ep74 戦いに向け
火を放たれたポルガだったが、石造りの建物が多かった為、いくつかの建物は壊れることなく残っていた。
逃げ延びたポルガの民を中心に、再建が進められている。
比較的被害の少ない建物の中で、魔王城進攻の為の会議が行われていた。
「偵察兵の情報によると、やはり残りの兵量は多くないようだ。だが、少し厄介なことになっている。」
「厄介なこと?」オリビアの言葉にレックスが尋ねた。
「魔王城へは一本の橋があり、周りは沼に囲まれている。どうもそれが毒の沼らしい。」
「毒の沼・・・橋からしか侵入が出来ないなら、大人数は悪手でしょうか?」
「最終決戦になる以上、全勢力は注ぎ込みたいがね。」
「橋の大きさは?」
「然程、大きくはない、精々数人渡れる程度らしい。それにもうひとつ、問題がある。」
オリビアの言葉をヴィクトールが引き継いだ。
「アリアンのルドミナ殿の情報によれば、ガイラックは魔法型の魔族の様です。魔力の高さではルドミナ殿やニドーレルよりも上だと。」
レックスは戦いが終わった後のグレイスの状態を思い出した。
あれ以上の魔力を持つ・・・
「大人数で行っても被害が増えるだけかもしれないですね。」
「ああ。だが、兵量は少ないとは言え、少人数で切りぬけるのは難しいだろう。」
「沼の近くまでは大隊を動かし、敵の掃討を行う方が良いでしょうね。」とヴィクトール。
「ですね。だがガイラックの魔力が高いのであれば、出来れば城内で戦いたい。城内ならば、大規模な魔法は使うまい。」
「問題は誰が行くかですね。」
「僕は行きます。」レックスが言った。
「ああ、それで構わない。当然、私も行くつもりだ。」とオリビア。
「私も行かせて下さい。」フィーナが言った。
「大丈夫かい?」オリビアが心配した。
「勇者様と一緒に行きたいです。」
オリビアは少し考えたが許可をする事にした。
少なくとも、ベイル、レックスと共に戦い抜いてきた。それに二人の精神面を考えると一緒にしておいた方が良いだろう。
「ライム王女はどうします?」オリビアが尋ねた。
ポルガの再建を考えると立場としては残る事も考えられるだろう。
「私も行くよ。ここまで来たんだ。どうせなら敵のてっぺんを潰してやりたいからね。」
ライムは手の骨を鳴らしながら答えた。
「分かりました。」
「では、私は城外の指揮を執りましょう。敵がどんな手を使ってくるか分かりませんので。」ヴィクトールが提案した。
「そうですね。お願いします。」
レックスが尋ねる。
「イルサーナは・・・ヤルグさんはどうなったんですか?」
オリビアが表情を少し曇らせた。
「結論から言えば、分からない。」
「どういう事ですか?」
「偵察兵の話ではイルサーナには誰もいなかったらしい。城の状態からヤルグとガフが戦った事は間違いないようだが、どちらの死体も無かったそうだ。」
「え?」
「あの二人の戦いならば、引き分けで終わらせるとは考えにくい。かと言って決着が着かず、場所を変えて戦っているなら、情報は流れてくるはずなんだがね。」
一同は思案したが結論は出なかった。
「ヤルグの死体が無かった以上、生きているならガフはそちらを優先するでしょう。どの道、偵察兵の話では魔王城付近でのガフの存在は認められなかったとのことですので、一応は心配ないかと。」
ヴィクトールの説明に一同は、一応の納得をした。
「二日後には侵攻を開始する。出来るだけ早めにケリを付けたい。ルドミナの話では魔界から魔物を呼び出すと言うのも、出来なくはないそうだからな。」
オリビアが立ち上がる。
「作戦開始に備えて、各自準備をしておいてくれ。」
その言葉で会議はお開きとなった。
オリビアは一人、復興の為に動く人々を眺めていた。
祖国を失う者、家族を失う者。オリビア自身、多くの仲間を失った。
人々は悲しみを嘆きながらも、乗り越えて未来への希望を繋いでいく。
だが、これ以上悲しみを増やすわけにはいかない。
ガイラックを必ず討たなくては。
ガイラックが魔法に長けているのであれば、魔力を殆ど持たないオリビアにとっては厳しい戦いになるかもしれない。
オリビアは自身の掌を見ながら、ゆっくりと掌を閉じる。
最悪の場合、ベイルのように差し違えることも覚悟しておかなくては・・・
ライムは一人、城の中で座禅を組んでいた。
ポルガの民やファーランから来た者たちは、城の再建を提案したが、ライムは断った。
まずは民の居場所から作ってもらうことにした。民がいなければ国は成り立たない。
城の再建は最後で良い。
王の間。石造りであった為、原形こそ残しているが、見るも無残な状態だった。
幼き頃からの様々な思い出が蘇る。
滲みだした瞳をギュッと閉じた。身体の底から沸々と湧き上がる感情がある。
わなわなと震える拳を強く握りしめた。
「冷静であれ。」
ロイから幾度となく掛けられた言葉。
ポルガの民はその精神力を持って、鋼の肉体を作り出す。
呼吸を整えたライムが目をそっと開く。
そこには怒りも悲しみも存在しない。
「私は大丈夫。」
ライムは誰に言うでもなく呟いた。
レックスとフィーナは被害を逃れた建物の屋上の縁に座っていた。
少しずつ陽が傾いていく。
「魔王と戦うなんて、なんか凄いことになっちゃったね。」
フィーナが呟いた。
「そうだね。」
「勝てるかな?」
「勝たなくちゃいけないんだ。」
「うん・・・でもちょっと怖い。」
レックスは何も言わず、フィーナの手を優しく握った。
レックスにも不安はあった。
自分が強くなったと言う自覚はあったが、それでも今まではベイルがいた。
ヤルグもまた、レックスの知らないところで魔王軍と戦ってくれていた。
ベイルは死に、ヤルグの所在は分からない。
精神的支柱を失ったと言ってもいい。
勿論、オリビアやライムといった仲間がいるのは確かだ。
だが、果たして自分に勝てるのであろうか。
世界を救えるだろうか。
レックスが握る手が強ばったのを感じたフィーナが上から手を重ねた。
「フィーナ・・・」
フィーナは無理に笑顔を作った。
レックスはフィーナを見つめた。
目の前にいる愛しき人。大切な人々の笑顔の為に、負けるわけにはいかない。
「フィーナは必ず僕が守るから。」
「うん。」
二人は見つめ合い、優しい口づけを交わした。




