ep31 ミカゲの城
「ヤルグ、ガフ様ともに大きな動きは御座いません。」
秘書官の言葉にガイラックはゆっくり頷く。
「ポルガの方は?」
「コルシュ街道にて大隊に交戦を仕掛けております。ある程度の戦力の減少は見込めるかと。後はジェニア様が動いております。」
「そうか。ミカゲはどうなった?」
「リベル様が向かいましたので、じき動くかと。」
「リベルなら問題ないな。」
「それから、グランドム様も準備が整ったとのことです。」
「氷壁はまだ開いておらぬのか?」
「不明ですが、開いたとしても大隊を動かせるほどではないと思われます。」
「なるほど、ならばノワルドを攻め入るよう伝えろ。これ以上人間どもを調子づかせるわけにいかん。」
「畏まりました。それと・・・」
秘書官は言いあぐねた。
「なんだ?」
「少し心配な事が御座いまして。」
「心配?」
「アリアンでルドミナ様が人間と我々を共生させているとの報告がありました。」
「どういう事だ?」
「分かりません。ルドミナ様は元々奴隷だったと聞きますので、そう言った事がお嫌いなのかもしれません。」
「うむ・・・」
ガイラックが少し考え込む。
「別の者を配属致しますか?」
「いや、あの女も腹の内は読みづらい。ニドーレルに監視しておくよう伝えておけ。奴ならば、万が一の場合でも魔法の相性が良い。」
「畏まりました。そのように手配しておきます。」
王都ポルガの西方に位置するチェミネル城。元々ポルガの王女ライムにより統治されていたが、魔王軍到来後すぐに侵攻された。兵たちは王都へ撤退したが、城は魔王軍の支配下となっている。
玉座には八傑衆の一人、ミカゲが座っている。
青みかがった紫色の短いツインテール、毛皮で出来た服を纏い、青色の爪は獣ように鋭い。そして、目を隠すように布が巻かれている。
玉座の間には彼女が従える無数の狼が休んでおり、その中の一頭が彼女の膝の上で撫でられながら眠っている。
ミカゲは上を見上げてポツりと呟いた。
「あぁー暇。またポルガに行って、王女でもおちょくってこようかしら・・・」
その時、気配に感じ、何頭かの狼が立ち上がる。ミカゲもそれに気づいた。
「簡単に背後を取られるものではない。」
玉座の後ろにはリベルが立っていた。
「殺気があるならちゃんと対処してるわよ。それで、何の用?」
ミカゲはつまらなそうに聞く。
「ガイラック様が心配しておられる。そろそろポルガを墜とせ。」
「えぇー、狼達が傷つくの嫌なのよね。デルタニアを墜とせば、勝手に降伏するんじゃない?」
「嘗ての魔王が復活した。ライノ・アズラ・ムシュラの3人もやられ、事態は悪い方向へ進んでいる。冗談を言っている場合ではない。」
「むぅ。」
「ジェニアもポルガ侵攻のために動き始めた。」
その言葉にミカゲの動きが止まる。
「面倒くさ。」
ミカゲは立ち上がると伸びをする。
「分かったわ。手柄に興味は無いけど、ジェビアに出しゃばられるのは気に入らないから、ポルガに行って喧嘩吹っ掛けてくるわよ。」
「遊ぶなよ。お前もガイラック様の八傑衆である事を忘れるな。いい加減にしなければ、たとえ妹であっても容赦はしないぞ。」
そう言うとリベルは去っていった。
「はいよ。お兄様。」
沼を抜けたレックス達は王都ポルガのすぐ南にある、ポッソムというのどかな村に着いた。
「オリビアさん達はまだ来てないようです。」村人に確認してきたレックスが言う。
「やはり、コルシュで何らかの戦闘が起きたのだろう。こちらもバルドスの件で遅れたから、同じくらいになると思ったがな。」
「応援に行きますか?」
「いや、どの辺りで戦闘が起きてるかも分からない以上、無駄足になるかもしれん。我々は先にポルガへ行こう。この村からなら半日も掛からないはずだ。」
「あの、少し休憩してもいいですか?」フィーナが聞く。
湿原を抜けてきたフィーナには疲れの色が見えた。
「そうだな。ここなら安全だろうし。私は警固の者に話を聞いて来る。二人はゆっくりすると良い。」
ベイルが去った後、フィーナが大きく伸びしながら言う。
「勇者様、ここってロロニアに似てると思わない?」
それは二人の故郷であるノワルドの小さな田舎町だった。
「確かに似てるね。」レックスは大きく深呼吸した。人の営みと草木の匂いに懐かしさを感じる。
「なんか不思議だよね。ついこないだまでロロニアから出る事だって珍しかったのに・・・」
「デルタニアを越えて、ポルガまで来ちゃったね。」
「これがただの旅だったら良かったのにね・・・」道沿いに植えられた花を触れながら、フィーナが寂しそうに言う。
「そうだね・・・」辺りを見渡す。
何気な日常を過ごすここの人々も、いつ戦火に見舞われるか分からない。
「お姉ちゃん、こっちにもキレイなお花いっぱいあるよ。」
小さな女の子が話かけ、フィーナを花壇に連れていく。
「本当だ~綺麗だね。」
「うんっ!」
レックスは楽しそうに話す二人を見ながら、こんな戦争を早く終わらせなければと思っていた。




