第3話 中編
証拠の発見で場がざわつく。
主婦は顔面蒼白で震えて後ずさり、ヒステリックに主張した。
「えっ、な……何それ。知らない! あたしは知らないっ!」
必死に否定する主婦に対し、遠塚は平常心を崩さなかった。
彼は会話に応じることなくビニール袋を掲げる。
そして警官達に聞こえるように説明した。
「玄関で被害者を刺殺した後、血の付いた凶器と衣服を庭に隠して着替えたのだろう。粗末な処理を見るに、後で別の場所に廃棄するつもりだったのか……よほど慌てていたようだ」
「……っ」
主婦は言葉を詰まらせて震えている。
遠塚はビニール袋を近くの警官に差し出した。
「彼女の指紋が残っているかもしれない。確認してくれ」
「は、はい」
警官は神妙な様子で受け取ろうとする。
それを主婦が割り込んで止めた。
彼女は遠塚の腕を掴んだまま振り絞るように懇願する。
「やめて、もう……」
「自分が犯人だと認めるのか」
「違う! あたしは、やってない! 殺人犯はあんたよ!」
涙を浮かべた主婦が怒気を露わに叫ぶ。
やり取りを見る警官達の態度は数分前から反転していた。
証拠が揃ってきたことで、懐疑的な視線は主婦だけに向けられている。
担当刑事の五十嵐も険しい眼差しで主婦を睨んでいた。
遠塚は表情を変えず主婦に問う。
「ピザの配達を頼んだのは被害者か。それともあなたが罪をなすり付けるために呼んだのか」
「…………」
「答えなくてもいい。そこは通話履歴で確認できる。注文時の声を分析すれば――」
「うあああああああぁっ!」
次の瞬間、主婦が絶叫した。
彼女はビニール袋から包丁を抜き取ると、いきなり遠塚に切りかかる。
警官達は「あっ!」と言って駆け寄ろうとするも、その時には既に終わっていた。
迫る包丁に臆することなく、遠塚は紙一重で躱しながらローキックを放つ。
無防備な軸足を蹴られた主婦は、悲鳴を上げて転倒した。
倒れた拍子に手放された包丁が滑っていく。
主婦は苦しげに呻くばかりで立ち上がることができなかった。
その姿を見下ろす遠塚は、呆然とする五十嵐に声をかける。
「手加減はした。拘束してくれ」
「あっ、はい……」
五十嵐は主婦に手錠を着けて、他の警官に連行させた。
証拠品のビニール袋を受け取った彼女は、畏怖の視線を遠塚に向ける。
「あなた……本当に何者ですか?」
「ただのピザ屋だ」
過去を想起しながらも、遠塚は淡々と答えるだけだった。




