☆♡/pan chilla ※pan=パン、chilla=インドのパンケーキ
〈 ☆♡ 〉
ニゴ姉の酢豚で腹を満たした後。
自分の部屋に戻ると、窓の外は暗かったが、カーテンが引かれていない愛姉の部屋から光が差していた。
部屋の中が丸見えだ。女の子らしいぬいぐるみや、しっかり者らしい整理の行き届いた机が見える。
黙って自室のカーテンを引こうとすると、制服をやや着崩してベッドに座っていた愛姉が気付き、手を振ってきた。
窓を開ける。
「弟くん、今日はおつかれさま」
「愛姉、薄いカーテンくらいは引きなよ」
「え、なんで?」
「……今日はおつかれ」
「うん。でも弟くん、しっかり実行委員できてたみたいで、わたし感動しちゃったよ」
「優丘の球技祭はユルいから」
「そうだけどさ、心配だったんだよ? 沖縄にいる時、弟くんも高校生かあ、ちゃんと係の仕事とかやれてるかなーって。ほら、響って放任主義なところあるじゃない? だからわたしがいなくちゃだめなのにーって思ってたけど……杞憂だったかな?」
「うーっす、ジョブズ」
俺の隣の部屋から声が聞こえる。響が自室で窓を開け、身を乗り出していた。
「なんだ? おれが押韻趣味なところあるって?」
「わあ、ラッパーHIBIKIのおでましだー」
「なに言ってんの愛姉」
「えへへ。そうだ響、マリカー買ってきたよ! ウィーのやつ! 失くしたのはキューブのやつだけど、許してね」
「お、じゃあ今からやるか? そうだ、まゆらと秘代も誘うか」
「シャロ姉とニゴ姉は?」
「シャロはだめだ、改造してくる。ニゴもだめだ、手が小さい」
「えっ、そんなになの?」 「どちらも姉さんたちに対する認識が極端だろ」
「はははっ、冗談冗談」
姉貴が組んだ腕を柵に乗せる。
「まあ、そうだな……シャロとニゴがやりたがるかはわかんねえけど、とにかく、やるんだったらジョブズがこっちに来たほうが早いな」
「待ってて、今行くから」
愛姉が勉強机の隣の棚を開けているのが見える。さすがに整理整頓ができていて、姉貴とは大違いだ。
すぐにゲームソフトを見つけて、それを持って窓の柵を乗り越える。スカートの短い制服のままだったため、足を柵に乗せた時に純白の下着が見えたが、足を、柵に乗せ、た時に純白、の、下着、が見え、たが、愛姉は気付いていない、ようだ。
屋根を伝って、幼馴染の姉さんは俺の部屋に降り立った。昔からこうやって行き来していたから、愛姉でも、ちゃんと玄関から入らなければなどとはあまり考えないのだろう。
「お邪魔します。んー、懐かしいな、弟くんの部屋。昔はたまにお部屋交換ごっこして、お母さんに怒られたりしてたよね」
「そうだったっけ」
「そうだよー。それでわたしが弟くんのベッドで寝てたら、響がエレキギターですごい音出して起こそうとしてきて。弟くんを起こすつもりだったんだろうけど、あれは災難だったなー」
「懐かしいな」
「さ、行こっか」
「うん」
思わぬラッキーな“pan chilla[名][U]①インドのパンケーキ。スペイン語とヒンディー語を合わせた造語。②夢。”というかちょっとよくわかんないけどそういうアレに顔が赤くなっていることを気取られないようにしながら、俺は自室を出た。愛姉もついてくる。階段の下から姉貴の「恐怖のマリカー大会開催だ!」という声が聞こえてくる。




