ep79 暗躍
突然の爆発に皆が驚いた。
「ヤルグさん?」
「どうしたんだ一体?」オリビアが尋ねた。
フィーナだけが目を見開いて、煙の方を見ていた。
「な、なんて魔力・・・」
逃したことにヤルグは舌打ちした。
煙が晴れて、ヒルダの姿が見える。
普通の女性と変わらない程だった身長は2m程になっており、身体はスラリと細く、長い手の先には鋭い爪が伸びている。
フクロウのような顔は細く伸びて、鳥には見えぬ形相になっていた。
その手にはガイラックの肉片を握っている。
ヒルダはヤルグを見て、その細い爪で指差す。
「魔王ヤルグ・・・貴方の肉も私の糧にしてあげるわ。」
そう言うと肉を喰らう。
ヒルダが身体が青く染まっていき、その魔力は更に高まっていく。
ヤルグが即座に白炎を放つ。
ヒルダの前に薄い水の壁が現れ、白炎をかき消した。
「水相手に炎なんて、貴方にしてはお粗末ね。それとも私の魔力に慌てているのかしら?」
「初めからガイラックが目的だったのか。」
「そうね。人間に殺させて、こいつの魔力を奪う。その為に色々と動かせてもらったわ。」
ヒルダはレックスたちを見た。
「上手く行き過ぎたと思わない?ガイラックは魔王としては、それ程強くはない。それでも百年以上戦争をしていなかった貴方たち人間が、こうも簡単に躍進していくと思った?」
「何だと!」オリビアが返した。
「ルドミナに人間との共生を進言し、グランドムの進行も遅らせたわ。それにリベルとの決戦で都合良く雨が降って良かったわね。」
「まさか貴様が。」
ヒルダは再びヤルグを見た。
「ガフの存在だけが厄介だったけど、貴方の復活でそれも解消したわ。本当はライノに聖剣を回収させて、反乱を起こさせるつもりだったけど、結果オーライね。」
ヒルダが両手を広げると足元からブクブクと水が溢れてくる。
「貴方を殺して、その肉も喰らえば、名だたる魔王たちとも渡り合えるわ。狭界に興味はないけど、ついでに人間も始末しておこうかしら?多少は箔がつくでしょ?」
「ふざけるな!」ライムが吠えた。
「ふざけてないわよ。真面目に殺してあげる。」
「そう簡単にやらせると思うなよ。」
「どうかしらね?」
水の色が紫へと変わる。
「紫の水!|魔纏魔法・・・」レックスが呟く。
「さぁ、新たなる魔王に誕生に抗がうがいい。」
紫水が大きな波となり、レックスたちを襲う。
ヤルグは全員を守るようにマジックシールドを展開する。
しかし、その勢いと魔力の高さに耐え切れず。皆が波に押され、壁にぶつかる。
「うぅ・・・」
「か、身体が・・・」
紫水に含まれる微弱な麻痺毒で皆の動きが封じられた。
耐性のあるヤルグだけが立ち上がる。
「心配するな。お前たち人間は慣れていないだけだ。しばらくすれば治る。」
ヤルグは駆け出し、連撃を繰り出す。
ヒルダは攻撃が当たる瞬間だけ、身体が水になったように滑らかな動きで全てを躱した。
(気味の悪い動きをしやがる・・・)
ヒルダが反撃に転じる。爪による斬撃をヤルグは剣で弾きながら後退した。
最後の一撃を押し返すように弾くと同時に闇魔法を放つが、ヒルダは後ろに跳ぶように躱した。
ヤルグは白炎を放ち、その後ろに隠すように闇球を放った。白炎ならば避けずに紫水で防ぐと踏んで、闇球を紫水に当てることで爆発させる狙いだった。
しかし、ヒルダは水の壁を作って白炎をかき消すと、すぐに水の壁を消して、それと同時に両手を前に出す。
丸の形を作るように構えると薄い膜が現れ、当たった闇球をそのまま跳ね返した。
「なっ!」
突然の事に判断が遅れたヤルグは自身の放った闇球を受け、吹き飛んだ。
ミラージュコート。魔法を跳ね返す事の出来る、高度で珍しい魔法。
ゆっくりと立ち上がるヤルグにヒルダが言った。
「もう少し強いと思っていたのだけど。私の目論見違いだったのかしら?」
「・・・抜かせ。」
ガフとの戦いでの消耗が残っているのは事実だったが、ヤルグは虚勢を張った。
(魔力と速さは向こうが上だ・・・だが耐久力は無いはず、攻撃を当てさえすれば。)
ヒルダの放った紫の水球を搔い潜りように躱して、ヤルグが切りかかる。
ヒルダが跳んで躱したが、ヤルグは自身の足元へ闇球を放ち、その爆風で勢いをつけて切り上げた。
瞬間的に速度が上がったことで、避けれず切られたヒルダが倒れるが、爆発を喰らったヤルグもまた倒れた。
ヒルダが脇腹を抑えながら立ち上がる。服の下には羽毛があり、血こそ出ていたが深手にはなっていなかった。
「やるわね。でもそんな諸刃のやり方じゃあ、私を殺したところで貴方も死ぬわよ。」
ヤルグは立ち上がりながら言った。
「覚悟の上だ。」




