ep67 決戦③
リベルは百戦錬磨であるベイル、オリビアの二人相手に一歩も引いていなかった。
通常、槍での戦闘は、懐に入り込まれると弱いが、リベルは魔法でそれをカバーしていた。
元々の身体能力の高さも相まって、ベイルたちは苦戦を強いられていた。
「くそ!」
上手くいかない事に思わずベイルが毒づいた。
「流石は軍を率いるだけの事はある。貴公らの技術は一流だな。」
「余裕をもって言われるとムカつくね。」とオリビア。
オリビアが跳び込みながら切り込む。
リベルは下がりながら槍で受けると、薙ぎ払うように炎を放つ。
オリビアは一歩下がって躱すとそのままサーベルを突き刺す。
それを横に避けたリベルがオリビアを蹴り跳ばした。
その間、剣を腰の位置に構え、力を溜めたベイルが凄まじい速度で切り抜ける。
リベルは上に跳躍して躱した。その跳躍は人の頭をゆうに越える。人間には出来ない芸当だった。
リベルはその高さから槍を構える。槍の後方で魔法により、小さな爆発が起こり、その推進力で、オリビアに向けて急速な突き刺しを繰り出した。
咄嗟に避けたが避けきれず、左肩を掠め、鎧が破損した。
「ぐっ!」肩を押さえたオリビアの手には血が付いていた。
追撃させないよう、ベイルが切りかかる。
リベルは槍で弾き、距離を取った。
「折角の戦いだ。邪魔が入らぬ方が良いな。」
言いながら翳した手から炎を放つ。炎は蛇のように進み、3人を大きく囲むように円を描くと一気に燃え上がった。
「さぁ、続けよう。」
2人は逃げ場を失った。
ヴィクトールは突如燃え上がった炎に一瞬怯んだが、それは目の前にいた魔物も同じで、すぐさま冷静に敵を討った。
ベイルとオリビアが心配ではあったが、こちらも余裕はなかった。敵の数が多い右舷は圧され気味であった。
ヴィクトールは巧みな身体捌きで魔物を切り裂き、レックスを見る。
レックスとバルドスは、まるでその場に2人しかいないかのように一進一退の攻防を繰り広げている。
援護をしたいところだが、任せるしかない。
指揮官である以上、大局を見なければいけない。
背後から兵の叫び声が上がった。
ヴィクトールが振り返る。そこには一頭の魔獣が兵を殴り飛ばしていた。
2mを超えるゴリラのような風貌で、紺色の毛皮は背中と首周り、手首の辺りだけ白くなっており、手には氷を纏い、棍棒のようになっていた。
暴れまわる魔獣にひとり、またひとりと吹っ飛ばされていく。
「無暗に近づくな。重傷を負った者は橋の向こうに退避!」
ヴィクトールは走り出し、背後から魔獣を切りつける。手応えはあったが毛皮に阻まれ、大きな傷にはならなかった。振り向きざまに殴る魔獣の攻撃を下がって避ける。
霊長類特有の俊敏さはあったが、氷の塊になっている拳そのものの速度は遅かった。
ヴィクトールは相手の動きを見極めながら、確実に攻撃を重ねるが、然程ダメージを与えられていない。
相手を観察しているうちに、白くなっている毛皮だけ薄い事に気付く。
背中、手首、首周り。確実に仕留めるには首を狙うしかない。
ヴィクトールは自身を囮に立ち回りながら、チャンスを伺った。
魔獣が両手を大きく振り上げ、思い切り叩きつける瞬間、一歩下がって躱し、首を目掛けて切り掛かる。
カンッ!と金属音が響く。
剣が首に当たる寸前に魔獣の白い毛皮の部分が氷を纏っていた。
「しまった!」
完全に動きが止まったヴィクトールを魔獣の一撃が襲う。
「がはっ!」呻き声と共に河岸まで吹き飛ばされた。
痛みに耐えているヴィクトールの目に突進してくる魔物が映る。
魔獣のラリアットがヴィクトールに迫るその時。
河の中からワニのような魔物が現れ、魔獣の腕に噛み付くと、持ち上げて反対側に叩きつけた。
暴れる魔獣を更に咥え込むと、そのまま河の中へズルズルと引きずり込む。
水面に沢山の泡が浮かび、少しすると、水面が赤色に染まった。
それと同時に数体のサハギンが河から現れる。
唖然としていたヴィクトールが咄嗟に剣を構えた。
「心配するな人間よ。我々は味方だ。ルドラ湿原の主、ルンドル様の命により加勢に来た。」
「ルドラの・・・助かります。」
ルドラ湿原で一件はベイルより聞いていた。
「者共、行くぞ!」
号令と共に30体は越えるサハギンが河から飛び出し、魔王軍へと向かっていく。
ヴィクトールが叫ぶ。
「その者たちは援軍だ!味方討ちせぬように気を付けろ!」
「良かったな。お仲間さんが来たようだぜ。」
バルドスの言葉に焦りは無かった。
本当に勝敗など、興味がないように見える。
「仲間が死んでも何とも思わないのか?」
「言っただろう。お前を殺せれば、それで良い。」
「貴様・・・」
両者が再びぶつかる。
空からは雨が降り始めていた。




