ep26 ヌドラ湿原
「それは済まない事をした。ムシュラはアリアンにいるものだと思っていたからな。」
ガイラックの前に立ったガフは弁解をした。だがその態度は端から見れば、どちらの立場が上か分からない。
「貴様ほどの男が取り逃がしたと言うのか?」
「ああ、思っていた以上に賢しい奴だった。」
ガイラックの問い掛けに悪びれもなく嘘を付く。
信用出来ないガイラックが睨み続けると、ガフが再び口を開く。
「アズラとムシュラなど、使い勝手の良い道具が壊れただけに過ぎない。八傑集が何人死のうと四天王がいれば、大した問題ではない。」
「そうであったとしても、儂には立場がある。」
「ああ、確かにそうだろう。それに関して済まないと思っている。当面はムビアナに留まる。ヤルグがまだいるなら、次は殺せばいい。それに俺がムビアナにいれば、人間どもの抑止になるだろう。」
ガフはガイラックの返事を待たずして、部屋から出ていった。
ガイラックは大きなため息をつき、隣に立つ秘書官に言った。
「あやつが取り逃がすと思うか?」
「ヤルグの強さは分かりませんが、可能性は低いかと。」
「敢えて逃がしたか。」
「恐らくまだ本来の力を取り戻してないのでは無いでしょうか?ガフ様の気質を考えれば、それから叩きたいのかと。」
「馬鹿なことを・・・」再びため息をつく。
「ですが、仮にそうだとすれば、ヤルグが力を取り戻してもガフ様は必ず自分で行くはずですので、ヤルグに関してはガフ様に一任でも良いかもしれません。それまで多少の被害は出るでしょうが・・・」
「奴は今どこに?」
「ジェニア様の報告ではムビアナ南部のカヌリアに。」
「南に向かったのか?」
「はい、どうやら従者がいたようなので、その関係かもしれません。」
「従者?何者だ?」
「現在調査中です。」
ガイラックは本日何度目かの大きなため息をついた。
鬱蒼と緑の茂る沼地にフィーナの鬼気迫る悲鳴が響く。
「勇者様!危ないっ!」
レックスは渋い顔をした。
膝下まで浸かった泥水。背中に背負った少女は黄色いローブの端を持ち、汚れないように必死に下を見ている。
「フィーナ、沼地を抜けるのに汚さないのは無理だよ・・・」
「だって、こんなにキレイなのに勿体ないもん。」
「だったら古いの着てきたら良かったじゃん。」
「折角、作って貰ったのに着なかったら失礼だよ。ねぇ、ベイルさん。」
「ああ、そうだな。」二人に先行して警戒しながらも、その様子を面白がっているベイルが答えた。
「ほら~。」
「ベイルさん、もうちょっとしたら交代して下さいよ。」レックスが縋るように言う。
「代わってあげたいのは山々なんだがな、フィーナ君にとっての勇者様は君だからね。勇者の役目を担うのは、私には少々荷が重い。」
「いやいや。」
「心配するな。もう少し行けば、一旦沼は抜けそうだ。開けた場所があれば、少し休もう。」
レックスはため息を付き、沼を進んだ。
沼を抜けた先の開けた草むらで3人は焚き火を囲み、食事を取っている。
レックスは焼いた魚を食べながら先程の疲れを取り、フィーナはローブに跳ねた泥が取っている。
魚を食べ終えたレックスがベイルに尋ねる。
「オリビアさん達とは同じくらいにポルガに着くんですか?」
「どうだろうね。そうなるようにあちらが先に出ているが、魔王軍がコルシュ街道を素通りさせるとも思えない。何かしら仕掛けてくるだろうから、それによってはこちらが早く着くかもしれないね。」
「ヌドラは安全なんでしょうか?」
「元々この湿原に住む魔物たちは人間と友好な関係を築いているんだよ。だからただ通り抜けるだけなら、問題なくポルガに着けるはずだ。無論、魔王軍が来る可能性はあるがね。」
「そう言えば、ポルガってどんな国なんですが?私も勇者様も行ったことないです。」
「ポルガは武術を重んじる国だ。」
「武術を?」
「ああ、ポルガは元々、勇者アレンとともに魔王を倒した武道家ザンガンが作った国なんだ。だから武術の心得を持つ者が多い。」
「へぇ、そうなんですか。」
「ノワルドやデルタニアに比べて、国の人口は少ないが軍の規模はさほど変わらないらしい。」
「軍属が多いということですか?」
今度はレックスが尋ねた。
「みたいだね。それにロズウッド様と同じで歴代の軍団長は王家が担っている。今もロイ王子とライム王女が軍の指揮を取っているそうだ。」
「凄いですね。」
「まぁ、ノワルドとはだいぶ雰囲気の違う国だからね。落ち着く事があれば少し観光してみればいい。」
「ありがとうございます。」
「楽しみだね。勇者様。」
「そうだね。」
その時、木々の間からガサッっと音がした。咄嗟にベイルとレックスは剣に手を置いた。
森の中から二人の魔物が出てくる。灰色の鱗とヒレを持つ半魚人。手には三又を持っている。
レックスはベイルの顔を見た。
ベイルは「大丈夫だ。」と答え、立ち上がるとゆっくり魔物達の元に行った。
しばし会話した後、二人を連れて戻ってくる。
「彼らがこの沼に住む、サハギン達だ。沼を抜けるのは問題ないが、長に挨拶だけしてほしいから、付いて来てくれとの事だ。」
そうして3人はサハギン達に付いていった。




