ep77 希望の為に
恰幅の良い体型から一転、細身となったガイラックの纏う紫の魔力は、より一層、禍々しさを増していた。
新たに形成されたその腕は、他の腕よりも大きく、指では無く、1本の太く鋭い爪を有している。
「みんな、気を付けて!」
一番魔力を感じれるフィーナが注意しつつ、闇耐性を上げる補助魔法をかける。
「そんな魔法でどうにかなるとでも思うのか?」
ガイラックが6本の腕を広げるとその身体が少し浮く。
そのまま突進するようにレックスに向かい飛んでいく。
レックスは向かってくるガイラックに斬り掛かるが、ガイラックはそれを爪で弾き、別の手でレックスの首を掴むと、反転するようにライムに投げつけ、それと同時に残りの手でオリビアとフィーナに闇魔法を放つ。
4人は一瞬にして、地面に転がり倒れた。
「所詮は狭界でしか生きられぬ卑しき獣共が、儂に抗おうなどと、片腹痛いわ。」
3人は同時に攻めるが、ガイラックは6本の手で、その全てを往なして反撃する。
フィーナは離れて、レックスは魔力、オリビアは腕力、ライムには俊敏性を高める魔法をかけた。
「無駄な足搔きを・・・」
「やってみないと分からないさ。」
「それを愚かと言うのだ。」
レックスとオリビアが走り出し、斬り掛かる。
ガイラックはレックスの腕を掴んで止め、オリビアの剣を爪で受ける。2本の腕で2人に闇球を放つ。
盾で防いだオリビアは爪で薙ぎ払われ、咄嗟に光球を放ったレックスは、起きた爆発で吹き飛ぶ。
2人の後方で右手を弓のように引きながら、力を溜めていたライムが、爆煙の死角から零禅掌を叩き込む。
流石のガイラックもその一撃に怯んだが、怯んだのは一瞬だった。
「やるな。」
ガイラックが2本の腕から風を飛ばし、ライムを壁に叩き付けた。
3人の体力はかなり奪われていた。
「戦争を終わらせると言うなら、人間が負けを認め、儂の庇護下に身を置けば良い。」
「ふざけるな!お前の統治下に置かれた人達がどうなったと思ってやがる!」ライムが吠えた。
「それは戦時下であるからだ。戦争が終われば、扱いも変わると思わぬか?」
「それは我々の望む平和とはほど遠い。」
オリビアの言葉にガイラックが笑う。
「そもそも平和とは何だ?お前たち人間の歴史など戦争の繰り返しに過ぎぬではないか。平和など、ただ自分が満たされている時間に過ぎん。価値観に差がある以上、いずれ争いは起きる。」
「それは違う。」
レックスが立ち上がりながら言う。
「違うだと?」
「確かに、僕たちは戦争を繰り返してきた。過去を変える事は出来ない。でも、未来は変えられる。少しずつだとしても、平和を望む者たちが手を取り合っていけば、争いのない世界を築きあげれるさ。その為に、貴様のような争いを楽しむ者を倒さなければいけない。」
ガイラックは大きく笑う。
「何ともまぁ、若僧らしい青い考えをするものだ。」
ガイラックは6本の腕を広げる。
「まぁ良い。いくら綺麗事を並べ、理想論に縋ろうとも、ここで全員死ねば、同じこと。」
手の先から4つの闇球が現れる。
「所詮、弱者は強者に虐げられるだけの存在。一番弱い者から殺してやろう。」
言うと同時にフィーナに闇球が飛ぶ。
「フィーナ!」
レックスはフィーナの前に飛び出し、代わり闇球を受けた。
「ぐはぁ!」
レックスはその場に膝をつく。
「庇うか・・・弱者を守り、強者が死ねば、敵を討つことなど出来ん。所詮お前たちの掲げる理想など、その程度だ。」
「違う!」
レックスは顔を上げ、ガイラックを睨み付けた。
「僕たちが掲げるの理想じゃない。」
立ち上がり剣を構える。
「僕たちが掲げるのは希望だ。皆が希望を絶やさぬ限り、必ず世界は変わっていく!」
その時、レックスの剣が大きく輝く。
「聖剣が共鳴したか・・・面白い。掛かってくるがいい。その希望、打ち砕いてやろう。」
レックスが走り出し、大きく跳んで切り下ろす。
ガイラックの大きな爪に当たった瞬間、ルークスヴェインを発動し、剣が輝き一回り大きくなる。
その爪を輝きとともに切り裂いた。
しかし、その後ろで構えていた、もう一方の爪が剣を止めた。ルークスヴェインの性質上、瞬間的な力である為、間を開け構えた爪まで切り裂く事が出来なかったのだ。
ガイラックはニヤりと笑うと腕でレックスの首を掴み、爪で剣を弾き飛ばした。
「ぐあぁ!」
「レックス!」フィーナが叫び、助ける為に魔法を放とうとしたが、ガイラックは残りの3本の腕で風魔法を放ち、3人の動きを封じる。
ジリジリと首を絞めていく。
「あ・・・がぁ・・・」
「お前は勇者には成れなかったようだな。」
次の瞬間、ガイラックは何かに気付き、レックスを投げ飛ばし、6本の腕で全て使い、強力なマジックシールドを展開した。
そこへ巨大な白い炎の塊が飛んでくる。
ガイラックに当たると大きな爆発が起きる。
マジックシールドにより軽減されたものの、ガイラックの身体からは煙が上がっていた。
そこへヤルグが現れる。
「ヤルグさん!」
「ヤルグ!」
レックスとオリビアが同時に言った。
ヤルグはガイラックに言う。
「済まないが、そいつとは剣を交える予定があってな。貴様に殺される訳にはいかんのだ。」




