第2話 後編
三十分後。
現場には大勢のの警官が集まっていた。
立ち入り禁止のテープで区切られた中、遠塚は数人の警官に包囲されている。
そこにスーツ姿の女刑事が現れた。
刑事は警察手帳を開いて遠塚に見せる。
「はじめまして。五十嵐です。少し質問してもいいですか」
「構わない」
「遠塚蛍さん……年齢は三十歳。職業は?」
「ピザ屋のバイトだ」
「うん。まあ見れば分かります」
五十嵐は遠塚の制服を一瞥して頷く。
彼女は少し離れた場所にいる主婦を見ると、事前に渡された資料を読み直す。
「通報者――被害者宅の隣人によると、あなたが人を殺した瞬間を目撃したそうですが……」
「殺していない。配達で家に来たら死体を発見した。店に連絡を取ればアリバイは証明できる」
「死亡推定時刻によっては、あなたの犯行である可能性は拭えませんがね」
「死体は滅多刺しにされていた。服が返り血で汚れていないのは不自然だろう」
「数分あれば着替えるくらいできますし、犯行時にレインコートを羽織ることでも対処できますね」
五十嵐が冷徹な眼差しで遠塚を睨む。
遠塚は表情を変えずに尋ねた。
「何だ」
「臭うんですよね、あなた……一般人ではないでしょう」
「身分証は見せたはずだが」
「それで騙せると思いましたか?」
五十嵐が遠塚に顔を寄せる。
彼女は疑念を露わに畳みかけた。
「殺人の容疑者なのに冷静すぎる。不安や焦りがまったく感じられない。確かにあなたは今回の事件の犯人ではないかもしれない。だけど真っ当な市民でもない」
「俺はただのピザ屋の店員だ」
「さあ、どうでしょうね。あなたのことは徹底的に調べさせていただきます」
「刑事だとしても横暴じゃないか」
「ええ、横暴ですとも。文句は署で聞きますよ、遠塚さん」
挑発された遠塚は無言で五十嵐に詰め寄る。
周囲の警官が動き出そうとするも、五十嵐が手で制した。
彼女はさりげなく拳を構えて忠告する。
「抵抗すれば公務執行妨害で逮捕します」
「違う。冤罪を晴らすだけだ」
遠塚はおもむろに歩き出した。
彼の放つ威圧感に、五十嵐や他の警官は動くことができなかった。
自然と開けられた道を遠塚は堂々と闊歩する。
彼が進んだ先にいたのは通報した主婦だった。
出勤前に視た推理ドラマを脳裏で再生しながら、遠塚は主婦を指差して告げる。
「犯人はお前だ」




