ep37 3つの力
ギザがマジックシールドを展開した時、その向こうで上から跳んできた一人の騎士が、兵が付けた肩の傷目掛けて、剣を振り下ろした。
竜の肩から血が噴き出す。騎士はそのまま顔目掛けて回し蹴りを繰り出し、竜は怯んで後退した。
「大丈夫ですか?今、回復を。」
横から現れたシスターがギザと兵に回復魔法を掛ける。
「何故一般市民がこんなところに。早く城へ逃げなさい。」
同調して騎士が言う。
「エミリア!そのじじいの言う通りだ。早く避難しろ。」
「嫌です。私もヤルグ様とともに戦います。」
その言葉にギザは思わず声を上げた。
「ヤ、ヤルグじゃと!」
ギザの言葉にヤルグが振り向く。
ギザはヤルグの顔を見て、手にする剣を見て、目を見開く。
勇者アレンが聖剣を隠した理由として、まことしやかに囁かれていた噂の一つ。
魔王ヤルグが死ぬ間際に復活の呪いを掛けた・・・と。
ヤルグはギザの考えを理解した上で口を開いた。
「じじい・・・今は戦う事だけ考えろ。」
正論だった。あの男が何者で、何故ここにいるのか。しかし、男は剣を手にして魔王軍と戦っている。
ならばギザのすることはひとつ。祖国の無事を優先する。他の事は後回しで構わなかった。
ギザは頷き、エミリアに礼を言うと、立ち上がり声を上げた。
「竜はその騎士に任せて、他の者は飛行部隊を迎撃せよ。」
兵たちは投擲に使える物を探しに行く。
ヤルグは「それでいい。」と呟くと再び竜に向かっていく。
爪による攻撃を躱すと腕を切りつける。小さな傷が入った。
成熟しきっていない個体とは言え、鱗は硬い。だがゴーレムのとの戦闘に比べれば、充分な手ごたえを得られた。しかし攻撃力と俊敏性はゴーレムの比ではない。攻撃を躱す事に集中する必要があった。
幸い、魔物たちはノワルド軍のお陰で邪魔してくる事はなく、ヤルグは着実にダメージを与えていった。
竜のブレスを躱そうとした時、自分の後方にエミリアがいることに気付いたヤルグは、咄嗟に闇魔法を放った。
属性の相性に優劣がなければ、異なる属性がぶつかる時、爆発が起きる。避け切れる距離ではないと悟ったヤルグが剣の腹を盾代わりに構えた。
爆発が起き、ヤルグは2mほど後退した。竜もまた、首をもたげて怯む。
反撃に転じようとしたヤルグに左から衝撃が走り、その身体が吹っ飛んだ。
「ぐはぁ!」地面を転がり、強い痛みを感じたヤルグがそちらを見ると、そこには2頭目の竜がいた。
ヤルグを襲ったのは、その尻尾による一撃だった。
「くそっ!」
上空でグランドムが笑う。
「どうする?2頭相手に立ち回れるか?」
グランドムが2頭目を誘導してきたに違いない。
「その首は、俺が責任を持ってガイラック様に届けてやる。」
グランドムが兵たちの迎撃を躱しながら、再び笑った。
2頭の攻撃を躱し続けていたが、攻撃に転じる事は難しかった。その威力の高さから、追撃されれば流石のヤルグにも厳しいものがある。
しかし、一瞬の隙を突かれ、ヤルグが吹っ飛ぶ。
片膝をついたヤルグに向けて、一頭が突進を仕掛ける。
(まずい!)
何とか避けようとした時、大きく、野太い声が響いた。
「屈めぇー!!」
その声に反応しヤルグは伏せた。その上を何かが通っていき、衝撃音が響く。
大男だった。鍛え上げられた裸の上半身は筋骨粒々としており、普通の人間の太もも程の太さの腕をしている。
手入れのされていない伸びた髪は肩の辺りで雑に結われ、髭はドワーフのように首まで伸びていた。
大男は、もはや鉄の板とも呼べるような幅広の両手剣の腹で竜の突進を受け止めた。
ヤルグが目を見開き驚く。
(竜の突進を受け止める人間だと!)
「ロズウッド様!」ギザの声が響く。
ノワルド王国ローランド王の長子にして、ノワルド軍の正式な軍団長。ロズウッドその人だった。
兵たちは驚き、次々に「ロズウッド様だ!」「お戻りになられた!」と声を上げる。
「ギザよ、すまん!出遅れた。」
そう言ってロズウッドは竜を跳ねのけ、一回転しながら両手剣のフルスイングを叩き込み、大きく後退させた。
そうして大きな声で叫んだ。
「者共よ!我らがノワルドに手を出した事、後悔させてやれっ!!」
その言葉に兵たちが雄たけびを上げる。そのカリスマ性は一瞬にしてノワルド軍の士気を跳ね上げた。
ロズウッドがヤルグを見る。
「お前さんはうちの軍じゃないな?」
「ああ。」
「済まんが我々に手を貸してくれ。」
「もとよりそのつもりだ。」
「忝ない。」
ロズウッドの登場はノワルド兵の動きを明らかに良くし、魔王軍は劣勢になり始める。
2頭の竜は、ヤルグとロズウッドが1頭ずつ引き受け、そこへギザの援護も加わった。
力のロズウッド、技のヤルグ、そして魔法のギザ。3人の力があることで、竜が劣勢に立たされるまで、それほど時間は掛からなかった。
ギザの雷撃で怯んだところを、白炎を纏ったヤルグの剣が捕えたところで1頭が断末魔を上げ、倒れた。
それを見たグランドムが声を上げる。
「撤退だ!上空へ撤退しろ!」
「させるか!」
ヤルグは竜の死体を駆け上ると、そのままグランドムに向けて跳ぶ。
グランドムは咄嗟に持っていた槍を投げつけた。
ヤルグは空中で横に魔法を放ち、その反動を利用して槍を躱すとそのまま切りつける。
避け切れないと思ったグランドムは近くにいた魔物を掴み、壁にした。
切りつけられた魔物は白炎に包まれ、悲鳴をあげながら落ちていく。
地面に降りたヤルグは、グランドムを睨みながら「屑めっ!」と吐き捨てた。
「ギザ!」ロズウッドの声が上げる。
ヤルグの躱した槍がギザの腹部に刺さっていた。
倒れたギザにロズウッドとエミリアが駆け寄る。
「ギザ!大丈夫か!しっかりしろ!衛生兵!衛生兵はおらんか!」
しかし、辺りには見当たらなかった。
「私が回復を。」エミリアが言う。
「頼む・・・」
「ロズウッド様!」兵が呼ぶ。
「何だ!」
「敵軍が高すぎて、弓も魔法も届きません。」
ロズウッドが見上げる。魔王軍はかなりの高度で停滞していた。
「落ち着け!こちらの魔法が届かんと言う事は、向こうの魔法も届かん。今のうちに奴らが降りてきた時の準備と残っている住人の非難をさせろ!」
「駄目だ。」空を見上げたままのヤルグが呟く。
「何だと?」
「竜のブレスは魔法では無く、内臓器官で生成される物質だ。」
皆が空を見上げる。
「奴の火球は・・・そのまま地上まで届く。」
次の瞬間。一発の火球が地上に向けて放たれた。




