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亡国の王女を奪った戦鬼は死んだはずの婚約者でした  作者: 岡村なぎぼ
✦ 2部 ✧ 2章

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34/35

『白い鹿の約束』



 すっかり真夜中をすぎた部屋で、ルシナは完全に頭を抱えていた。


 ――やっぱり、審問(しんもん)の中身がわからないわ。


 具体的な証拠が新聞に載らないのは理解できても、目の前の情報は、献金着服の告発から粛清までの迅速な対応や、罪と罰の重大さにフォーカスしてばかりだった。


 公的に印象操作したいことや、民の興味を引くことに報道が傾くのは納得だが、ルシナは腑に落ちない。



「ここまで見つからないってことは審問は非公開だったのね。ギブス子爵の釈明(しゃくめい)の言葉くらい、どこかの新聞屋が盛りに盛って書きそうだもの……悪魔()きの言葉を見物人に聞かせるわけにいかなかったのかな……家族ぐるみでの関与っていったい何なの?」



 ギブス子爵家、そしてコーニーの裏切りが、どれほど前から計画されたものだったのか。何を思って王国で暗躍していたのか。ルシナが本来知りたかったことの答えは霧の中だった。


 半端に情報を得たことで、ルシナの中にもやもやした別の疑念が渦巻いてしまう。


 だってこんなのまるで――|審問から目を反らさせたい《・・・・・・・・・・・・》みたい。



「あは、何考えてるの」



 声だけ笑ったルシナの顔はこわばっていた。



そうだったら(・・・・・・)コーネリアスが私に言うはずよ」



 10年前も。再会したばかりの初夜のときも。



「……詳しいことは、審問記録とか収支記録の中ね」



 ギブス子爵の計画には血縁やごく近しい人の協力があったはず。だからこその粛清だろうし。コーニーも子どもとはいえあの知性。むしろ大胆な犯罪なら、怪しまれない子どもに手伝わせるのが良さそうだわ。実際、ゴーストだって浮浪児をうまく動かしていたし。


 ふーっとルシナはため息をついた。



「これ以上はゴーストでもさすがにアクセスできな……いや、できそうで怖いわ。でもなんて言って頼むのよ……またカササギを寄こすって書いてるけど……」



 私――まだ知りたいの? この屋敷に来たばかりのころは、初恋を捨ててしまいたかった。コーニーを……コーネリアスを嫌いになってしまいたかった。だから彼は出会ったときから最低最悪の人間だと納得したかった。今は――


 ピリ、と紙のはしを細くちぎり、ルシナは羽ペンを走らせた。



︵︵︵︵︵︵︵︵︵︵︵︵

親愛なるゴーストへ

調べものをありがとう。

とても勉強になりました。

協力はもう十分です。

いつかまたどこかで。

︶︶︶︶︶︶︶︶︶︶︶︶



 ――彼は憎しみを抱えていても私を好きだと言った。だったら私は、彼の罪ごと今の彼に向き合っていく。コーネリアスがどんな人間でも、私は彼を愛してしまうのだから。



「過去はいらないわ」



 つぶやくと、カーテンごしに夜風がふわっと入りこむ。それは机の上のスクラップをなでて、数枚の紙を落とした。



「窓、あけたままだった」



 ルシナは腰をあげて、片付けをはじめる。



「……なに、これ」



 拾う手をとめたのは、記事の見出しについ気を取られたから。



「『ハンティントン王宮の地下には伝説の神殿が!? 考古学者100名の証言!』……?」



 雑な()りの冊子やビラ。ルシナが整理したスクラップの〝関係ないほう〟の山の中にあったらしい。他の見出しも大げさで、『石扉(せきひ)の奥に眠る王家の秘宝! 選ばれし者の前で扉はひらかれる! 闇に消えたトレジャーハンター!』『聖獣を見た! 北部神殿の森に謎の影!』などなど。



「たしかに宗教建築に関わるけど……いいかげんすぎるわ。何が『激論!』よ。誰もいないくせに」



 呆れた声が漏れる。〝関係ないほう〟には民間伝承やおとぎ話にまじってくだらない都市伝説の資料まであった。



「こんなの集めなくていいってば。ゴーストったら」



 火のついていない暖炉(だんろ)に紙束をぜんぶ投げこむルシナ。資料を抹消(まっしょう)するためだ。そっと蝋燭から火を移す。ゆっくり燃えていくのを見ながら、ルシナは眠気に襲われてまどろんだ。


 ――くだらないけど、なんだか懐かしいな。アストニアに来て短いけど色々あったから、こんなビラだけど神殿や聖獣にふれた気が久しぶりにする。



「聖獣よ、私をこの運命に導いたのはあなたでしょうか」



 火の前でルシナはそっと手を組んだ。



「私の怠惰をお許しください。気持ちを新たに励んでまいります。私を見守りください」







··•••✤•••··白い鹿の約束··•••✤•••··



むかしむかしあるところに

暗い森と霧ばかりの村がありました



恐ろしい森には

願いを叶える白い鹿が住んでいて

ふさわしいものの前にだけ現れると言います



飢えと病で困っていた村を助けるため

ある兄弟は森へ行くことにしました



兄は強い子で弟は賢い子でした



森の中でふたりは力を合わせて

勇気と知恵で危機をのりこえます



すると白い鹿がどこからともなく現れました



――勇気と知恵のある兄弟よ

――願いを叶えましょう



ふたりはひざまずいて願いました



――どうかこの地に豊かな実りと安らぎをください



すると泉がわきあがり畑は息を吹きかえし

村に笑顔がもどりました



白い鹿は兄に告げます



――お前は民を守り導きなさい



兄は民を導く王になりました



白い鹿は弟に告げます



――お前は兄の誓いを支え広めなさい



弟は神殿をつくり(おさ)になりました



白い鹿はふたりに告げます



――愚かものや怠けものに恵みは与えられません

――民が勇気と知恵そして真心をもつ限り

――この地は恵みに満たされるでしょう



王と長は白い鹿と交わした約束をずっと守りつづけました

人々は白い鹿への感謝と祈りをこめて神殿の灯を絶やさぬようにしました



こうして村は森の恵みを授かる国ハンティントンになりました

白い鹿は今もどこかでハンティントンの民を見守っているのです



··•••✤•••····•••✤•••····•••✤•••··







 せわしない職人街の夜空を静かに飛んできたカササギが、3階の窓辺に舞い降りた。ひらいた窓の奥にカササギは消える。数秒後、その部屋から叫び声が通りまで響いた。



「はぁ!? なんだアイツ!!」



✦ つづく ✦

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