ep75 魔王城
進軍の時を迎え、兵たちの前でオリビアが喋る。
「これが最後の戦いになるだろう。我々は多くの犠牲を払った。しかし、こうしてガイラックを追い詰めるところまで来た。あと一歩だ。世界を救う為、あと少し、皆の力を貸してほしい。」
力強く士気を上げるのではなく、静かに、そして淡々と告げた。
兵たちもそれを真摯に受け止める。
オリビアがレックスに譲る。
レックスは最早、勇者の子孫と言う偶像ではなく、その実力も皆に認められている。
「ガイラックを必ず討たなければならないけれど、これ以上、悲しみを増やしたくはありません。」
多くの者が何かしら失った。それはそれぞれが実感していることだった。
「戦場では難しいかもしれませんが、命に代えてもと言う考えは捨てて下さい。勝利し、必ず生きて帰る。それを胸に刻んで欲しい。」
何人かの兵が頷くのが見えた。
オリビアが剣を取る。
「さぁ、行こう。我々の強さを見せ付ける時が来た。」
ムビアナの北に位置する魔王城。元々は数百年前にヤルグが建てた城だが、その歪な形に面影は無かった。
城を囲うように作られた堀には紫色の沼が広がり、ボコボコと気泡が弾け、周囲に毒の瘴気をまき散らしていた。
魔王城に続く道は、人が3人並んで渡れる程度の幅の橋だけだった。
人間軍は沼の外側の森で進軍を止めた。
「ほとんど、魔物は見当たりません。」
「いくら何でも少なすぎるな。」
偵察兵の報告にオリビアが溢した。
「罠かもしれませんね。」とヴィクトール。
「私とライム王女、レックス、フィーナで先行する。奴らが潜んでいる可能性は高い。注意を怠るな。沼地からも距離を取っておけ。」
オリビアは兵たちに注意を促す。
4人は橋の前に立つ。
周囲を警備していた、いくらかの魔物は倒した。
こちらの進軍には、とっくに気付いているはずだが、一切の慌ただしさが見られない。それが逆に不気味さを際立たせていた。
「渡ってる途中で橋を壊されたら、終わりだね。」
ライムが言った。
フィーナが杖を翳して、魔法を放つと皆が青く光った。
「一応、俊敏さを上げておきました。」
「済まない。」
「行きましょう。」
レックスの言葉に4人が橋を進む。
警戒しながら慎重に進む4人だったが、特に何事もなく渡りきってしまった。
「こうなってくると、いよいよ不気味だね。」ライムが溢す。
「本当に兵が少ないのでしょうか?」フィーナが疑問を口にした。
「ガイラック様の意向です。」
驚いた一同が見ると、扉の前にフクロウの顔をした女が立っていた。
オリビアとレックスが素早く剣を構える。
「誰だ貴様は?」
「お初に御目にかかります。ガイラック様の秘書官を務めておりますヒルダと申します。」オリビアの問いかけに答えながら、女は深々とお辞儀をする。
「ガイラック様は敬意を持って、直々にお相手したいとの事です。」
一同は顔を見合せ、困惑した。
「わざわざ出迎えに来たと言う事か?」
「いえ、そうではありません。万が一、逃走を図られては困りますので。」
そういうと秘書官はふわっと飛び上がり、闇魔法を放つ。
橋に当たると一部が壊れ、そのまま崩れるように橋は沼の中へ沈んでいった。
「あぁ!」
「橋が・・・」
「貴様!」オリビアがヒルダに凄んだ。
「ご心配なく。元より皆様の命はここで終わりですので、帰り道の必要はありません。」
「構わない。」レックスが冷静に言った。
「どの道、退くつもりはないさ。」
レックスはヒルダを真っ直ぐ見つめた。
ヒルダも見つめたが、一瞬だけレックスの持つ聖剣を見た。
「ご健闘を。」
ヒルダは沼の向こう岸にいる兵たちを見る。
「お連れ様がお暇になるといけませんので。」
そう言って赤い光を空に放つ。
それを合図に沼の向こう岸で、沼の中から次々と魔物が飛び出した。
「それでは、御ゆるりとお楽しみ下さい。」
ヒルダは煙に包まれるとフクロウの姿に変わった。
「うわぁ!」とライムが驚く。
そのまま、魔王城の中へと飛んで消え去った。
「何なんだありゃあ。」
「皆さんは大丈夫でしょうか?」
フィーナの言葉に4人は振り返り、沼の向こう岸を見た。
沼の中から出てきた魔物の他に、森の中に潜んでいた魔物も現れていた。場所によっては挟み撃ちの形になっていたが、数としては人間側の方が多い。
遠くでヴィクトールが剣を振り、進むよう合図するのが見えた。
「大丈夫。皆の力を信じよう。」ライムが答えた。
「行こう。」レックスが扉に手をかける。
「僕たちの力で、終わらせるんだ。」
そうしてゆっくりと扉を開いた。




