ep55 燃えゆく矜持
ポルガの街は混乱を極めていた。
リベル軍の襲来に、人々は避難の為、走りまわる。
悲鳴や怒号ともとれる声が響き渡る中、男にぶつかり、一人の少女が転んだ。
ポッソムの村でフィーナが助けた少女。ニーナだった。
両手を地面についたニーナが悲しそうに呟く。
「ポッソムが無くなって・・・ポルガまで。そんなの、そんなのって・・・」
ニーナを口角がニヤりと上がる。
「面白過ぎるじゃない。」
その声は少女のものではなかった。
次の瞬間、どこからともなく現れた無数のコウモリがニーナを包む。
コウモリが離れた時、そこにいたのは八傑集ジェニアだった。
「さーって!お仕事しますか。」
ジェニアが指を鳴らすとコウモリたちは次々と魔物へ姿を変える。
「あんた達、兵隊さんは皆、門に行ってるよ!好きなだけ暴れなさい!」
魔物たちは雄叫びを上げ、街を襲い始めた。
予想外の挟み撃ちを受けたポルガ軍は一気に追い込まれた。
何よりも、街の中がどうなっているのか分からない事が兵たちの心に揺らぎを生み、統率を乱す。
次々と兵は倒れていき、最後まで抵抗したロイも遂には力尽きた。
倒れたロイにリベルが槍を突き刺す。
「敵にするには惜しい逸材だった。」
槍から火が噴き出し、ロイの身体を焼いた。
街の中に入ったリベルの元へジェニアがやって来る。
「おつかれさまで~す!」暴れ楽しんだのか上機嫌に言う。
対称的にリベルが冷静に言う。
「状況は?」
「もうほとんど制圧してますけど、王様のお爺ちゃんが強いみたいでてこずってます。」
「なるほど。私が行こう。貴公は街に火を放ち、ガイラック様にポルガは墜ちたと伝えよ。」
「了解しました。」
「男を喰らいたければ、好きにすれば良い。」
「良いんですかっ!ありがと~ございま~す。」
ジェニアは舌舐めずりをしながら、嬉しそうに去っていった。
リベルが王の間の扉を開く。
中にはアルム王が一人の立ち、周りには数体の魔物が倒れている。
「老体にも関わらず、お見事なことだ。」
リベルが騎士らしくお辞儀した。それが高貴な者に対する儀礼なのか、皮肉なのかは分からなかった。
アルム王は拳法着の帯を強く結び直すとゆっくりと構えた。独特な気迫のようなものが漂う。
年相応の恰幅の良さがあった。ロイより素早くはないだろう。
リベルが仕掛ける。
突き刺したその槍を掴んで捻る。槍を捻っただけにも関わらず、リベルは床に叩き付けられた。
続けて踵落としを入れるが、転がるようにリベルが躱した。
しばし睨み合いが続き、再びリベルが仕掛ける。
今度は刺すと見せかけ、切り上げる。
見切っていたアルムが身体を反らして避けるとそのまま両手で掌底を放つ。
リベルは跳んで躱すと顔目掛けて切り払う。
アルムはそれを右腕で受けた。生身の腕で受けるも、それは鉄のように刃を拒んだ。
槍から火が噴き出すが、アルムは一切動じずに正拳を放ち、リベルを壁まで飛ばした。
立ち上がり、埃を払いながらリベルが言う。
「敵ながら凄まじい精神力。一度、ご教示願いたいところだな。」
「・・・卑賊めが。」
「とは言え、私も暇ではない。そろそろ終わりにさせてもらう。」
アルム王の鉄壁とも言えるその力でも、リベルには無効化する策があった。その手段もロイとの戦闘で得ている。
リベルは攻撃を仕掛ける。だが当てるつもりはない。アルム王の反撃を躱すことに徹する。
攻防が続く中、リベルが思い出したように呟く。
「そう言えば、貴公の娘。あれは確か・・・ライムと言ったか。先の戦いで戦死したことは知っているか?」
その言葉に一瞬だけ動揺を見せた。その隙をリベルは見逃さなかった。
槍がアルム王の胸を貫く。
「ぐふぅ!」と呻き声を上げた時には終わっていた。
目を見開き、口元から血を流すアルム王の耳元にリベルが顔を寄せる。
「今のは嘘だ。だが心配する事はない。貴公の娘は私が責任を持って、そちらに届けよう。」
槍から噴き出した炎がアルム王を包む。
それを蹴って、槍から抜いたリベルは、そのまま部屋を出ていく。
倒れたアルム王から火が床に燃え移り、王の間は火の海と化した。
壁に掛けられたポルガ王家の紋章は、揺らめく炎の中へ消えていった。
「ライムさんは大丈夫でしょうか?」レックスが不安を口にする。
「こればかりは、どうすること出来ない。彼女を信じるしかないな。」ベイルが返す。
グレイスに向かう一行は森を進んだ。少数による行軍、魔王軍の統治下にある以上、町に出るのは危険だった。
出来るだけ最短ルートを辿るよう、直線にグレイスを目指している。
オリビアが口を開く。
「兵たちの中にも故郷の町を失った者はいる。大抵の場合、怒りに刈られるか、悲しみに沈む。最悪の場合、自死を選ぶ者も・・・」
「ヴィクトールをつけているから、その心配はないと願いたいな。」
「問題はルドミナだな。」
「彼女は何を考えているのでしょう?」
「正直分からん。四天王が寝返るなど、罠としては怪しすぎる。だが、奴が我々につくメリットも見当たらん。」
「ガイラックとの間に何かあったと考えるのが妥当だろうか?」
「とにかく、最悪の事態を考えて、覚悟だけはしておいてくれ。」
レックスたちは一抹の不安を抱えながら、グレイスへと向かった。




