ep63 辿るべき運命
グレイスの状況は悲惨だった。町全体が水浸しになっており、あちらこちらに氷の塊がある。そして破壊された家々。戻った住人たちは途方に暮れたが、ひとり、またひとりと街を直し始め、人間と魔物が協力して適材適所に動いていた。
そんな光景をヤルグは窓から見ていた。
(一人の女が選んだ街の姿。それは仮初の理想か、恒久的な現実か・・・)
部屋にはルドミナとゼム、机を挟んでレックス、フィーナ、ベイル、オリビアがいた。
ヤルグはひとり、窓際で壁にもたれ掛かりながら、腕を組んで外を見ていた。
それぞれの持つ情報を擦り合わせたが、そもそもヤルグは情報などほとんど持っていなかった為、黙って話を聞いているだけだった。
「と言う事は、やはり魔王軍の兵力はほとんど無いという事ですか?」ベイルが言う。
「ええ、私の離反もあった事で、かなり数を減らしていると思うわ。」
「確かに、先の追っ手の数も少なかったようだ。」オリビアが同意した。
「ガフはほぼ兵を持たないから、大半はリベルの部隊に。残った者は魔王城の守りにつけているでしょうね。」
「ならばリベルの動向が重要になるか・・・」
「ポルガを墜としたとしても、あの位置に居座っても意味が無いわ。必ず大隊を率いて攻め入るでしょうね。ジェニアはリベルの下で動いていたはず、恐らくバルドスもいるでしょう。」
「四天王に八傑集2人か。でかい戦いになるな。」
「ファーランの改修は終わっているが、防衛設備としてはまだ甘い。出来ればファーランで受けるのは避けたいところだね。」
「となるとコルシュ街道でぶつかるしかないな。」
「あの・・・」3人の会話にフィーナが入る。
「ファーランに戻る時にあった、あの大きな橋のところはどうでしょう?」
「テヌ大橋か?」
ルトワ火山中腹からムビアナを抜けるようにヌドラ湿原まで続く、ルセーラ河。コルシュ街道ではその場所に大きな橋があった。
「リベルは炎を使うので、河の近くが良いかと。」
「なるほど。だが総力戦をするには橋は手狭だな。」
「橋の向こう側は結構開けてませんでした?」レックスも会話に入った。
「確かに草原が広がっていたな。」
「あの湖の時と同じように、河を背に戦えば。」
「あの辺りに防衛線を張るか。だがリベルの動向が分からない以上、間に合うかどうか・・・」
「兎に角、早めに知らせを飛ばそう。我々も早急に帰りたいところだが、南部を迂回するしかないな。」
「ムビアナを直線に突っ切ればいいわ。」ルドミナが言った。
「敵地を横断するのか?」
「さっきも言ったけど、魔王軍の兵力は少ないわ。今は殆んどもぬけの殻よ。」
「本当か?」
「ムビアナの一番北、魔王城の手前のある城にガフが居座ってるわ。南から魔王城に行くには、どのみちガフとやらなければならないの。それならその前に兵など置かず。魔王城の防衛に回しているはずよ。」
「いるとしても少数か。直線に抜けれれば、比較的早く着けるな。」
「護衛がてらアリアンから増援もつけるわ。」
「それは助かる。」
「貴方はどうするの?」話が纏まった時、ルドミナがヤルグに訊いた。
窓を向いていたヤルグが皆を見た。
「俺はメルダーナに行く。」
「メルダーナですか?」レックスが少し驚いて返した。
「お前に渡した剣の代わりをドワーフたちに頼むのでな。」
「だったら、途中まで一緒に行きますか?」
「止めておけ。お前たちと馴れ合う気はない。」
「すみません。」レックスは何故か謝った。
今度はベイルが尋ねる。
「貴方はガイラックを倒したら、どうするつもりなんだ?」
何度も聞いた質問だった。
ヤルグは少し考えて、口を開いた。
「正直なところ、最早世界征服など、どうでもよくなっている。」
その言葉に人間たちは安堵する。
「だから・・・」ヤルグはレックスを見た。
「お前とケリをつける。」
「えっ!」一同が驚いた。
「そもそも俺の復活に、ガイラックの件は関係無い。もとを正せば、俺とお前の先祖が戦ったのが全ての始まりだ。」
ヤルグはゆっくり窓から離れた。
「それならば、この物語を終わらすには、俺かお前、どちらかが死ぬしかない。」
「そんな・・・」フィーナが呟く。
レックスは何も言わず、ヤルグを見つめた。
本音を言えば彼と戦いたくはなかった。しかし、彼は彼なりに考えて出した結論だろう。
「お前個人に対して思うことはないが、これは俺とお前の一族との宿命だ。」
「分かりました。」
「レックス!」思わずベイルが声を上げる。
「・・・大丈夫です。」
ヤルグはレックスを見た。その真剣な眼差しにアレンを見た気がした。
「まぁ、それまでにお前が死ななければの話だかな。」
ヤルグは「俺はもう行く。」と言って、部屋を出ていった。
残された者たちに沈黙が流れる。
ルドミナがそっと口を開く。
「まぁ、兎に角。貴方たちも早く出た方がいいわ。」
「・・・そうですね。」
レックスたちは新たな不安を抱きつつ、ファーランへと向かった。




