第2話 前編
こじんまりとした部屋で、遠塚はソファに座ってテレビを観る。
画面には推理ドラマが映し出されていた。
展開は佳境らしく、探偵が容疑者の一人を指差して勇ましく宣告する。
『犯人はお前だ!』
その後、探偵による推理が披露され、犯人は逮捕された。
次回予告が流れたところで、遠塚はふと呟く。
「……探偵か。いいな」
遠塚の双眸に憧れの感情が見え隠れする。
彼はスマートフォンでドラマのタイトルを検索し、SNSで感想や考察をチェックした。
それらの意見を鋭い眼差しで精査し、時にはメモ帳に記録する。
一通り満喫した遠塚は、その余韻に浸りながら昼食の支度を始めた。
ニュース番組を横目に肉と野菜を切り、それらを耐熱容器に入れてレンジで加熱する。
数分後、湯気の立つそれをテーブルに置き、ポン酢につけて食べる。
遠塚が黙々と食事をする間、ニュースキャスターが政治に関する報道を行っていた。
ただしドラマの時とは異なり、遠塚が興味を抱いた様子はない。
彼の頭の中は、先ほど憧れた探偵の姿が何度も過ぎっていた。
食事を終えた遠塚は上着を着て自宅を出発する。
彼は交通ルールを守って住宅街を走る。
駅前に繋がる交差点で青信号を待っていると、彼は背後から迫る足音に気付く。
振り返るとそこには川瀬がいた。
川瀬は穏やかな笑みで話しかけてくる。
「こんにちは、遠塚さん」
「ああ」
短く応じた遠塚は自転車を降りて歩く。
川瀬は何を言うということもなく隣をついてきた。
「これからピザ屋さんに出勤ですか」
「そうだ」
「本当に一般人として暮らしてるんですね。見事に馴染んでて驚きましたよ。傍目にはもうわかりませんね」
「ああ」
「退屈に感じませんか?」
「感じない」
遠塚は迷いなく断言した。
その様子に感心しつつ、川瀬は笑顔で言葉を続ける。
「復帰したい時はいつでも仰ってくださいね。遠塚さんなら大歓迎ですから」
「殺し屋はもうやらない」
首を振る遠塚を見て、川瀬は足を止めた。
彼は真剣な表情で言う。
「……遠塚さん。あなたは生粋の殺し屋です。いくら否定しようとそこは変えられません。平穏な人生なんて訪れませんよ」
「勝手に決めるな」
遠塚は自転車に乗って漕ぎ出し、あっという間に加速して川瀬を置いて走り去った。
川瀬は小さく嘆息すると、来た道を戻り始めた。




