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duality  作者: eight
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ep62 獄炎の猟犬

「ヤルグ。お主、グレイスにおったのか。」

「ああ、そう言えばガイラックどもの土地だったな。挨拶を忘れていた。邪魔をしてるぞ。」

「ふざけよって!」ニドーレルが赤氷を飛ばす。

ヤルグの白炎は難なくそれを打ち消した。

それと同時にヤルグの放った白炎が町を凍らせていた氷を溶かした。

解放されたルドミナがヤルグに礼を言う。

「ありがとう。」

「人間との話し合いはついたか?」

「ええ。」

「ならばお前は生かしてやる。」

再びムチを手にしたルドミナを見て、ヤルグが言った。

「お前の助けなどいらん。奴を殺す上で、街が燃えるぞ。精々火消しでもしておけ。」


手の上に白炎を作り出したヤルグはニドーレルに言う。

「おい、老いぼれ。貴様に朗報がある。」

「朗報じゃと?」

「力を取り戻した俺の最初の犠牲者だ。光栄に思え。心配するな、楽には殺さん。じっくりと痛ぶってやる。」

ヤルグが白炎を放つ。

ニドーレルが赤い氷壁を張るが、白炎はそれを溶かし貫いた。

ニドーレルは白炎を躱して、氷塊を2つ放つ。それにはウニの殻のように無数の棘が付いていた。


ヤルグが横に跳んで避けた時、ニドーレルが力を込めると氷塊が破裂し辺りに棘が飛散した。

ヤルグは自身に向かう棘に白炎を薙ぎ払って燃やすと、辺りの壁に刺さっていた棘を一本引き抜いた。


壁に駆け上がり、屋根に登ったヤルグはニドーレルに向かって跳ぶ。

咄嗟にニドーレルが赤い氷壁を張るが、右手に纏わせた白炎で殴るように突き破ると、左手に握った氷の棘で切りつける。

左腕を切られたニドーレルは「ぐっ!」と呻くと足元の氷塊を動かし距離を取った。


ニドーレルが左腕を押さえる。傷は深く無かった。

「おのれ、ヤルグ。」

ニドーレルの血の付いた棘を壁に刺して、ヤルグが言った。

「これで準備は整った。お楽しみはこれからだ。」

ヤルグの両手に白炎と闇の球体が現れる。

それを見たルドミナが呟く。

「まさか・・・複合魔法!」

「火消しの準備は出来てるか?こっから先は俺でもどうなるか読めんぞ。」

ヤルグが両手を合わせるように動かすと、手の間で2つの魔法が混ざり合う。

ルドミナも見るのは初めてだった。


通常、魔法を使う者は生まれ持った特定の属性に特化する。魔導士の道を選んだ者ならば基本的な初級の属性魔法なら使えるが、強力な魔法はそれぞれの属性のものとなる。

しかし、神や天使、魔族の一部の者は、ヤルグのように自身の属性とは別に、光や闇の魔法を使える者がいる。

そうした者の中で、魔力のコントロールに長けている者だけが使える魔法。それが複合魔法だった。

2つの属性を混ぜる事は非常に危険で、一歩間違えれば大爆発を起こす。しかし、そうして生み出された複合魔法は極めて凶悪な力を持つと言う。


ヤルグの前で白炎と黒い球体が混ざりあい、灰色の魔力の塊が出来る。

それは見る見るうちに一頭の獣の姿に変わった。

漆黒の体に白く光る眼、血のように赤い爪を持つ犬。その全身は炎の如く揺らめいている。

ニドーレルとルドミナは驚いていた。魔法陣から呼び出すではなく、魔力から魔物を作り出す。それは初めて見る光景であった。


「見るのは初めてか・・・獄炎の猟犬、ケルベロスだ。」

ケルベロスが遠吠えをする。

「こいつは魔物じゃない。魔法生物でもない。自我を持つ魔法だ。だから物理攻撃は効かん。」

そう言ってヤルグはニドーレルの血の付いた棘を壁から引き抜き、ケルベロスに向けた。

「そして最大の特徴は、血を覚えた者を死ぬまで追い詰める。」

棘に付いた血を舐めたケルベロスの身体が一瞬白く燃え上がり、ニドーレルに向けて牙を剥き出し威嚇し始めた。

「・・・行け。」

ヤルグの号令と共に、ケルベロスが走り出すが、すぐに姿が消えた。

家の壁に現れたケルベロスが壁を蹴って跳ぶと再び消える。次に現れたのは屋根の上だった。

その身体は揺らめく炎のように、現れては消えを繰り返しながらニドーレルに迫っていく。

何もない空中でも何かを蹴るように跳んだケルベロスがニドーレルに牙を向ける。

横に大きく移動して避けたニドーレルが、赤い氷柱(つらら)を放つも、ケルベロスはそれを嚙み砕いた。

「無駄だ。白炎を混ぜている以上、貴様の魔法は効かん。」

反撃しながら逃げるニドーレル。だがケルベロスはそれを全て躱しながら、執拗に追いかけていく。

「今の貴様は、最早ただの獲物に過ぎん。逃れる術は俺を殺すことだけだ。まぁ、それも無理だろうがな。」



ケルベロスが吐いた白炎がニドーレルを浮遊させていた足元の氷塊を捉え、溶かした。

「しまった!」

落下しながら再び氷を作り出そうしたニドーレルの肩にケルベロスが噛み付く。

その瞬間、一気に燃え上がるとそのまま大爆発を起こした。周りの数軒の家が吹き飛ぶ。

黒々とした煙が晴れた時、そこにはニドーレルとケルベロス、どちらの姿もなかった。


煙の中から転がってきたニドーレルの仮面を見て「顔ぐらい拝んでおくべきだったか。」とヤルグが興味無さげに呟いた。



爆発の方を見て唖然としているルドミナにヤルグが話し掛けた。

「済まないな。いくつか家を壊したらしい。」

「貴方を敵にしなくて良かったわ。」

「お前さんから見て、今の俺はガフに勝てると思うか?」

ルドミナは少し考えた。

「正直なところ、分からないわ。彼がこちらに来てから、本気を出したところを見たことないの。」

「そうか・・・まぁいい。約束通り、情報を寄越せ。」

「もうちょっとだけ待って。人間たちを呼ぶわ。どうせなら情報を擦り合わせた方がいいでしょ?」


ルドミナは壊れた家の破片を拾い。変わり果てた街を見ていた。

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