ep58 邂逅
密談を終えた二人が戻ってくる。
「結論は出たかしら?」
「我々としては、正式にアリアンと同盟を結いたいと思います。」
「それは有り難いわ。勿論、必要であればこちらからも増援を出すわ。」
「正直なところ、もっと早く提案して頂ければ、互いに無駄な血を流さすに済んだんですがね。」
「実は独立に関しては別に切っ掛けがあるのよ。」
「と言うと?」
「魔王ヤルグの復活ね。」
「魔王ヤルグ!」
ヌドラ湿原でルンドルから告げられて以来、ヤルグに関する情報は無かった。
「奴はどこで何をしているのですか!」
ベイルの質問に、逆にルドミナが驚いた。
「え?貴方たち知らないの?」
「え?」
「ノワルドのあの魔法は彼がやったのよ。」
「何だって!」一同が驚く。
「聖騎士アレンが・・・」オリビアが呟いた。
「なるほどね。ヤルグの名を名乗る訳にはいかないわね。」
「奴は人間側についてるのですか?」
レックスが尋ねた。
「どうかしら?直ここに戻ってくるから本人に訊いてみたら?」
「奴がここに?」
「ええ、彼とも停戦をしたいんだけど、貴方たちと先にしておく必要があったからね。少しの間、出払って貰ってるの。」
「魔王ヤルグ・・・」レックスが呟く。
「私は住人の避難の準備をするわ。彼と会うのは構わないけど、貴方たちも早めに街を出てね。」
ヤルグはグレイスに戻ってきた。
数日は経ったから、人間との話し合いはケリが着いているだろう。
アリアンに敵意が無い以上、次はやはりムビアナに向かうことになるだろう。
ルドミナの話では、ガフはムビアナで籠城しているらしい。いよいよ決着をつける時が来る。
ルドミナの家に向かうと別の建物から人間たちが出てくるのが見えた。格好からして話し合いの相手だろう。
ヤルグはその中の一人に目を止めた。
茶色の髪をした黄色いローブの少女だった。
ヤルグの心臓が脈打ち、鼓動が早くなる。
(あの娘は一体・・・)
ヤルグがずっと見つめている事にフィーナが気づいた。
「勇者様、あの人なんかずっと見てくる。」
「え?」
レックスがヤルグを見て、彼の持つ剣に気づいた。
「魔王ヤルグ・・・」
「なに!」ベイルとオリビアが驚く。
4人はヤルグに近づく。ヤルグはその間もフィーナを見つめていた。
「貴方がヤルグさんですね。」
レックスの言葉にヤルグがレックスを見た。
「そうだ。お前は?」ヤルグにはすぐに誰か分かったが、あえて訊いた。
「レックス・ビルハートと言います。」
自分を殺した者の末裔。正直、面影は無い。もっと禍々しい感情が湧くかと思ったが、不思議と何も感じなかった。
「初対面で失礼なのは分かってるんですが・・・」
何を言うか分かっていたヤルグは、その先を継いだ。
「この剣を譲ってほしい。か?」そう言って剣を抜いた。
レックスは少し驚いたが、すぐに「はい。」と答えた。
「お前は俺が誰で、この剣で何があったかを全て理解した上でそれを言っているのか?」
自分の先祖が殺した時に使った剣を、その殺した相手から貰い受けようとしている。何とも不可思議な話だ。
「はい。」レックスはヤルグを真っすぐ見つめる。
ヤルグもその目を見た。
二人は探り合いと言うよりは自身と相手を確かめ合うようにしばらく見つめていた。
「ただでくれてやるという訳にはいかない。」
「それは分かっています。」
「そうだな・・・」ヤルグは再びフィーナを見た。
「その娘を俺に寄越せ。」
その場の全員が驚く。
「ダメダメ!ぜ~ったいダメ!!私は勇者様と結婚するんだもん!」
慌てて拒んだフィーナだったが、自分の言葉に気づいて赤面した。
レックスもまた顔を赤らめる。ベイルは「大胆だな。」と呟き。オリビアが「出来ぬ年齢では無いか・・・」と溢した。
「違う違う。今のは違うの!」とレックスに謎の弁解をしているフィーナにヤルグは言った。
「お前は一体何者なんだ?」
フィーナを見ると何故か胸が高鳴り、鼓動が早くなる。
「え、何者ってただの僧侶ですよ。」
その時、レックスが気づいた。
「フィーナ!違うよ。あれだよ。」
「あれ?あれって何?」
レックスはフィーナの持つ袋から一つの角笛を取り出した。
「あ、そうか。」フィーナが呟く。
レックスは角笛をヤルグに差し出す。
「これと引き換えに、その剣を下さい。」
ヤルグは目を見開き、その角笛を手にした。
「これは・・・」
「魔王ヤルグの・・・いえ、貴方の角です。」
手にした瞬間、全身に駆け抜けるような魔力を感じ、自然と持つ手が震えた。
ヤルグはレックスに剣を差し出す。
「商談は成立だ。持っていけ。」
「ありがとうございます。代わりに僕の剣を。」
「いらん。当てはある。」
ベイルが横から口を挟んだ。
「貴方はこれからどうするのですか?」
「俺は・・・」
言い掛けた時、けたたましい警鐘が鳴り響く。
「敵が来るぞ!住人は街を出て、南部へ退避させろ!!」誰かが大声で叫んだ。
「僕らも戦いますか?」
「いや、彼女の言う通り、南に逃げる住人達を護衛しつつ、迎撃しよう。」
ゼムがやって来る。
「済まない。住人達を逃がすのを手伝ってくれ。」
「分かりました。」
迎撃に向かう者と逃げる者で街中は騒然としていた。
「ヤルグさんも一緒に!」
人込みの中でレックスがヤルグに話しかけた時、そこにはもう彼の姿は無かった。




