ep76 対峙
城の中は薄暗く、無駄な装飾のない廊下は静かで、不気味さと禍々しさを漂わせていた。
魔物の気配は感じられない。恐らく、いるのはガイラックだけであろう。
一行は廊下の奥にある大きな扉を開けた。
大きく開けたその部屋にひとり、魔王ガイラックが立っていた。
3m近いその身体は縦にも横にも大きく、毒々しい紫色をしている。ナマズのように潰れた顔からは2本の髭と一対の角があり、背中には翼を有していた。
「ガイラック!」
レックスたちが武器を構える。
「よもや、人間相手に儂が出るはめになるとは。」
「お前を倒し、世界に平和を取り戻す!」
ガイラックが怪しく笑う。
「お主がレックスか・・・持ち上げられた偶像が調子に乗って英雄を気取るとはな。」
「何だと!」
「己の無力さを思い知らせてやろう。」
「最早、貴様だけだ。諦めろ、ガイラック!」オリビアが剣を向ける。
「1人になったからと言って、逃げ帰るような者が魔王を名乗るとでも思うのか?愚かな人間共め、我が力の前にひれ伏せよ。」
ガイラックが力を込めると、身体に紫色のオーラを纏い、更に2本の腕が生えてくる。
4本の手でそれぞれ闇と風の球を作り出した。
「来るぞ!」
ガイラックの放った魔法が、凄まじい速度で飛んでいく。
盾で受けたオリビアは何とか防いだが、剣の腹で受けたレックスとマジックシールドで受けたフィーナはその力に弾き飛ばされた。
ライムだけが見切って躱し、そのまま走って、正拳突きを叩き込む。
しかし、その膨らんだ腹は突きを衝撃を吸収した。
「なっ!」
ガイラックが驚いたライムを壁まで殴り飛ばした。
オリビアが走り出し、サーベルで切りかかるがガイラックはそれを腕で受け止めた。
魔法で強化された皮膚が刃を拒んだ。
オリビアはすぐに切り返して腹を狙うが、別の2本の手がオリビアの両腕を掴み、持ち上げた。
ガイラックは引き裂くように左右へ引っ張る。
「がはぁ!」
「オリビアさん!」レックスは走り出し、フィーナは水魔法を放った。
ガイラックはマジックシールドを張って、魔法を防ぐと同時に、自身から渦巻くような風を放ち、レックスを吹き飛ばした。
「所詮は人間よのぅ。」
ガイラックが更に腕に力を入れようとした時、横から跳んだライムが顔を思い切り殴りつける。
「ぐっ」
怯んだ隙にオリビアが脱出し距離を取った。
「大丈夫ですか?」
「ああ、済まない。」
フィーナに回復の時間を与える為、レックスとライムが立ち向かう。
ガイラックが4本の腕で連撃を仕掛けるが、ライムはそれを全て躱す。
その隙にレックスが1本の腕を切りつける。
当たる瞬間にルークスヴェインを放ち、剣が輝くと腕を切り落とした。
ガイラックが呻き声を上げる。
「やった!」ライムはそのまま追撃を仕掛けるが、風によって吹き飛ばされた。
「魔裂斬か・・・大したものよ。」
ガイラックが力を込めると切れた腕の先から、新しい腕が生えてくる。
「なっ!」
「多少は楽しませてもらえるようだな。」
ガイラックが頭の上で2本の腕を構えると大きな風が渦巻き、周囲を吸引していく。
皆は耐えようとするも、その強力な力に全員がジリジリと引き寄せられていく。
「くっ!気を付けろ!」
ガイラックが残りの2本の腕で魔力を込めると4人の足元で黒い魔力が弾け、宙に飛ばされる。
その瞬間、渦巻いていた風を開放し、全員が壁まで吹っ飛び、叩きつけられた。
魔王の名は伊達ではなく、4人はその魔法に翻弄されていた。
「風の所為で場の主導権を握られてるな・・・」オリビアは溢す。
「近づけないのが痛いね。」ライムが同調した。
オリビアが魔法を搔い潜りながら近づき切りつけるが、別の手で殴り飛ばされた。
4本の腕がある為、連続で放った魔法を避けて接近しても、残った腕で近接攻撃に対応してくる。
近接特化のライム・オリビアにとって、かなり厄介なものとなっていた。
ライムがレックスとフィーナに近づき、何か喋る。
「やってみます。」
フィーナが一時的に魔力を上げるマジックリゲイルをレックスに掛けた。
オリビアとライムが陽動を仕掛ける中、レックスが走り出す。
レックスが魔力を込めると剣が光が増し、閃光を放つ。
部屋全体が真っ白に染まる。
「目眩まし。小癪な!」
ガイラックは自身の周囲へ風を放つ。
視界が晴れた時、皆が壁まで飛ばされていたが、ライムの姿だけが無い。
ライムはガイラックの頭上に跳んでいた。
すかさずフィーナがライムの拳に目掛け雷撃を放ち、その拳は雷を纏った。
「喰らいな!」
ライムは思い切り、ガイラックの顔を殴り付ける。
流石のガイラックもこれには呻き声を上げ、怯んだ。
頑強の魔法が切れる。
「レックス、今だ!」オリビアの言葉に2人は駆け出す。
オリビアが腹を大きく切りつけ、その後ろから跳んだレックスが肩から切り落とす様に剣を振り落とす。
そこへ追撃でフィーナが雷撃を放ち、爆発が起きる。
4人は距離を取る。
「やったか?」
しばらくし、爆発の煙が晴れる。
ガイラックの片翼は穴が空き、腹に大きく裂かれ、左腕は2本とも失われていた。
「に、人間風情が!」
ガイラックは口と腹から血を流しながら言った。
「畳み掛けるぞ!」
その言葉に3人が走り出すが、ガイラックの風魔法がそれを拒んだ。
「くっ!」
風の中でガイラックの身体が大きく震える。
でっぷりと膨らんでいた肉がブヨブヨと動き、それと同時に黒い靄が身体を包んだ。
靄が晴れる。
そこには今までとは違う姿のガイラックがいた。
肉体は筋肉質に変わっており、翼は新たに形成され、腕は更に2本増え、6本になっていた。
ナマズのように潰れていた顔もトカゲのように細身になっている。
「この姿になった以上、貴様らを生きて帰らす気はないぞ。」




