ep59 魔力の坩堝
「ルドミナ様。住人の避難は完了致しました。」
「追っ手の規模は?」
「不明です。」
「そう。なら貴方たちも逃げなさい。」
「しかし、グレイスの守りは?」
「私がやる。ニドーレルと私の戦いは魔法の撃ち合いになるわ。下手に兵を増やしても、負傷者が増えるだけ。彼もそれを分かってるから、配下の者は南部への進攻へ回すはず。」
「では我々は南部への移動をしつつ、追っ手の迎撃ですか?」
「そうね。後、あの人間たちも。同盟を結んだのに、使者を死なせては元も子も無くなるわ。彼らは必ず生きてデルタニアに戻らせて。」
返事をした魔物が出ていく。
ルドミナの水に対して、ニドーレルは氷。属性の相性は向こうに分があった。純粋な魔力としてもニドーレルの方が上だ。
ルドミナはそれを理解した上で、一人で戦う事を決めた。
(例え、刺し違えてでも・・・)
ニドーレルは宙に浮いていた。正確に言えば魔法で作り出した氷の塊の上に乗っている。
「出てきおったか。」
街に一人残ったルドミナが姿を現す。
「ガイラック様を裏切るとは、とんだ恥晒しめ!奴隷出身だと心まで卑しいと言うのか!」
「何とでも言えばいいわ!何と言われようと私はこの街を守る。」
そう言うとルドミナの方から仕掛けた。
ルドミナの周りにいくつかの水の塊が発生し、ニドーレルに向けて飛んでいく。
ニドーレルは杖を使うまでもなく、氷壁を作り出し、それを防いだ。
そのまま杖で氷壁を小突くと、バラバラに割れて、つぶてとなった氷が、今度はルドミナへと飛ぶ。
ルドミナが手を翳すと地面に水流が発生し、その上を滑るように移動して氷を躱す。
ニドーレルが杖を翳すと先ほどとは違う、円錐型の氷柱がいくつか出来て、ルドミナを追尾するように飛んでいく。
ルドミナは水上を移動しながら、腰に着けているムチを取った。
そのムチはグムアビスと言う巨大な海獣のヒゲから作られ、水の魔力を高める効果を持つ。ムチは扱いが難しく、あまり戦闘向けではないが、彼女はそれを巧みに使い、追ってくる氷柱を全て打ち砕いた。
ルドミナはムチを建物の角に引っ掛けるとその屋根の上まで跳び上がり、空中で自分の脚をニドーレルに向けるように横向きになる。
拡げた脚の触手の先から線状の水流を収束し、一本の太い水流がニドーレルを襲う。
再度、氷壁を展開したが、受けきれないと判断したニドーレルが横に避ける。
「小癪な!」
杖の先から放たれた小さな光がルドミナの足元に向かう。着弾と同時に下から氷塊が突きだし、ルドミナが吹き飛ばされる。
ルドミナは地面に落ちる前に、水流を起こし、落下の衝撃を抑えた。
街の中は両者の魔法で、まるで水害にあったかのようにボロボロになっていた。
また作り直さなくては。苦々しく思いながらも、ニドーレルを方を見る。
互いに数多の魔法を撃ち、防ぎ、躱す。一見互角のようにも見えたが、ニドーレルがまだ本気で無いことを、ルドミナ自身分かっていた。その前に何とかして致命傷を負わせなければ。
ムチの先を水に浸すと、そこから延長するように水のムチが出来る。
ルドミナがムチをニドーレルの足目掛けて放つ。
足にムチが巻き付いたが、ニドーレルが手を翳した瞬間、ムチの先から凍っていく。
ムチを辿るように凍りだした為、ルドミナは水を払いのけた。
ニドーレルが凍っていた部分を、すぐさま氷のつぶてに変えてルドミナに飛ばす。
避けようとしたが、刃は腕を掠めた。
「くっ!」
「無駄な事を。何がどうあれ、お主の水で儂を倒すことは出来ん。」
ルドミナが口の前に手を翳すと泡が現れ、息を吹きかけると無数の泡が飛び、ニドーレルに纏わりつく。
アクアブレス。その泡に攻撃にはならないが、目晦ましと俊敏性を下げる。
「こんな悪足掻きを。」
ニドーレルが泡を凍らせていくが、次々と纏わりつくため、苦戦している。
その間にルドミナは後方の海に手を翳し、魔力を込める。
ニドーレルが泡を突破すると、海に無数の気泡が出ているのか見えた。
「ドルフマーレか。流石じゃのう。」
翳していた手をニドーレルに向けた瞬間、海から大きな魚の形をした大量の水が、イルカのように飛び出し、地面に潜る。それを何度も繰り返して翻弄しながら、最終的にニドーレルの目掛けて体当たりした。
だがそれもニドーレルが触れた瞬間に止まり、凍り始めた。
「無駄だと言ったであろう。」
ルドミナの狙いは別だった。ニドーレルがそちらに気を取られた時に、先程の水のムチを足に放っていた。
そのままニドーレルを浜辺の方へ投げ飛ばした。
「くはぁ!」
ニドーレルは浜辺に叩きつけられた。
海に近い方がルドミナにとっては有利だった。だがニドーレルにはそんなことは杞憂するまでもなかった。
ニドーレルがゆっくりと立ち上がる。
「地の利を得たつもりかのぅ?」
ルドミナの放った水をニドーレルが全て相殺する。
「これなら?」
ルドミナが地面に手をやると、ニドーレルの周りの砂が盛り上がる。
「なんじゃ!」
水を含んだ砂を操ったのだ。完全な水でない以上、ニドーレルの魔法では凍らしきれなかった。
砂が球体となりニドーレルを包み込み、拘束する。
「捉えた!」
ルドミナは再度、触手から水を収束すると特大の水流をニドーレル目掛けて放った。
水流が当たると、砂を巻き上げて大きな爆発を起こした。
ルドミナは大きく息を吐いた。
「何とか守れた・・・」
「なにをじゃ?」
砂煙の中から声がする。
「嘘・・・」
砂煙が晴れたそこには全身を赤い氷で覆ったニドーレルがいた。
「赤氷・・・」
それはニドーレルが本気を出した証拠だった。
ルドミナは死を近くに感じながら、それでも戦うしかなかった。




