ep61 水竜ルグリアス
最初の気づいたのはフィーナだった。
「みんな、あれ!」
皆が振り向き驚く。
「何だ?」
「魔物?」
次の瞬間、水飛沫を上げ、蒼い鱗の持つ長い水竜が現れた。
「竜だと!」
挟まれる形になったベイルが慌てて剣を構えた。
「背中合わせで戦え!」ベイルが叫ぶ。
その時、猛火獣が飛ばした炎を水竜が全て打ち消す。
「え!」
驚く一同に水竜が口を開く。
「案ずるな、人間よ。我が名はポ・・・ルグリアス。古くからこの湖に棲む、あの町の守護者。其方達の味方だ。」
何故か、名乗る前に少し間が空いた。
「守護者・・・」
猛火獣は水竜に威嚇をしている。
「フレイムオセロスか・・・随分珍しい魔物だな。」
水面から無数の水球が現れ、次々と猛火獣へ向かっていく。
避けることも叶わず水球を喰らった猛火獣は、雄叫びを上げながら倒れ、激しく悶えた。
「す、すごい。」思わずフィーナが溢す。
「人間よ、道を開けよ。」
その言葉にレックスとベイルが離れ、水竜と猛火獣の間の場所を開けた。
水竜が口を開き、力を溜めると、下から上へ首を振るように水流を発射した。
線のように細く絞られた水流が地面をえぐりながら一直線に猛火獣へ向かう。
一瞬の間が空き、えぐられた地面の隙間から大量の水が一気に噴き上がる。
猛火獣の巨体は軽々と跳び上がり、地面に叩きつけられるとそのまま動かなくなった。
馬に乗ったオリビアが戻ってくる。
「皆、無事か?」
「ああ、しかしこれは一体。」ベイルが返した。
「住人に訊いたんだが、ある旅人が彼を呼ぶための笛を託したらしい。」
「守護者というのは本当だったのか・・・」
「ああ、ただ一つ疑問がある。その旅人はデルタニアの魔物研究者を名乗ったらしい。確かに研究者はいるが、こんな時に一人で旅などさせるわけがない。」
ルグリアスがオリビアに答える。
「その方は魔王ヤルグ。我の古き主だ。」
「ヤルグ!」
「貴方はヤルグさんの配下だったのですか?」レックスが尋ねた。
ルグリアスはレックスの持つ聖剣を見た。
「其方は我の古き主と会ったのだな。」
「はい、お会いしました。」
するとルグリアスの目の光が消え、ゆるゆるとレックス達に近づいた。
「ではヤルグ様は、やはり人間の味方をしていらっしゃるのですねぇ。」
急に態度と声色が変わり、一同は困惑した。
「え、あ、はい。多分・・・」
「やはりそうでしたか。何だかんだ言って人間が好きなんでしょうねぇ。まぁ、取り敢えず、この町は私で守れるんで大丈夫です。でもアリアンを統治している魔物は人間を襲わないって噂を聞いてたんですがねぇ。」
「それは・・・」
ベイルが一連の経緯を説明した。
「なるほど。離反ですか・・・大罪ですねぇ。人間にとってはそっちの方が都合が良いんでしょうけど。まぁ、あなた方はすべきことをして下さい。」
「ルドミナが負ければ、また状況が変わってくると思うので注意しておいて下さい。」
「それに関しては大丈夫だと思いますよ。港町の方からヤルグ様の魔力を感じます。それも以前よりかなり高くなっておられる。ニドーレルと言う奴が四天王なら見逃すことは無いでしょう。」
「で、では我々は西の町を見てきます。」
「はい。そうして貰って。ヤルグ様にお会いしたら宜しくお伝え下さい。あっ!」
そう言うとルグリアスは湖から這い出し、猛火獣の元へ行く。
口で咥えるとそのまま湖の中へ放り投げ、再び湖に戻った。
「いやぁ、魔界の魔物なんて、今晩はご馳走ですねぇ。」
一同はずっと困惑している。
「それでは私はこの辺で。」
「あ、ありがとうございました。」フィーナがお礼を言った。
「いえいえ、では。」
ルグリアスは湖の中に消えていった。
しばらく一同は無言で湖を見つめた。
「な、なんか色々と凄い方でしたね。」レックスが呟く。
「ああ、兎に角、敵でなくて良かった。」ベイルが同調した。
「ここの住人の避難はしなくて良さそうだな。」とオリビア。
「とりあえず、サッカに戻って、南に向かいましょう。」
ルドミナは肩で息をしていた。身体のあちこちには傷がある。
「まだ抗うか。諦めの悪い奴め。」
ルドミナの魔法は、ニドーレルの赤氷に寄って、全て無力化されていた。
ルドミナの足元から大きな水流が現れ、持ち上げるように高く上がった。
ニドーレルに向けてムチを振るう。魔法が無理ならば、物理でいくしかなかった。
ニドーレルが盾にするように氷壁を張る。
「甘い!」ルドミナは手首を返し、フェイントを掛けると、手に持っていた杖を叩き落とした。
「やりおる。だが杖を失ったところで何も変わらぬわ。」ムチに叩かれた手を擦りながら、ニドーレルは余裕を見せる。
「分からぬか?お主は自らの手で、自分を追い詰めていることを。」
「何が言いたいの?」
「周りをよく見よ。」
グレイスの街は二人の戦いで水浸しになっていた。
「そろそろ終わらせるか。」
ニドーレルが力を込めると、街中の水が赤く染まりながら凍っていく。
「しまった!」
言うよりも早く、ルドミナを持ち上げていた水も凍りだし、下半身まで凍りついたルドミナは身動きが取れなくなった。
氷を壊そうと魔法を放つも、着弾と同時に凍りつき、為す術は無くなった。
ニドーレルが手を掲げると赤い氷柱が形成されていく。
それは他の氷よりも赤く染まり、深紅の角のようにも見える。
「最終勧告じゃ。お主がアリアンの人間を全て殺すと言うのであれば、命だけは助けるようガイラック様に進言してやろう。」
「ふざけないで。」
「クックックッ。では終わりだな。始めから分かっていたはずじゃ、お主の水が儂の赤氷に勝てぬことなど。勝てぬ者に挑むの勇敢ではない。愚か者の所業じゃ。」
ニドーレルが手を振り下ろすと氷柱が飛んでいく。
ルドミナは思わず目を瞑った。
突如、横から飛んできた白炎が氷柱当たり、けたたましい音と共に爆散し、一体に水蒸気が広がる。
「なんじゃ!」驚いたニドーレルが横を見ると、そこにはヤルグがいた。
「ヤルグ!」ルドミナが叫ぶ。
「ならば、貴様も分かっているだろう。貴様の赤氷が俺の白炎に勝てぬことを。」




