ep80 闘う者たち
自身の魔法の爆発により、瞬間的に速度を得る。だがそれは自身への負担も増大であった。
やれるのは精々数回であろう。
続け様にやれば、当然見切られる。機会を見誤らないようにしなければならない。
ヤルグは自身に俊敏性を上げる補助魔法をかけた。
ヒルダがニヤついたのが見えた。
付け焼き刃であることは間違いなかった。
しかし、反撃の手を少しでも減らしておきたい。
ヤルグは再び、攻撃を仕掛ける。
爆発をさせるか、させないかで相手を警戒させ、反撃を封じる。
攻撃を繰り返す中で、一撃を与える隙を狙っていた。
何度目かの攻撃の際、ヒルダの動きが一瞬遅れたのが見えた。
ヤルグは足元を爆発させ、素早く切り掛かった。
ヒルダの顔が再び崩れる。
「甘いね。」
ヤルグの攻撃が当たる前に、ヒルダを囲うように足元から紫水が吹き上がる。
撥ね飛ばされて宙に舞うヤルグをヒルダが蹴り飛ばした。
転がるヤルグに追撃で紫水を放つ。
「ぐっ!」
立ち上がろうしたヤルグだったが、連続して紫水を喰らった事で若干身体が麻痺して、上手く立ち上がれなかった。
ヒルダがその爪を鈍く光らせながら近づく。
「速度を上げたところで、近接攻撃ならどの道、近づくんだろ?ならそこを狙うだけ。無駄足だったね。」
「くそっ!」
ヒルダがヤルグの首に狙いをつける。
「貴方の肉はどんな味かしら?」
ヒルダが爪を立てる瞬間、横から飛んできたオリビアの盾がその手を弾いた。
「私たちの世界で、魔族だけで盛り上がられるのは気に入らないね。」
続け様にライムが跳び蹴りでヒルダを吹っ飛ばした。
そこへフィーナが連続で魔法を放ち、爆発が起きる。
レックスがヤルグを支える様に後退させる。
「エミリアさん!ヤルグさんの回復を!」
「は、はい!」
「僕らが時間を稼ぎます。」
「レックス。」
「はい。」
「これを使え。」
ヤルグはそう言って腕輪を外し、レックスに渡した。
「これは?」それはドワーフの坑道でヤルグが作ってもらった腕輪だった。
「その宝玉は属性に関係なく、魔力を高める。少しは足しになるだろう。」
「ありがとうございます。」
腕輪を嵌めたレックスも加わり、4対1になった。
ライム、そして騎士の中では素早いオリビアがヒルダの速度に何とか喰らい付くように攻撃を仕掛ける。
レックスとフィーナは魔法で援護するも、回避に徹したヒルダに攻撃を当てる事は出来なかった。
一瞬の隙をついて、ヒルダが床に手を当てる。
次の瞬間、4人の足元から紫水が噴き上がる。
4人とも直撃し、前ほどではないが身体が痺れた。
「勝てない相手にも、贖う姿勢は嫌いじゃないよ。」
ヒルダが前方にレックスに紫水を飛ばす。
痺れを気合でねじ伏せたオリビアが前に飛びだし、盾で紫水を防いだ。
「オリビアさん。」
「魔法が使えない分、こういう所で恰好つけないとね。」
続いて、ライムが横から掌底を打ち込むが、ヒルダがそれを躱した。
「レックス!!」
フィーナの声に、何かを察したレックスがオリビアを飛び越える様に跳んだ。
後ろから飛んできたフィーナの風魔法を受けると同時に、剣を光らせたレックスがヒルダに切り掛かる。
油断したヒルダをそのまま切りつけ、吹っ飛んだヒルダが壁に激突する。
ライムが追撃に零禅掌を叩き込むが、ヒルダは躱して、ライムを蹴り飛ばした。
4人が戦う中、後方でエミリアに回復されているヤルグは、ヒルダに手を向けると魔力を溜める。
拘束魔法。ヤルグは使った事が無かった。詠唱に時間が掛かる上、当てるのが難しい。それにヒルダの魔力を考えれば、当たったところで精々数秒しか拘束出来ないだろう。
だが、こうしてヤルグが魔力を溜めていること自体が、ヒルダの気を散らせ、プレッシャーを与えるはずだ。
回復しながらエミリアが声を掛ける。
「ヤルグ様、無理はしないで下さい。」
「今しないでどうする。」
「ですが・・・」
レックスに腕輪を渡した時点で、ヤルグにはひとつ考えがあった。ヒルダを倒す為の術を。
ヤルグはエミリアを見た。
「エミリア・・・俺の事が好きか?」
「えっ!」突然の質問に驚いたが、ヤルグの真剣な表情を見て、素直に答えた。
「・・・好きです。」
「そうか・・・」
ヤルグは再びヒルダを見て、狙いをつける。
「ならば、覚悟だけはしておけ。」
「え・・・」
言葉の意味を捉えかねているエミリアを尻目に、意識を集中させる。
ライムの攻撃を避ける先を予測して、ヤルグが拘束魔法を放った。
放たれた魔法がヒルダの足を掠めた瞬間、枷を着けたように足が地面に着く。
「何っ!」
レックスが切り飛ばすと、血を噴きながら倒れた。
そこへヤルグが追撃で闇球を放った。
「やったか。」
「まだだ。」ライムの言葉をヤルグが否定した。
倒れるヒルダの周りから紫水が湧き上がり、それに包まれるように立ち上がる。
すると紫水がヒルダの身体に吸収されていき、青かった身体が紫色へと変わっていく。
長く伸びた爪は無くなり、顔も人間らしいフォルムへと変わる。
今まで出来た傷は、完全に回復していた。
手には地面から湧き出した紫水が形成した2本の曲剣を持つ。
ヤルグを見ながら言った。
「貴方の回復も終わったかしら?」
ヤルグは剣を握り、立ち上がる。
「ああ、後は貴様を殺すだけだ。」




