を頭から飲み込み始めた。
「次の段階で、一度存在を消す。とは言っても、ほんの一瞬だ。」
蛇は全身を飲み込むと瞬時に内側から裂け始め、しばらくして完全に消えてしまった。そこには、軽く眠ったような状態で、操られていた人が横たわっていた。
「最後の仕上げに、全部元通り…だったかな、木村。」
「…もう一つ、一番忘れてほしくねえことがあるな。」
木村は左手の拳銃をしまった。
「これを使うと、一ヶ月は左手が一切動かなくなることだ!」
そういうなり、木村は痛そうな顔をしながらその場にしゃがみ込んだ。
「しっかし、いってえな。もう二度と使いたかぁねぇ。」
「だいぶ前に使った時もそうやって言ってなかった?」
あちらこちらでバキバキと音がし始めた。
剣で切られた人々は、左手から現れた蛇に、一人残らず頭から飲み込まれ始めている。
「神の使いは、よくも悪くも平等だ…!ヘビ様の治療、とくと堪能しやがれ!」
目の前の人が、完全に蛇に飲み込まれたのを境に、軍勢はどんどんと倒れていった。蛇の裂ける音があちらこちらで響く。
「これで、全員完全に元通りだよね。」
「そうだろうな。…もどらなかったら、もう対処は無理だな。そんときは諦めようか。」
神崎は、自分の剣が太陽の光を白く反射していることに気づいた。どうやら、いつの間にか昼に近くなっていたらしい。
「ま、たぶん大丈夫でしょ。」
「ふっ、そうだな。」
久しぶりです〜!
やっーと色々書き終わったよ!
今回と前回は神崎回ということで、結構張り切りましたよ。なんせ、勇者はカッコよくないとね。
まだまだ小説をうまく書けている自信がありませんが、
頑張っていきます!




