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duality  作者: eight
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ep25 カヌリアの町で④

石で出来た獣の攻撃をヤルグはひたすら避けていた。

魔力を帯びたその身体は通常の石よりも硬く、打撃武器ならまだしも、剣では精々表面に傷をつける程度だ。

白炎も石とは相性が悪い。本来のヤルグの魔力ならば焼き溶かす事も出来なくはないが、今のヤルグには難しかった。

残された手段である闇魔法も、耐性によってほとんど効果は得られなくなっている。


(あの女。確かに馬鹿ではないようだな。)

ジェニアの「貴方に合ったお楽しみを用意してる。」という言葉が甦る。

斬撃、火、闇、ヤルグの選択肢は全て潰されていた。

(せめて槌のような物があればな・・・)

攻撃を避けながら辺りを見る。だが教会に武器など無く、あるとすれば燭台くらいだった。

(いつまでも躱し続ける事は出来ん。何か策を練らねば・・・)


ヤルグがふとエミリアを見ると、部屋の隅で見つからない様に屈んでいた。

ヤルグは心の中で毒づいた。

屈んでいては咄嗟の時、初動が遅れて逃げ切れない。だが、それを指摘すれば奴に存在を気付かれてしまう。



ヤルグが攻撃を避けようと長椅子に乗った瞬間、脆くなっていた脚が折れて体勢が崩れた。

防御は間に合わず、ゴーレムの突進をもろに受けたヤルグが吹っ飛び、壁に激突する。

「ヤルグ様!」思わずエミリアが叫んだ。

その声に反応し、ゴーレムは標的を変える。

「逃げろっ!」

ヤルグの声でエミリアが入口に走り出すが、慌てて走った為に転んでしまう。

ヤルグは痛みの中、無理やり身体を起こして、走り出した。



エミリアを踏み潰そうと前足を大きく上げて、のしかかろうとした時、間一髪で間に合ったヤルグが剣の腹で受け止めた。

しかし圧倒的な重さを前に押し倒される。

自分の二倍以上はある石がのし掛かり、背中で床板の軋む音が聞こえてくる。

ヤルグは必死に耐えながら、何か手を探す。

ゴーレムの頭の横から見えた天井にはシャンデリアがあった。


(何とでもなれ!)

剣を支える片手を離した。その瞬間今まで以上の圧が掛かったが、何とか片手から黒い球体を放つ。

球体はゴーレムの脇を抜け、シャンデリアを吊るす鎖を砕いた。

落下したシャンデリアがゴーレムの背中に当たる。呻き声を上げ、怯んだ隙にヤルグは抜け出す。

ゴーレムの背中は少しだけ砕けていた。

(くそっ!あの程度か。)

ヤルグは天井を見た。シャンデリアがもう1つある。

しかし、動いてる相手に狙って当てるのは容易ではない。

(割れているところを集中的に狙えば、(ある)いは。)


ヤルグは攻めに転じて、背中を狙い攻撃を繰り返す。先程に比べれば、手応えはあるが、かなり無謀であった。

ゴーレムが背中への攻撃を避けるべく、ヤルグの攻撃に合わせて前足を上げて直立になった時、重心が一点に集中したことで床が抜ける。

2mほど落下し体勢を崩したゴーレムを見て、ヤルグが何かを思い付いた。

這い上がろうとしているゴーレムを無視して入口に走る。

入口の扉からはエミリアが覗き込むように顔だけ出していた。

「ヤルグ様、早く!」逃げるものだと思っていたエミリアを制止した。

「いや、ケリをつける。」

「えっ。」

「マジックルゲイルは使えるか?」一時的に魔力を高める一般的な補助魔法だ。

「出来ますが、魔法は効かないのでは?」

「考えがある。掛けてくれ。」

エミリアが呪文を唱えるとヤルグの身体が一瞬青く光る。

隠れてろと声を掛け、ヤルグは教会の中へ戻った。

這い上がったゴーレムには目もくれず、位置を確認すると、一ヶ所の床に剣で印を付けた。


ヤルグは左手で剣を持つと右手に白炎を纏わせる。

ゴーレムは先程より魔力が高まっている事に気付き、慎重に近づいていく。

ゴーレムが印の場所に来た瞬間、ヤルグは白炎を放った。

放たれた白炎は蛇のように長く、うねりながら進むとゴーレムをぐるりと囲み、そのまま渦を巻くように上昇し、天井まで届く巨大な火柱を作り出した。

ヤルグの使う魔纏魔法(まてんまほう)のひとつ。

白炎昇楼(びゃくえんしょうろう)

登りゆく火柱は白い塔のように見える。本来なら敵を囲み、逃げ場をなくした敵をその熱波で焼き尽くす魔法だが、ゴーレム相手では高い効力は発揮出来なかった。

魔力の上がった白炎にゴーレムは一瞬怯んだが、すぐに抜け出そうと動く。

しかし、白炎で燃えた木の床は、その重さに耐えきれず、ゴーレムは再び床下に落ちた。

その瞬間、ヤルグの口角が上がる。勝ちを確信した。


「貴様にもくれてやる。神の加護を。」


ゴーレムが這い上がろうと上体を起こした時、何かが崩れる音がした。

それは天井だった。

白炎昇楼(びゃくえんしょうろう)の狙いは始めから天井を崩すことだったのだ。

瓦礫とともに何かが落ちてくる。

それは教会の屋根に鎮座していた巨大な十字架。

鈍く光る十字架はまるで剣のように見えた。

落下した十字架がゴーレムの頭から身体を串刺しにするように突き刺さる。それと同時にゴーレムの核が割れる独特な音がした。

ゴーレムは砂のように粉々になって崩れていく。

ヤルグがゴーレムの沈黙を確認した時、エミリアの叫ぶ声が聞こえた。

「ヤルグ様、早く!」エミリアは天井を指差していた。

天井を見上げると教会の全体が倒壊し始めていた。

二人は急いで教会から離れた。



「ヤルグ様、大丈夫ですか?」

「ああ、エミリアは大丈夫か?」

「はい、でも教会が・・・」エミリアの目線の先には瓦礫の山と化した教会があった。


「人の居なくなった町の教会など、何の意味も無い。この町の神は死んだんだ。」

そう言うとヤルグは振り向きもせず、歩き出す。

エミリアは瓦礫の山を寂しそうな目で見つめると、小さく祈りを捧げて、ヤルグの後を追った。


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