ep38 デュアリティ
街中に火球が落ちて建物を破壊し、周囲を焼いた。
それを見たロズウッドが声を張り上げる。
「魔法が使える者は全員、マジックシールドと水魔法で迎撃しろっ!残りの者は消火活動と負傷者の手当てに当たれっ!」
ロズウッド自身も水を探しに走り出した。
ヤルグは黙って空を見ていた。
(奴のブレスは魔力を使うわけではない。長期戦になれば、いずれ人間側は持たなくなる。)
ヤルグは振り返り、ギザの元へ向かった。
回復をしているエミリアに声を掛けた。
「それ以上は止めとけ。」
「何てこと言うんですか!」
珍しくエミリアが声を荒げた。
「槍を抜いて傷口を縫わなければ、普通の回復魔法で治るものではない。今してるのは痛みに苦しむ時間を引き伸ばすだけだ。」
「えっ」エミリアはすぐに魔法を止めた。
「頑強を上げてやれ、多少は痛みが和らぐ。」
ヤルグに言われ、エミリアが補助魔法を使う。ギザの表情と息遣いが少し落ち着いた。
「エミリア。あの神父から結界の張り方は教わったのか?」
「え、はい。でも私の魔力では大きくは張れませんし、あのブレスには意味がないのでは・・・」
ヤルグはそのままギザを向く。
「大丈夫か?」
「もうこの歳じゃ、覚悟はしておる。」
「この街を救いたいか?その命に代えても。」
ギザは頷いた。
「エミリアにデイスライドを掛けろ。」
デイスライド。それは自身の魔力を他者に送る魔法。今のギザが使えば、長くは持たないだろう。
ギザは修道服のエミリアを見て、何かに気づく。
「おぬし、まさか異形魔法を。」
ヤルグは頷いた。
「異形魔法?」エミリアが疑問を口にした。
「異なる属性がぶつかれば、爆発が起こる事は知ってるな?」
「はい。」
「それを利用した魔法だ。空間内が一定の属性で満ちている時、異なる属性をぶつける事で空間内で大爆発を起こさせる。」
「大爆発!大丈夫なのですか?」
「さぁな。誰も見たことのない魔法だ。」
「誰も見たことがない?」
「異形魔法は属性の反発する力が強い方が威力が上がる。最も反発する属性が分かるか?」
「・・・光と闇。」
「そうだ。天界と狭界には高い闇魔法を使う奴はいない。魔界には、そもそも光魔法を使う奴などいない。理論上は存在するが、誰も使った事のない魔法だ。」
「じじい、人生の最後に見せてやる。究極異形魔法を。」
空の魔物の群れを見ながら、エミリアが不安を口にした。
「本当に出来るでしょうか?」
ヤルグがエミリアの肩に手を置く。
「エミリア・・・俺を信じろ。」
エミリアはヤルグを見て、一呼吸おくと祈るように手を合わせ、目を閉じた。
「・・・信じます。」
「じじい、やれ。」
「この命。お前さんに賭けるぞ・・・」
「その賭け・・・必ず勝たせてやる。」
ヤルグの言葉にギザが手をエミリアに翳した。
ギザの身体から光が流れ、エミリアへ身体を包む。
祈りの言葉と共にエミリアの身体が静かに浮いた。
祈りを終え、目を開いた瞬間。
空中の魔王軍を囲むように、うっすらと巨大な白い球体の結界が現れた。
中の魔物が動揺し、一人が脱出しようとしたが弾かれ、閉じ込められている。
ヤルグは教会の町を出る時、エミリアに渡されたエルドポーションを飲む。
燃えるような魔力を感じた。
屋根に登ったヤルグが右手を天に掲げた。
力を入れると闇球が現れ、徐々に大きくなっていく。
それはあの日、勇者に放った一撃。いや、それ以上の大きさになっていた。
「その目に焼き付けろ。魔王軍ども。」
ヤルグが投げつける様に手を振ると、闇球が結界に向かっていく。
闇球が結界に当たる。バチバチと反発しながらすっぽりと結界の中に入り、結界の中心に留まった。
闇球がグラグラと歪む。その異常の魔力の高まりから結界の外の空が、昼間にも関わらず暗闇に包まれる。
真っ暗な世界で、白い結界の中に浮かぶ黒い球体。それはまるで深淵からこちらを覗く巨大な目玉にも見えた。
ガイラックと四天王は、その異常な魔力に反応した。
ガイラックは「何だこれは!」と驚き、
ニドーレルは「まさかこれは・・・」と正体に気づく。
リベルは「これ程までの魔力の高まり。」と疑問を呈し、
ルドミナは「嫌な風・・・」と呟いた。
そしてガフは無言のまま、ノワルド方面の空を睨み付けた。
闇球が歪みに耐えきれず弾け、結界の中で爆発が起きるが結界の外では一切の音はしなかった。
沈黙の中、結界の中で起こる、白と黒の入り交じる大小様々な無音の爆発を人々はただ呆然と見ていた。
やがて結界自体が収束されていき、小さな白い光になる。
夜の静寂に輝く一番星のような白い光が弾けた時、爆音とともに空の闇を払う強烈な突風が世界に広がった。
皆が身構えたが、一瞬の突風が過ぎると世界は元の姿へ戻っていた。
勿論、上空に魔物の姿は微塵もなかった。
走ってきたロズウッドが言った。
「何なんだ、今のは!」
屋根から降りたヤルグが言う。
「全て終わったんだ。お前さんにはやるべき事があるだろう。」
ロズウッドは暫しヤルグを見つめて、頷く。そして、大きな声で勝鬨を上げた。
「我々の勝利だぁ!!」
その言葉に全ての兵が歓喜の声を上げた。
ヤルグはエミリアに抱き抱えられている老いた魔導士を見た。
祖国の無事を見届けたその魔導士は、安らかな永眠についていた。




