第1話 後編
二日後。
遠塚は瓦礫の山に立っていた。
そこはかつて彼が所属していた組織の本部だった。
組織のボスを筆頭に数十人の殺し屋は屍となり、瓦礫の下に埋まっている。
唯一の生き残りである川瀬は、顔面蒼白で腰を抜かしていた。
彼は目の前まで迫ってきた遠塚を前に震えることしかできない。
「と、遠塚さん……」
「どうも」
遠塚は無表情で会釈する。
たった一人でノンストップの殺戮を引き起こした直後にも関わらず、彼は微塵も息を乱していなかった。
己の死を悟った川瀬は尋ねる。
「なぜ組織を壊滅させたんですか」
「円満に引退したかったが、結局こうなってしまった。すまない」
「だからって、いくらなんでもやりすぎでしょうが! 手加減ってものを知らないんですかあんたはっ!」
怒鳴った川瀬の首にナイフが添えられた。
彼は指一本動かせずに怯える。
「ひっ」
「力の誇示は徹底しろ――組織に植え付けられた言葉だ」
ナイフを投げ捨てた遠塚は、冷めた目で振り返る。
瓦礫を一瞥した彼は淡々と語った。
「先に攻撃を仕掛けてきたのは組織だった。俺は平和的に解決しようとした。自業自得だ」
「で、ですがここまでの被害を出したら、あなたは永久に狙われます。死ぬまで命を脅かされる日々でいいのですか」
「構わない。俺の人生を邪魔するなら殺すだけだ。組織のために培ったこの力を、今度は自分のために使う」
遠塚の双眸には決して揺るぐことのない意志が宿っていた。
それを目の当たりにした川瀬は思わず訊く。
「そこまでの覚悟で引退して……あなたは一体何が目的なんですか?」
「やりたいことができたんだ」
「や、やりたいこと?」
「じきに分かる」
踵を返した遠塚は、静かにその場から去っていく。
少し歩いた後、彼は振り返らずに川瀬に言った。
「俺は一般人として暮らす。邪魔が入らないよう根回しを頼む」
「は、はぁ……」
川瀬は曖昧な返事をすることで精一杯だった。
◆
翌週、川瀬は駅前にいた。
目の前には紫色の飲食店がある。
看板には「ウルトラピザ」という文字があった。
(遠塚さん、この店で待ち合わせって聞いたけど……)
川瀬は恐る恐る自動ドアを通って入店する。
その直後、彼にはつらつとした声が投げかけられた。
「いらっしゃいませ! ご注文をお伺いいたします!」
制服を着て笑顔でレジに立つのは遠塚だった。
彼は満ち足りた表情でピザの注文を待っている。
「そ、そんな馬鹿な……」
川瀬は唖然としつつも、マルゲリータピザを注文した。




