ep65 決戦①
数日かけ、ファーランに到着したレックス達だったが、既に人は疎らだった。
「状況は?」一人の兵にベイルが尋ねる。
「ヴィクトール様が率いて、既にテヌ大橋へ向かわれました。リベルの大隊が侵攻中との連絡はありましたが、どこまで来ているか詳細は不明です。」
「分かった。我々も追う。最悪の事態を考えて、防衛設備を強化しておけ。」
「やっております!」
レックス達は休む間もなく、テヌ大橋へと馬を走らせた。
テヌ大橋の北側に広がる平原で人間軍の大隊が戦いに備えていた。
「敵の規模が分からない以上、最悪の事態を想定して準備を怠らない事です!この橋が最終防衛ライン。ここを越えられれば我々の負けと考えて下さい!」
ヴィクトールは普段と同じく丁寧な口調だが、その声には今までにない厳しさがあった。
「ヴィクトール!」駆けつけたベイルが言う。
「団長。準備はほぼ整っております。敵はそう遠くはないかと。」
「ああ。ここを乗り切らねば。」
「ガフの動きは?」
「奴は動かない。ヤルグと戦うことを望んでいるそうだ。」
ノワルドに現れた騎士がヤルグであった事は既に連絡していた。
「ロズウッド様の話では、悪い男ではないと。」
「ああ。そう願いたいな・・・」
ベイルが空を見上げた。暗雲が立ち込めている。
「崩れてきたな。」
「この辺りで雨が降るのは珍しいですね。もし降りだせば、リベル戦には有利に働くかもしれませんね。」
「ああ。」
「ライム王女は大丈夫なんですか?」フィーナが尋ねた。
「あちらにおられます。恐らくもう大丈夫かと。」
示した先、ルセーラ河の畔で一人、静かに河を見つめてた。
フィーナが駆け寄る。
「ライムさん。」
ライムが振り返る。
「フィーナちゃん。いよいよだね。」
ライムは冷静だった。悲しみも怒りも乗り越えたその顔に、どこかロイの面影を感じた。
「頑張りましょう。」フィーナはライムの様子に安心した。
ベイルとオリビアの指揮のもと、編制が行われ、中央はベイルとオリビア、右舷はレックスとヴィクトール、左舷はライムとフィーナが立つ。
オリビアが全兵に声を上げる。
「ファーランの守備は強化させたが、奴らのファーランの地を踏ませる気はない!一匹足りとも橋を越えさすな!」
大人数の返事はまるで怒号のように聞こえた。
数時間後。
「来ました!」
誰かの声に皆が平原の奥を見た。
無数の魔物の群れ、その中央にはリベルがいる。右にはバルドス、左にはジェニアの姿があった。
「多いですね。」ヴィクトールが呟く。
その数は人間側とさして変わらない。
「向こうもここで終わらす気だろう。」
距離をあけ、魔王軍が止まった。
リベルが口を開く。
「丁重な出迎えに感謝しよう。」
「迎え入れるつもりはないがな。」ベイルが返した。
「正直な話、ここまで押されるとは思っていなかった。貴公ら人間の力。素直に認めよう。だが、我々にはガイラック様にこの地を治めて頂くという任務がある。」
「我々にも魔王を滅ぼすという任務があるんでな。」
「そうか。では分かり合えぬな。」
「お前がポッソムをやったのか?」
ライムがジェニアに言った。
「あら、王女様と直接お話出来るなんて、光栄だわ。それにそっちのお嬢ちゃん。あの時は助けてくれてありがとね。」
「え?」フィーナが戸惑った。
「あら、分からないの?」
そう言ってくるりと回ると少女へと姿を変えた。
「あ、あの時の・・・」フィーナが目を見開き驚いた。
元の姿に戻ったジェニアが言う。
「貴方が助けてポルガに入れてくれたお陰で、ポルガを楽に墜とせたわ。」
「そんな・・・」ショックを受けるフィーナの肩にライムが手を置く。
「ライムさん・・・」
「大丈夫。」落ち着いた芯のある声だった。
ライムが構える。
「責任は取ってもらうよ。」
「あら、残念。悪いけど、無責任が私の取柄なのよね。」
レックスは何も言わなかった。バルドスもまた何も言わず、両者は睨みあう。
バルドスの切断された右手は義手のなっておりに、禍々しい剣を握っている。
両者はほぼ同時に剣に魔力を纏わせた。
西の方角から凄まじい魔力の衝突が起こり、いくつかの者が思わず、西を見た。
「あちらも始めたようだ。」
リベルが槍を構える。それに合わせてベイルとオリビアも構えた。
「開戦の合図はいるか?」
言った瞬間にリベルが素早く跳びこみ、ベイルとオリビアは間に槍を刺すと炎が噴き出す。
左右に避けた二人が反撃をするが、リベルは槍の前後で二人の攻撃を受け止める。
ベイルを踏み台にするように蹴るとそのまま後方へ跳んだ。
その攻撃が合図となり、両軍が一斉に動き出す。
そうして戦いの火蓋は切られた。




