ep82 魔王ヤルグ
何も言わず睨み合う2人。
ヤルグの手から闇球が現れるとヒルダもまた水球を作り出した。
2人同時に投げ放つと両者の間で大きな爆発が起きる。
ヤルグは爆風の中に突っ込み、右手でヒルダの首を狙う。
屈んで躱したヒルダが紫水を纏わせた拳で腹部を殴る。
衝撃が走るが、ヤルグはそのまま左手でヒルダを殴り飛ばした。
壁に激突する前に紫水の壁を作り出し、衝撃を吸収する。
ヤルグは追撃に闇球を放つが、ヒルダは紫水の壁をそのまま前に移動させ、闇球に当たり爆発した。
爆風の中からヒルダが飛び出してくる。読んでいたヤルグは地面から闇の魔力を弾けさせる。
魔力に当たったヒルダは紫水へ変わり四散した。
「虚像か。」
右から頭目掛けて飛んできた回し蹴りを腕で受ける。
ヤルグが左手で切り裂くが、バク宙でそれを躱しながらヒルダが水球を放ち、ヤルグを吹き飛ばした。
ヤルグは立ち上がる。そこまで大きなダメージは無い。
だが、やはり相手の方がまだ格上であることは分かった。
何とか立ち上がり、戦おうとするレックスに声をかけた。
「下がっていろ。」
「でも・・・」
「俺が時間を稼ぐ間に回復しておけ。」
嘘であった。
ヒルダもニヤリと笑う。
彼らがもう戦力の足しにならないことは、ヤルグにもヒルダにも分かっていた。
2人の戦いでけりをつける。
レックスがライムを抱え、エミリアたちのいる方が下がっていく。
ヒルダの後ろに無数の紫水の粒が形成され、散弾のように一斉にヤルグに飛ぶ。
ヤルグの周りに白炎の火柱が上がって壁になり、それを防ぐ。
魔法相性は悪いが、その程度の大きさであれば、ヤルグの白炎が勝り、水の粒は弾けとんだ。
「あら、水相手に火の壁なんて、血迷ったのかしら?」
言いながら、ヒルダが両手から紫水の刃を放った。
刃が当たり、火柱が消失すると、中にいたヤルグはヒルダに手を向けていた。
その手の先には火と闇の混ざった灰色の魔力の球が浮いている。
「・・・複合魔法っ!」
ヒルダが目を見開き、呟いた瞬間、灰色の太い光線が一直線に飛ぶ。
ヒルダが咄嗟にマジックシールドを張るが、防ぎきれない事を悟り、横に避ける。
だが、防ぐか避けるか迷って遅れたせいで避け切れず、光線はマジックシールドを貫き、ヒルダの右腕を引き千切りながら魔王城の壁の破壊した。
ヒルダが痛みに叫び声を上げる。
千切れた右肩を押さえているヒルダだったが、その表情には余裕があった。
「複合魔法・・・素晴らしい威力ね。」
纏わりついた紫水が、傷口を塞ぐと同時に紫水で出来た新たな腕を形成していく。
「貴方を喰らえば、私も闇魔法を使えるのかしら?」
「どうだろうな・・・まぁ、喰われるつもりないがな。」
ヒルダが突っ込む。
ヤルグは闇球を放つが、それを掻い潜り殴りかかる。
腕でガードしたが、当たった瞬間に拳の形だった手が水に戻り、ヤルグの腕を包み込むように掴むと、壁に投げ飛ばした。
ヤルグは空中で体勢を立て直し、壁に足を着くと、そのまま反動をつけて跳んだ。
闇の魔力を爪に纏わせて、ヒルダに切り掛かる。
ヒルダは真上に跳んで、これを回避する。
ヒルダのいた地面にヤルグが爪を振り下ろし、地面が抉れ、大きく魔力が弾けて爆発した。
ヒルダが真上から爆風の中へ、紫水の刃をいくつも放つ。
爆風が晴れた時、ヤルグは片足をついていた。
身体は傷だらけに成っている。
「パワーは上がったようだけど、スピードはそれ程上がってないわね。」
ヒルダも傷付いてはいたが、ヤルグよりは余裕があった。
ヒルダの言う通り、力と魔力、強靭さは上がっていたが、筋肉が増えた分、速度に関しては余り変わっていない。
複合魔法で終わらせるつもりだったが、予想より速度が出ず、直撃出来なかったのが痛手だった。
複合魔法は作り出すのに時間が掛かる。使える事がバレた以上、二度はないだろう。
まともにやり合っても勝てる見込みは薄い。
ヤルグの中で勝ち筋はひとつしかなかった。
その為には、組み付く必要があった。
速度は向こうに分があるが、捕らえる事さえ出来れば・・・
2人の攻防は続いた。
ヤルグの動きから捕縛しようとしている事を悟ったヒルダは中距離を保つ様に魔法で応戦し、ヤルグは多少のダメージを負ってでも距離を詰めように立ち回る。
そんな2人の戦いを、レックスたちはただ見守る事しか出来なかった。
本気を出した両者の速さについていくのは難しく、下手に動けば、ヤルグの足を引っ張るだけだった。
それにライムとオリビアの消耗は激しく、2人は片膝をついていた。
ファーナとエミリアは回復をしながら、両者の戦いを見ていた。
ヤルグは被害が出ないよう、ヒルダがこちらに背を向けるように立ち回っていたが、いつ流れ弾が飛んでくるかは分からない。
「ヤルグ様・・・」エミリアが小さく呟いた。
ヤルグの掴みをヒルダが跳んで避けた時、ヒルダが手を開いてヤルグに向ける。
戦いの最中で放ち、辺りを濡らしていた紫水がブルブルと震える。
ヒルダが手を閉じると紫水が一斉にヤルグの足へと纏わりついた。
「しまった!」
次の瞬間、剣に形を変えたヒルダの右腕がヤルグの腹部を貫いた。




