ep78 因縁の先
「来おったか。」
ヤルグがガイラックを見る。
「聞いていた姿とは随分違うようだな。」
「人間共に不覚を取ってな。」
「そうか、まぁ気にする事はない。俺も昔やっている。」
ヤルグの剣に白炎が纏わる。
「さぁ、とっとと始めよう。俺に負けるなら示しが付くだろう。」
「いや、お前にはその小僧と戦ってもらう。」
「予定があるとは言ったが、それは貴様を蹴散らした後の話だ。」
「クックックッ!」ガイラックが不適に笑った。
「いや、今すぐ戦ってもらう。」
そう言うとガイラックが天井付近の壁に風を飛ばした。
掛けられていた布がハラリと落ちると、そこには大きな鳥籠のような物があり、中には1人の少女が眠っていた。
ヤルグは目を見開き、小さく呟いた。
「エミリア。」
「どうだ?今すぐ戦う気になったか?」
ヤルグは鼻で笑う。
「俺は貴様を殺し、この世界を征服するつもりなんだぞ。あんな女の命で躊躇うとでも思ったのか?」
ガイラックは尚も笑っている。
「そうか。ならば仕方ないな。邪魔だから消しておこう。」
ガイラックが掲げた手に闇球が現れる。
ヤルグはそれを睨みながら、小さく舌打ちする。
闇球がどんどんと大きくなっていく。
「ヤルグさん!」
レックスの声だった。
ヤルグがレックスを見ると、レックスは剣を構えた。
「・・・やりましょう。」
ヤルグはレックスの意思を汲み取り、剣を向ける。
「順序が変わったが、仕方ないな。」
「それで良い。」ガイラックが闇球を消した。
ヤルグが勢い良く斬りかかり、レックスがそれを剣で受けた。
鍔迫り合いになった時、レックスだけに聞こえるように言った。
「俺の言うこときけ。」
二人は攻防を続ける。
レックスは全力であった。だが、それをヤルグは軽々と往なし、反撃する。
ヤルグの力であれば、レックスなど5分と掛からない。ヤルグは上手く立ち回り、全力で戦っているように見せ掛けた。
他の者から見れば、正に死闘であった。ガイラックを除いては。
「そんな小僧一人にてこずるとは、お前が大したことがないのか、それとも手を抜いているのか?」
ヤルグが切り払い、レックスは後方に跳んで避けると構え直した。
「てこずる?笑わせるな。痛ぶっているだけだ。貴様には分からんだろうな。俺とこいつの一族の因縁を。すぐに殺すわけにはいかん。」
「成る程な。だが、いつまでも待つ気はないぞ。」
ガイラックが再びエミリアに手を向ける。
「仕方ない。終わらせてやる。レックス、恨むなら自分の先祖を恨むんだな。」
「僕は負けない!」
レックスが斬りかかる。ヤルグの剣に当たった瞬間に剣が大きく輝くが、同時にヤルグの剣も黒く光った。
爆発が起き、レックスが吹き飛び転がる。ヤルグは無傷のままだった。
ヤルグがレックスに手を向けると闇球を形成する。
レックスは身体の痛みで動けなかった。
「レックス!」皆が叫ぶなか、闇球はバチバチと音をたて、魔力を増していく。
鳥籠の中のエミリアが目を覚ます。
「ヤルグ様!」
「やっとお目覚めか。」
「私の為に、そんな事はお止め下さい!」
「お前の為では無い。いずれはこうなる運命だ。」
「そんな・・・」
「そう言えば、あの時の契約はまだ有効なのか?」ヤルグが言った。
「契約?」ガイラックが持ち出した提案であった。
ガイラックが高笑いする。
「何を今更。と言いたいところではあるが、最早リベルもニドーレルも失った。お前の力ならば、儂の配下としては申し分ない。ここの人間共とルドミナを始末すると言うのであれば、約束通りノワルドとデルタニアは貴様にくれてやろう。」
ヤルグはガイラックを見る。
「勘違いするな。貴様に言ってるのではない。」
「何だと?」
ヤルグは声を張り上げる。
「聞いているのだろう!あの時の契約を、今結ぶ!」
「畏まりました。」
言葉と同時に水の刃が飛び、鳥籠に当たると、その底を落とした。
落下するエミリアを飛んできたヒルダが抱き抱えると、そのままゆっくりと床に下ろした。
「ヒルダ!どういうつもりだ!」ガイラックがヒルダに叫ぶ。
「どういうつもり?それはこっちの台詞だ。アンタは私の計画通り、人間共に殺されるんだよ。」
そう言って口から無数の泡は吹く。
アクアブレスがガイラックの顔に纏わりついた。
「何をっ!」
「レックス!今だ!」
「はい!」
ヤルグはそのまま強力な闇球をレックスに放つ。
「え!」とフィーナが驚き、「何してやがる!」とライムが叫んだ。
レックスは剣を構える。次の瞬間、刀身が輝きを放ち、闇球を吸収した。
そして、レックスの身体が金色に輝いていく。
ヤルグの話したこと、それは聖剣に再びエプシアの加護が付いたと言うこと。
あの日、ルトワ火山でヤルグが狭龍に頼んだものだった。
「ガイラック!!」レックスが駆けだす。
「そんな物で儂を倒せるか!」泡を振り払ったガイラックは4本の手を合わせて、太い闇の光線を放つ。
レックスは光線を剣で受けるが、そのまま前へ押し進んでいく。
「馬鹿なっ!」
光線を切り裂いたレックスが大きく跳び、剣を振り下ろす。
「これで!終わりだぁ!」
レックスの剣がガイラックの身体を真っ二つに切り裂いた。
ガイラックは断末魔を間もなく、息絶えた。
レックスの身体から光が消える。
「やった!」ライムが声を上げた。
「レックス!!」フィーナが駆け寄り、抱き着いた。
「やったね!」
「うん。」
ライムとオリビアも集まり、喜びを分かち合っていた。
ヤルグの元へエミリアが駆け寄る。
「ヤルグ様、私の所為ですみませんでした。」
「気にするな。それよりも無事か?」
「はい。大丈夫です。」
「そうか、それなら良い。」
「全て、終わりましたね。」
「・・・ああ。」
ヤルグにはひとつ懸念があった。それはヒルダの意図だ。
ヤルグが目をやると、ヒルダはガイラックの死体の傍らにいた。
そしておもむろに死体に手を突っ込む。
「しまった!」
気付いたヤルグが咄嗟に闇球を放つ。
ヒルダがガイラックの肉を口にした瞬間、身体が一回り大きくなった。
ソウルイーター。それは死体を喰らい、魔力を吸収する特異な力。
闇球が当たり、爆発が起きた。
しかし煙の中から感じる魔力は、とてつもなく大きくなっていた。




