いっそ殺してしまおうか
「……よその臭いがする」
コーネリアスの熱い手と背中にふれる冷たい扉。挟まれたルシナは身を固くした。
「外は楽しかったか?」
「……」
「帰りが遅いじゃないか」
――怒ってる。予定通りなのにどうして。しぶってはいたけど外出は許してくれたのに。
「ホルム公爵夫人と話しこんでしまって……」
「へぇ」
コーネリアスは私に公爵夫人が教会派の政敵だと言わなかった。彼の狙い通り、無防備な私がひどい目にあって逃げ帰ってくればよかったのかしら。
「あの、彼女が教会と親しいと知らなくて……恥をかきました」
つい彼の機嫌をとろうとごまかすようなことを言うが、ルシナの声は震えた。
「もうどこにもいかないよな」
「……」
迷ったがルシナは口をひらいた。
「……公爵夫人が夜会に招待してくださるそうです。貴方にも会いたいみたい」
「……」
「行きませんか。今度はいっしょに」
「よかったな、気に入られて」
セリフとは反対に彼の声は硬い。コーネリアスは腕をゆるめるとルシナを鋭くみつめた。
「他人の気を惹くのが得意なんだな。どれだけ声をかけられた?」
「え、と……」
「監視をつけていないとでも?」
「……」
それは想定していたことだけど、「好きにしていい」と言っていたのに。
「貴方を忘れていたわけじゃ……むしろ大佐夫人として努めたまでです」
「大佐夫人として? 君が勝手に言いだした役目だろう」
ぐいっとルシナの腕を強くひき、コーネリアスは踵を返した。
「やさしくしてもわからないなら――もうやめる」
身体ごと引っぱられて足がもつれたルシナを、彼がベッドに放り投げた。
「きゃっ」
「さっさと逃げ帰って泣きついてくればいいものを。俺の前でいつもしている辛気臭い顔はどうした」
うつ伏せからおそるおそる振り返ったルシナは、コーネリアスの顔をみた。西日が照らす彼の瞳は不気味に光った。
「ゃ……」
悪い予感に逃げようとするルシナの腰を彼が引きずり戻す。
「逃げるな。俺だって……もう終わらせたいよ。君に振り回されるのは」
「なん……」
「頼むからわからせてくれ」
ルシナを押さえつけながら、彼は片手で自分の服をゆるめた。
「だって君にそんな価値はないんだろ」
「――っ」
ぴた、と熱いものがあてがわれたと思った瞬間、うしろから無理やりねじこまれる。
「んッ、ぁ……」
この角度……すぐ奥に当たっちゃう……っ。
身体の力がひとりでにぬけて、ルシナはおしりだけ持ちあげた格好でつっぷす。コーネリアスが喉で笑った。
「慣れてきたな。覚えたか?」
ごつごつ、と奥をノックしながらコーネリアスはルシナのコルセットの紐をほどきはじめた。
「こうしてれば君もただの女だ」
「ふ……ぅ、あ♡」
いきなりされてるのに、私……なんで……? 抵抗できない……っ♡
粘膜がこすれあう音に甘い声がたえまなくまじり、ルシナの目はどろりとぬかるんだ。
おなか、あつい……♡あたまおかしくなる……♡
「はぅッ♡!」
ぼんやりしていたところ、勢いよく一番奥までど突かれて、太ももががくがく震える。気がつくとルシナはすっかり丸裸にされていた。コーネリアスがさらにルシナをわしづかみ、しつこいストロークがはじまった。
「むかつくんだよ! 大勢まざった香水のにおいさせて! ヘラヘラ笑って!……俺が好きなんて嘘つきやがって!」
「ちが、まって、や、~~~~ッッ」
腰が反ってシーツにさらに沈みこめば、ルシナの泣き声はくぐもって、肉同士がぶつかる音にかき消された。
ひどい……っ♡おなかやぶけちゃうのにぃ……っ♡きもちいのとまんない……♡
叩きつけられてはきゅんと締まり、引き抜かれてはナカがうねるのをくり返して、ルシナが何度も限界を迎えていると、コーネリアスのほうも短く息を吐きながら声を漏らす。
「ぅ」
彼がうなると同時にぴったりと肌がくっつき、奥に熱いしぶきが注がれる。
「~~~~♡」
ちかちかする視界でルシナがぼうっとしていると、背中から楽しそうな声が聞こえた。
「どうした、自分で腰ゆらして」
「へ」
ルシナがのそりとシーツから顔をあげれば、言う通りにへこへこ情けなく動くおしりが目に入った。
「だらしないな」
そう言われて恥ずかしさが一気に押し寄せると、まだつながったままのところから、しょわ……とあふれ出たものがシーツを濡らした。
「……ぁ、え」
おろおろしているルシナを無視して、意地悪に笑ったコーネリアスが彼女におおいかぶさる。身体ごと押しつぶすと、生々しい音がにじんだ。
「ッハ……いいなこれ、とても王女様には見えない」
「ひ、ゃっ♡ぐりぐり♡だめ……っ」
「ん? ぐりぐりダメ?」
やけに甘ったるく言われてルシナはぞくぞく震えた。先でナカをえぐるように容赦なくつぶされる。
「もういらないぃ……♡」
大事なとこぜんぶぺしゃんこにされる……♡もっかいクる……っ♡
「ふ、ぅ~~~~っ♡」
