第3話 前編
唐突に指摘された主婦は、周囲の警官を見てから仰天した。
彼女は戸惑い気味に遠塚を睨む。
「な、何言ってるのよあんた……」
「だから犯人はお前だ。俺に罪をなすり付けようとしているだろう」
「言いがかりよ! 早くコイツを逮捕してっ!」
主婦が激昂し、警官達に訴えかける。
警官は異様な展開に困惑しつつ、遠塚を再び包囲した。
そこに割り込んだ五十嵐が代表して遠塚に問う。
「彼女が犯人という証拠はありますか?」
「勘だ」
遠塚は冷静に断言する。
彼は主婦が真犯人であることを確信していた。
発言通り証拠は何もないが、殺し屋として培った嗅覚がそう告げているのである。
遠塚の目には、主婦から殺人者特有の気配が滲み出しているように見えていた。
事情を知らない五十嵐は呆れ返ってぼやく。
「勘ってあなた……」
「だが証拠はすぐに見つかるだろう」
遠塚が警官達の隙間を抜けて敷地外へと歩き出す。
彼が向かったのは隣接する主婦の家だった。
五十嵐は慌てて追いかける。
「ま、待ちなさい!」
「逃げない。証拠を探すだけだ」
玄関扉に触れようとした遠塚は、ふと立ち止まる。
彼は家の外観を見上げながら思考を口にする。
「死体を見るに、死亡推定時刻は一時間以内……つまり俺が発見する直後に殺されていた。証拠隠滅の猶予はない。つまり今の段階では粗雑に隠されているはずだ」
「それってただの憶測ですよね」
「指針としては十分だ。外れれば別の観点から推理すればいい」
遠塚は家の中には入らず、建物の外周を観察し始めた。
あちこちを注視し、僅かな手がかりも見逃さないよう集中する。
「血の付着した凶器を室内に持ち込めば、あちこちに血痕が付く上に臭いも残りやすい。屋外ですぐに洗い流せる環境となれば、自ずと候補は限られる」
「やめて! 勝手に入らないで! 不法侵入よ!」
遅れてやってきた主婦が、血相を変えて遠塚に掴みかかる。
それをノールックで躱した遠塚は中庭で立ち止まった。
彼は水道付近に屈み、赤い汚れを発見する。
続けて庭の不自然に盛り上がった土に近付くと、落ちていた子供用のスコップで掘り始めた。
主婦は絶叫しながら止めにかかるも、五十嵐と他の警官が羽交い絞めにする。
やがて遠塚は地中からビニール袋を見つけた。
そこには血だらけのセーターと、水で濡れた出刃包丁が入っていた。




