ep27 沼の主
サハギン達に連れていかれた先には大きな沼があった。
そこにいたのは、泥と同化した体色を持つ巨大なカエルの魔物だった。
身体の半分は沼に浸かっているが、見えている部分だけでもレックスの倍はある。
「デ・ルンドル様だ。」サハギンの一人が紹介する。
「ノワルド軍副団長ベイル・フィンヴァインです。この度は湿原を抜ける事をお許し頂きありがとうございます。」ベイルは膝を付き挨拶すると、レックス達もそれに倣った。
「うむ。気にすることはない。本来なら我々もともに戦うべきなのだが、それほどの戦力を持っておらぬのでな。」かなり高齢なのか、しゃがれた声で喋る。
「いえ。それで湿原での魔王軍の動きは?」
「今のところ、見掛けたという報告は受けておらぬな。」
「そうですか。もしもの時は我々も助力致します。」
「有難い申し入れじゃが、この土地は我らの力だけで護りたいと思っておる。」
「左様ですか。」
ルンドルがレックスを見た。光を失いかけたそのギョロ目に見つめられ、レックスは少し緊張した。
「そなたは?」
「レックス・ビルハートと申します。」
「ビルハート?と言うことは、勇者アレンの直系か?」
「はい。」
「成る程な。言われれば目元に面影がある。」
「会った事があるんですか?」一同が驚く。
「無駄に長く生きておるからな。」
「どんな人だったんでしょうか?」
「うむ。まぁ、聡明な男であった。」ルンドルは少し複雑な表情で答えた。
「聡明・・・」レックスが呟く。
「ルンドル様はどの位、生きてらっしゃるのですか?」
今度はフィーナが尋ねた。
「かれこれ二千年以上にはなるな。」
「二千年っ!」フィーナは大きな声で驚くと自分の何倍だろうと指で計算し始めた。
「あの箱を持って参れ。」ルンドルが指示を出した。
「しかし・・・」
「構わん、早く持って参れ。」
何があるのかと困惑している一同を尻目にサハギンが木々の奥へ消える。
「何なんですか?」
「そなたらへの餞別じゃ、沼では多くの者が物を落とす。一部の貴重な物は儂が保管しておるのじゃ。」
箱を持って戻ってきたサハギンが皆の前で蓋を開ける。
中には宝石や装飾品がいくつか入っていた。
フィーナが「わぁ!」と声を上げる。
「ひとつずつ、好きな物を選ぶと良い。」
「宜しいのですか?」
ルンドルはゆっくりと頷いた。
ベイルは迷うことなく、ひとつの腕輪を手に取る。銀色の装飾に青い宝石が付いている。ソリーズという風属性を高める力を持つ宝石だ。
「ソリーズであれば、首飾りも会ったはずだが。」
「いえ、主に剣技で使いますので腕輪の方が都合が良いのです。」
「成る程な。」
一般的に術者自身が魔法を放つ場合は心臓に近い位置、武器に纏わせる場合は武器に近い位置にある方が効果があるとされている。
一番迷うかと思われたフィーナは、すぐにひとつのチョーカーを手にした。魔法学を学んでいる彼女はレックス達と違い、宝石の力には精通していた。
空色に光るアテラルと言う宝石は、属性強化や耐性ではなく、魔力を込めると身体が軽くなり、俊敏性が高まる。防御面で劣る魔導士には最適な選択だった。
首に付けて「可愛い」と喜んでいるフィーナの隣でレックスは決めあぐねていた。
フィーナの様に宝石に詳しい訳でもなければ、お洒落にも疎いからだ。
レックスが迷っていると横からフィーナがイヤーカフスを取る。
「勇者様にはこれだよ。」
「これは?」
「主層銀。聖属性と闇耐性を高めるの。」
そう言ってレックスの耳に付ける。
「うん。似合ってる。」
「ありがとう。」
「ルンドル様、有難うごさいます。」
ベイルが礼を言うと二人もそれに倣った。
「気にすることは無い。これから訪れる困難に、無事打ち勝ってくれ。」
ルンドルは少し意味深な言い方をした。
「そろそろ失礼させて頂きます。」
「ああ、引き留めて済まなかったな。」
「いえ、それでは。」
去っていく3人を見送っているルンドルに傍にいたサハギンが耳打ちした。
「宜しいのですか?渡してしまって。」
「儂に出来るせめても事は、あれぐらいしかない・・・時間稼ぎは出来たな。」
「はい、問題無いかと。」
「人質達は?」
「無事です。」
「奴らが彼らと戦えば、少なからず隙が出来るはずじゃ。」
「はい、必ず救出致します。」
「彼らがやられてしまう前に何とかしてくれ。」
「御意に。」そう言ってサハギンは離れていった。
「済まぬな、人間よ。何とか耐えておくれ・・・」
レックス達が進んでいくと大きな沼の前に、先程とは別のサハギンが2人いた。
「お前たちがルンドル様の言っていた人間か?」
「この沼は深すぎて人間が通るのは無理だ。」
「ではどうすれば?」
「そこの洞窟を進んで行け。沼の向こうまで繋がっている。」
沼の横には洞窟があり、沼の向こう側に出口と思わしき物が見える。
「洞窟に魔物は?」ベイルが尋ねる。
「心配するな。普段から通路として使っている。いるのは精々コウモリくらいだ。」
「分かった。ありがとう。」
3人は洞窟に入った。普段から使っているというのは本当のようで、一定間隔で松明が設置してある。
しかし、それでも薄暗く、ジメジメとした空気が流れていた。フィーナは自然とレックスの腕に捕まった。
「開けた場所があるな。」先頭を進むベイルが言う。
その瞬間、後ろで大きな音がした。
「きゃ!!」フィーナが驚いて声を上げる。
「大丈夫?」とレックスが振り向くと入ってきた穴から見えていた光が無くなっていた。
「入口が・・・」
「落石か?」
「分かりません。」
「まずいな、先を急ごう。」
3人が急いで進むと開けた場所に見覚えのある姿があった。
「随分遅かったな、待ちくたびれたぜ。」
それは、八傑集バルドスだった。




