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duality  作者: eight
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ep30 旧知

「少し休むか?」ヤルグが声を掛けた。

「いえ、大丈夫です。」

町を出てから一度野宿をしたが、それでもほぼ丸一日歩いている。途中から道を逸れ、獣道を進んでいた。

ヤルグの魔力を恐れて、魔物が襲ってくることは無かったが、歩き続けるだけでも重労働である。



「ヤルグ様は一人で魔王軍と戦うつもりなのですか?」

「いや、必然的に人間たちと共闘するだろうな。」

魔王軍と人間軍。両方相手にするのは流石に分が悪かった。

「でも魔王を倒した後は人間とも戦うのですよね?」

「何だ。またその話か。」

ヤルグ自身、その答えは見つかっていなかった。

「他人の事より、自分の行く末を考えておけ。」

二人とも黙って沈黙が流れ、木々の揺れる音と草木を踏みしめる音だけが響く。


「人間と魔物がともに生きる道は無いのでしょうか。」

シスターらしい考えだと思いながらも、戦時下に言うことではないなとヤルグは思った。

「無くはないだろうが、お前の言う通り、全ての生き物が善で無い以上、いずれ争いは起きる。」

「人間と魔物双方に見識を持った指導者がいれば、出来ると思いませんか?」

「俺がその指導者になれと言うのか?」

「いえ、そう言うわけでは・・・」

ヤルグは鼻で笑う。

「お前さんの貴重な意見は、ガイラックに伝えといてやる。」

背後から小さな声で「いじわるです。」と聞こえたが、ヤルグはそれを無視した。



「さぁ、見えたぞ。」

森を抜けると、広大なメルダーナ山脈が広がっていた。

普段遠くに見えるだけだったが、実際近づくとその険しさが際立つ。

エミリアは呆然と見ていた。

「ヤルグ様、あれを越えるわけではないのですよね?」

「心配するな。もう少し東に行けば、ドワーフの坑道がある。そこを通るつもりだ。」

「ドワーフの坑道・・・」エミリアは無意識に復唱した。

「ドワーフは鉱石掘りと武具の作成を得意とする種族だ。と言うよりそれしか興味がない。必要な物を渡して依頼すれば、相手が人間だろうと魔族だろうと武器を提供する。だが坑道だけは自分たちの物だと、誰も通さないらしい。」

ヤルグは砦で見た資料の情報を話した。

「それでは通れないのでは?」

「いや、大丈夫だ。」

エミリアはヤルグの腕を掴む。

「暴力はいけません。」

「そのつもりはない。心配するな。」

そう言ってエミリアの手を外すと、歩き出した。

(ルグリアスの言葉が確かならば・・・)




坑道の入り口には鉄の柵があり、その奥では槍を持ったドワーフが二人いた。

「こちら側から人間が来るとはな。依頼は武器か防具か?」

「いや、依頼ではない。ゴロワを呼んでくれ。」

「長老を?何故だ?」

「いいから呼んでくれ、ヤルグが来たと言えば分かる。」

ドワーフの一人が訝しげな顔をしながらも奥へ消えていった。


しばらくすると、人の手を借りて一人の老ドワーフがやってくる。白く長い眉毛で目が隠れていた。

ヤルグはその姿に少し驚いた。

長老はヤルグの見て、次に手にしている剣を見て動きを止めた。武具に精通しているだけあって、それが何かすぐに気付いた。

「ま、まさか本当に。」そう言って再びヤルグを見る。

「俺がいない間に年を取りやがったな。」

長老は柵を開けて、すがりつくようにヤルグに抱きついた。

「お久し振りで御座います。」

「元気そうで何よりだ。」ヤルグは肩を軽く叩いてやった。

長老は柵の中へ招いた。

「どうぞ、こちらへ。」

「宜しいのですか?」

近くのドワーフが思わず、声に出した。

「この方は特別だ。通して差し上げよ。」

「済まないな。心配するな、お前さんたちの営みを壊す気はない。ただ2つだけ頼みがある。」

「何でしょうか?」

若いドワーフに手を借り、案内しながら聞いた。

「この娘をノワルドに連れていきたい。だから行き帰りだけ、ここを通らせてくれ。」

「はは、それは勿論。」

「後はブリスライトの装飾品を見繕ってもらいたい。出来れば、腕輪だ。」

「承りました。」



二人が案内された部屋には大きなテーブルと椅子があった。とは言え、ドワーフたちに来客などないから、恐らく食堂だろう。

テーブルの横には一人の若いドワーフがいる。

彼はヤルグを見ると少し驚いた。

「どうぞ。」と言われ、ヤルグとエミリアは椅子に座った。

「孫のザルクです。長老と言ったら聞こえは良いですが、今はただの隠居。ザルクがここを取り仕切っております。」

「貴方がヤルグさんなのですか?」

「ああ。」

「祖父の知り合いと聞いていたので、お年を召した方かと。」

「なるほどな。」ヤルグは経緯を説明した。



「そう言う事でしたか。」

「ゴロワの孫と言うこと、ノルズの息子か。」

「父も知っていらっしゃるのですか?」

「と言ってもまだ赤ん坊だったがな。今はいないのか?」

「20年前に魔物に襲われて・・・」

「そうか、それは済まない。」

「いえ・・・それで装飾品の件ですけど、2日ほど掛かりますが、宜しいのですか?勿論、泊まる場所はご用意します。」

「構わん。構わんが・・・」ヤルグはエミリアを見る。

「構わんか?」

「はい、大丈夫です。」

「この娘は普通の人間の女だ。ある程度配慮してやってくれ。」

「ええ、勿論。おい!」

呼ぶよりも前に恰幅(かっぷく)の良いドワーフの女が出てきた。

男と違い、太い眉と豊かな髭はないが小さく丸い鼻はよく似ている。

「家内です。」

女は頭を下げるとエミリアに話し掛ける。

「あらぁ~、素敵なお召し物。どうぞ、こちらへ。」人間の、しかも修道衣と言う、特殊な衣装に興味津々だった。

ドワーフ族は、男は鉱石や爪牙など素材、女は布や皮などの加工に長けている。

二人は楽しげに話しながら部屋を出ていった。


「そう言えば・・・ブリスライトなんですが。」ザルクが言う。

「無いのか?」

「いえ、そうではなく。実は「ザグロニアの瞳」があるのですが、そちらの方が良いですか?」

ヤルグの目が見開く。

「ザグロニアの瞳?そんな物がここで手に入るのか?」

ザグロニアの瞳は魔界で高い魔力を持つ、ザグロニアと言う魔物の体内で生成される宝玉である。

「ええ、実は魔王軍の者から入手しまして、我々も滅多に加工するような物では無いので、ご所望なら是非やってみたいのですが。」

「そちらが構わないなら、是非お願いしたい。」

「分かりました。ではそうさせて貰います。」


「しかし、魔界でしか手に入らん物を横流しするとは・・・昔もそんな奴がいたな。なぁ、ゴロワ?」

ゴロワは顔を赤らめ、はにかみながら頭を掻いた。

「もしかして祖父が?」

「ああ、懐かしい話だ。」

「積もる話もあるでしょう。私は工房に行きますので。」

そう言ってザルクは出ていき、二人は昔話に花を咲かせた。


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