つながったところからぷしっ♡ぷしっ♡と小刻みに吹きこぼすと、コーネリアスの腹を濡らした。
「せっかく射精したのにこぼすなよ」
「ひ、ぎっ」
執拗に奥にぬりこむ動きでコーネリアスはルシナを追いつめた。身じろぎもできないままイかされつづける絶望感でルシナはぽろぽろ泣いて叫んだ。
「死んじゃうっ、死んじゃうぅ~~っ」
喉にコーネリアスの手がまわりこんだ。
「ひゅ、」
頭を起こされ首が締まる。耳元で彼の口がひらいた。
「そうだな……いっそ殺してしまおうか」
「――……」
「こんなつまらない女になっても、どうでもよく思えないのだから」
淡々とした口調。
「俺のものにならないなら、せめて他のやつの目にふれないようにしよう」
ルシナはよわく首だけ振った。
「いや?」
ルシナの涙がコーネリアスの指を伝って落ちる。
「いいだろ俺も死ぬから。それで、俺とずっといっしょにいればいい」
「……」
「いやか」
泣くだけで反応しない彼女をコーネリアスはそっと手を離して解放した。
「ケホっ、はーっ、はっ、はー……」
「ルシナ」
必死に息を吸うルシナの髪を――ゾッとするほどやさしい手つきでコーネリアスが梳いた。
「身体はすっかり堕ちきったのをわかってるよな。あとは――肩書きも役目も誇りもすべて捨てて、心までまるごと寄こせ」
「……」
「何を企んでるか知らないが君のほうから俺の復讐心を満たすなんて言うなら、俺が望むものを正しく理解しろ」
✧ ✧ ✧
「低めのネックラインでデコルテの装飾が映えるようにしましょう」
アシュフォード邸のドレッシングルーム。サンプルファイルがルシナの前でめくられていく。訪ねてきたテーラーにさきほど採寸をしてもらったところで、今はデザインを提案されている。ルシナの隣に座る若侍女――セリーナは存在感を消して参加していた。
今朝、セリーナがルシナに伝えた予定は仕立て屋との打ち合わせで、「夜会に向けてドレスを新調するよう旦那様が仰せでしたので」とさらりと口にした。
コーネリアスは公爵夫人の招待を蹴るものと思っていたけど。どういうこと? バザーの日、帰ってきた私に「俺以外に興味を持つな」とか言ったばかりなのに。何かの罠なのかな。「俺を理解しろ」みたいなことも言ってたのに、なんでめちゃくちゃなことをするの? もうわかんないよ。
モヤモヤしながら打ち合わせに向かったルシナだが、人を前にすると習慣的に「感じよくしなければ」と思ってしまう。愛想笑いを貼りつけていると、ここにいないコーネリアスになんとなく後ろめたい気がした。
「宝石もいいですが……」
テーラーの進行にあわせて、針子らしき娘がレースのサンプルを並べていく。ルシナは我に返って、目の前のことに集中しようと切り替えた。
「夜会は蝋燭光で影が上品に見えますからレースで立体感を出してはいかがでしょう」
「手編みレースは影がきれいですよ」
針子は並べおえたサンプルのうちいくつかをルシナのほうにすべらせた。ルシナはちらりとセリーナの様子を気にした。
好かれていないとはいえ私の侍女だし、セリーナと関係を築くべきよね。専属侍女は女主人のドレスアップをサポートするのに誇りを持っているものだし。
「セリーナはどう思いますか? アストニアの流行りも取り入れてみたいわ」
「奥様のお好きになさってください。場違いなものであれば意見申しあげます」
うう、取り付く島もない。相手が私じゃなければこんな子じゃない……よね。
嫌な汗をかきつつレースに視線を戻したルシナは、ひとつに手をかけた。
「フチが際立っていてきれい……これを使ってみたいですね」
「そちらは私の手作業ですわ。気に入っていただけてありがたいです~!」
パッと笑顔になったのは針子。
「他にもご覧になりますか?」
言っている途中から、針子は小さな缶の中から別のレースを出しはじめた。
「あまりレースでは見かけない草花の模様もありますし……」
「あら、猫ちゃん……!」
「はい! こっちは鳥さんです」
テーブルのうえに変わり種レースが並んでいく。
「こらこら、使えないものをお見せしても……」
テーラーがやんわりとめるが、ルシナは「かまいませんよ」と伝えた。
「ドレスを仕立てるのは久しぶりだから緊張していたけど、貴女が楽しい人で助かりました」
ルシナの可憐な微笑みに、テーラーと針子は思わず顔を赤らめた。
✧ ✧ ✧
あれこれ見せてもらって使うことにしたのは、オーソドックスな花文様から少しこだわったチューリップ柄のレースになった。
「レースをカフスとデコルテにあしらい、裾はシンプルに仕上げると洗練された印象になるかと。生地はシルクの中で光沢が少ないものにしてレースが映えるようにしてはいかがでしょう」
「けっこうです。ベースは何色がいいでしょうか。夜のパーティーに正式に行くのははじめてなもので――」
華やぐ三者の輪にまざらず、セリーナは冷めた表情を隠さなかった。
✦ つづく ✦




