ep24 カヌリアの街で③
起きたヤルグは身支度をしていた。エミリアは井戸で顔を洗っている。
エミリアをどうするかは、もう決めていた。準備を終え、外に出たヤルグがエミリアを呼ぶ。
「昨日も言ったが、お前を連れていく気はない。」
「はい・・・」残念そうだが、自分でも分かっていたのか、エミリアは特に食い下がらなった。
「とは言え、ここで放り出すわけにもいかんし、あの町まで連れ帰るのも面倒だ。だからノワルドへ行く。」
「ノワルドですか?」エミリアは驚いた。
「ああ、あそこはまだ魔王軍の手は及んでいない。それに教会もあるだろう。そこからどうするかはお前次第だ。」
「メルダーナ山脈を越えると言う事ですか?」エミリアが不安そうに言った。
「いや、それに関しては考えがある。取り敢えず、俺に付いて来い。」
「分かりました。」そう言うとエミリアは家に入り、身支度を整えた。
二人が町を出ようとした時、教会から助けを求める声がする。
二人が顔を見合わせて、急いで教会へ走っていくと、中に一人の男が座っていた。魔物に襲われたと思わしき足からは血が流れている。
「た、助けてくれ。」
エミリアが驚き、治療しようと駆け寄るが、ヤルグが腕を掴んでそれを止める。
ヤルグはエミリアを後ろに下げると剣を抜き、男に近付く。
「俺を舐めてるのか?」そう言いながら切りつけると、男はバク宙して剣を躱した。
「あ~やっぱりバレたかぁ。」男は笑いながら言ったが、その声は若い女のものだった。
男がくるりと回ると黒い靄が包み込む。
靄が晴れるとそこには赤い髪の女がいた。露出が高く、胸の谷間を見せた黒いレザー。背中には小さな翼があり、頭には2対の巻角がある。絵に書いた様なサキュバスだった。
「貴様がジェニアだな。」
ジェニアは目を見開く。
「ちょっと!何で知ってるのよ!!」
「砦にあった資料で見た。八傑集ジェニア・ブルドアーレン。ブルドアーレンは婬魔の二大名家のひとつだ。貴様で間違いないだろう。」
「あーやっぱ魔王クラスだと分かるかぁ。」
「まぁ、ご託はいい。さっさと始めよう。」
ヤルグの剣が白炎を纏う。
ジェニアは慌てて両手を振った。
「ちょ、待って!タイム、タイム。私はムシュラみたいに馬鹿じゃないの。勝てない相手に挑んで、死ぬなんて御免だわ。」
「じゃあ何故ここに呼び込んだ?」
「まぁ、ほら一応顔は見ときたかったしねぇ。案外イイ男なのね。それに復活してそんな経ってないのに、もう女をはべらかしてるし。しかもシスターなんて、あんた婬魔の才能もあるんじゃないの?」
「そ、そんなんじゃありません!」エミリアが頬を赤らめながら否定したが、ヤルグが制止する。
「相手にするな。」
ヤルグは一歩前に出る。
「貴様にその気がないからと言って、こちらが見逃すと思うのか?」
「う~ん、見逃してくれるなら気持ち良いことして、あ・げ・る。」そう言いながら誘惑的に微笑む。
ヤルグは何も言わず剣を振った。それを予見していたのかジェニアは宙に舞い避けた。
小さな翼は申しわけ程度に羽ばたいている。翼ではなく魔力で飛んでいるのだろう。
「もう!気が短いわね。でもそういうのも、嫌いじゃないわよ。」
ヤルグは白炎を飛ばすが、ジェニアは軽々と躱した。魔力で飛ぶ者たちは翼で飛ぶ者より機動力が高く、只でさえ身体の小さい人型に魔法当てるのは容易ではない。
「大丈夫、慌てないで。ちゃんと貴方に合わせたお楽しみを用意してあるわ。」
ジェニアが教会の奥を指さす。
「あれは・・・」エミリアが驚く。
教会の奥、本来は主祭壇が置かれている場所に大きな魔法陣が描かれていた。
「何をする気だ。」
「残念だけど、あたしはまだやる事があるから。代わりにあの子と遊んであげてね。バイバ~イ!」
そう言って投げキッスをすると教会の窓から飛んで逃げて行った。
「待てっ!」
「ヤルグ様、あれを。」
ジェニアの投げキッスはハートの形を残したまま、魔法陣の方へフワフワと飛んでいく。淫魔特有の魔力の形だ。
魔法陣の中にハートが消えると魔法陣の線が光り出し、中から一頭の魔物が召喚された。
頭から肩に掛けてある、膨らむような鬣と二対の角。六本の足を持つ獣。
魔界でも凶暴な魔物のひとつ。獅子「バリオン」だった。
だが、ひとつ違うのは全身が石で出来ている。所謂ゴーレムだ。
ヤルグは軽く舌打ちして「隠れていろ。」とエミリアに声を掛けた。
ゴーレムはヤルグを確認すると咆哮を上げた。
全身が石で内臓など存在していないはずだが、本物の獣と変わりない声だった。
石の身体であるため、その一撃は重く、圧倒的な防御力を誇る。だがそれ故に速さはない。
突進してきたゴーレムを見て、タイミングを見計らうと、教会の長椅子を踏み台にして飛び越える。
着地と同時に背後に向け、黒い球体を放った。
振り向いたゴーレムに直撃する。衝撃に怯みはしたが、特にダメージは負っていない。
「何か混ぜやがったな。」
想定よりもダメージが出ていない事にヤルグは毒づいた。
恐らくゴーレムを作る際に何かしら闇耐性の高いものを素材に使っているのだろう。
長椅子を蹴散らしながら、再び突進したゴーレムを躱したヤルグが呟く。
「こいつは不味いかもな・・・」




