表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡国の王女を奪った戦鬼は死んだはずの婚約者でした  作者: 岡村なぎぼ
✦ 2部 ✧ 1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/35

勝敗の行方



「公爵夫人のクイーン(一番強い駒)(ナイト)に獲られてしまったわ」



 ルシナが退場させた黒い(クイーン)にギャラリーの視線が集まる。



「でも、(ナイト)(ルーク)で取り返すから……アシュフォード夫人の(クイーン)を消せれば公爵夫人に勝ち目があるわよ」



 貴婦人たちがささやきあう中、黒い(ルーク)(クイーン)の進路をふさいだ。ここからは強い駒の取り合いになる。ゲームの終わりが近い。ルシナは(クイーン)を守るために(ルーク)の射程から逃れた。



「ちょっと待って、白い(ルーク)の道もひらいてた! 前線に加勢に来られる位置だわ。アシュフォード夫人、いつの間に……?」



 と、その貴婦人は言葉を切って考えこむ。盛りあげる力がルシナにあることは観戦する彼女にもわかった。


 ――さっきの(ビショップ)を捨てた挑発はやりすぎかもしれないけど、これはうまい接待だわ。


 その間にも公爵夫人が(ルーク)を進める。



「え、(ルーク)(クイーン)の射程に入った!? アシュフォード夫人に獲られちゃうんじゃない!?」


「あの(ルーク)は餌よ。(クイーン)が食いつけば(キング)に食い返されてアシュフォード夫人は攻撃の(かなめ)を失うわ。この終盤でそれは出来ない」


「そうか、公爵夫人は()のサポートがあるから(ルーク)を突っこませていいのね」



 対峙するふたりはテキパキと駒を進めていく。お互い先が読めているようだった。ルシナの(ルーク)が一直線に走った。



(ルーク)が加勢に来た!」


「ルーク対決ね。えーと……この順番だと……」



 いつの間にか離れて座っていた貴婦人たちまでテーブルのまわりに集まっている。



「あ、結局白も黒もルークをなくすのね」


「終盤は思いきって強い駒を相討(あいう)ちにしたりするのよ」



 ルシナと公爵夫人が交互に指すとルーク同士は盤から消えた。



「公爵夫人、相手の(クイーン)味方(ルーク)を削ったのね」


「そう。(クイーン)が単独で攻めてくるけど、(キング)は射程圏外。残った(ポーン)も守備にいるから逃げきれるわ。アシュフォード夫人は一度さがって立て直すか、引き分け――」



 解説していた彼女は急に口をつぐんだ。



「!?」



 スッと白い駒が斜線を走る。



「ビ、ビショップ……?」



 ルシナのもう一体の(ビショップ)チェック(王を攻撃した)



「……」



 公爵夫人は長いため息をついた。が、それには笑みが含まれている。



「はぁー……、(ビショップ)……見えていなかったわ」


司教(ビショップ)も大事にしていますよ。作戦もなくタダで獲らせたりなんてしません」


「こんな意地が悪い子はじめてよ」



 そう言いつつも公爵夫人は笑っている。ルシナもはにかんだ。ふたりの様子と対照的にギャラリーはざわつき、動揺している。ずっと前かがみになっていた背を伸ばしながら、公爵夫人は――



「私の負けね」



 投了(とうりょう)した。これ以上指しても無駄だと認めたのだ。



「こんなにボコボコにされたのは久しぶりよ、ふふふ」


「すみません……手を抜きたくなくて……公爵夫人は勝ちを譲られて喜ぶ方ではないと思いまして」



 それに、本人もわかっているでしょうが――お上手とは言え、とても夜会で紳士たちをバッタバタ(・・・・・)倒せる腕前とは思えなかった。いつもは忖度(そんたく)されていることが伺えるわ。


 公爵夫人はニヤニヤしはじめた。



「へぇぇ、余裕の勝利ってこと?」


「いえいえ、公爵夫人のおかげで刺激的なゲームにできました。強い方相手でないとああは行きませんから」


「まったく嫌味ねぇ。この子、度胸あるわ。あんなにイジめたのに」



 ルシナは恥ずかしそうにティーカップに口をつけた。このお茶会でようやくまともにお茶を飲めた瞬間だった。


 アシュフォード家が公爵家と対立していて、私の好感度が最悪だと知っても――弱気になっていてはダメ。縁を作るチャンスは今日しかないのだから。それに冷静に考えたら、彼女は多少の無礼を許してくれる度量がありそうだったし。


 公爵夫人のチェスの豪胆(ごうたん)なスタイルがルシナにそう思わせた。楽しそうにゲームの終わった盤をきょろきょろとながめる公爵夫人を見て、ルシナは自分の読みが当たったとホッとした。ゆっくりお茶を流しこむルシナの耳に、公爵夫人のつぶやきが入りこむ。



「私はどこで間違えたのかしら」


「感想戦をしましょうか?」


棋譜(きふ)を覚えているのね。やりましょやりましょ」



  ✧  ✧  ✧



 教会の脇道は馬車寄せになっていてバザーから引きあげる人でごった返していた。馬車を待つ紳士淑女の中にルシナの姿もある。彼女は今日の出来事を思い返していた。



「公爵家のサロンに今度いらっしゃいな。また指しましょう」



 公爵夫人はそう言ってくださった。次の外出の機会――しかも社交界の大物からの招待が期待できる。よかった。サロンは読書会かしら。調べものがはかどるといいけれど――



「きゃああああ!」



 興奮した叫び声が往来を突き破った。



「な、なに?」



 騒動の起点らしきほうにルシナが目を向ける。視線の先で白い紙が舞っていた。



「ゴーストよ!」


「私にもちょうだい!」


「ちょっと! 踏まないでくださいませ!」



 わけのわからない悲鳴やら怒声やらが広がり、ルシナの並ぶところまで人のうねりが一瞬でやってきた。息苦しい人波に押され、ルシナはもみくちゃにされる。



「きゃっ」



 よろけた勢いのまま、石畳が彼女の目の前に迫った。


 ――転ぶ!


 けれど、ルシナの体はふわっと浮かんだ。



「また会いましたね、アシュフォード婦人」


「貴方は……」



 透けるような輝きの青年がルシナを支えていた。



✦ つづく ✦

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i000000 i000000
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