○□☆◇▽♡/不死身の狂気を思い知れ! 恐怖のマリカー大会!
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車に乗った髭面の男が、巨大な亀の甲羅と衝突しても爆撃を受けても溶岩の中に落下してもなお痛覚のないハイになった狂人のように走り続ける。いわゆるマリオカート。俺たちは自宅でテレビゲーム大会の真っ最中だ。
四人まで同時プレイできるレースゲーム・マリカー。響、シャロ姉、ゆら姉、秘姉がソファや床に座ってコントローラーを持ち競争している。
「こ、このげえむ、難しいよ……」
「シャロ姉さん……チェスで世界レベルの私を上回るだけでなくマリカーでもしのぐというのか……!」
「やべえ、またシャロが一位! おまえ初プレイだろ!? やっぱそのコントローラー改造されてんじゃねえ!?」
「ふふっ、なんならコントローラー交換する?」
そんな四人を見守るのは、ニゴ姉、愛姉、俺。テーブルにつきニゴ姉の注いだカルピスを飲んでいる。
「ほえー、シャロさんってゲームすごい上手いんだね」
「シャキロイア姉さんは現在より科学の進んでいた古代文明の技術者と比べてもずば抜けた頭脳を持っていましたし、幼少から腕時計を組み立てて遊んでいて手先は非常に器用ですから」
「シャロ姉なら転職も簡単だろうし、ウメハラみたいなプロゲーマーとかになればいいのにね」
「それがねえ宗ちゃん」
シャロ姉がニゴ姉にコントローラーを渡して、俺の隣に座った。ニゴ姉と交代らしい。
「事情があってなかなか辞められないのよ」
「あれ、シャロ、やんねーのか? これからみんなで集中攻撃しようと思ったのに」
「だからニゴちゃんと交代したのよ、ふふっ」 「逃げたな!」 「いや、シャロ姉さんなら私たちの妨害を潜り抜けることなど容易かったのではないかい?」 「そ、それに……ニゴおねえちゃんだってものすごく強いんじゃ……」 「皆さん覚悟してください。機械の操作でシャキロイア姉さんの技術の結晶に敗北はありません」
シャロ姉は自分の分のカルピスに口をつけ、俺に向かって微笑んだ。ふわりとした金髪が揺れる。
「お姉ちゃんね、職場の子たちにすごい頼られるようになっちゃってね」
「シャロ姉ってどちらかといえば先輩のほうが多いんじゃ」
「まあそうなんだけど、年下しかいないの。お姉ちゃん職場でも百万二千七百二十歳で通ってるから」 「通ってるのか……」
「職場でも頼りにされているなんて、すごいなあ」
愛姉が眩しい大天使を見るような目つきをして、細い腕をテーブルに乗せる。
「シャロさんって、完璧なんですね」
「そんなことないわ? ぐいぐい要求を通そうとされるとついOKしちゃうし、お酒にも弱いし、虫も怖いし……あと、古代人だから現代に関する知識にも限界があるわね。それから……」
「シャロ姉はたまにニゴ姉を抱かないと寝れないんでしょ?」
「そっ……えぇっ!?」
シャロ姉が目を見開いて顔を赤らめる。
「違うの、あれはその、ニゴちゃんのほうから……じゃなくて、どうして宗ちゃんが知ってるの!?」
「いや、シャロ姉が深夜に俺の部屋に来たことあったじゃん。『ニゴちゃん一緒に寝よー』って言いながら」
シャロ姉は赤みの差した頬に手を添えつつ、にっこりと微笑む。慌て続けないところに百万二千七百二十歳の風格を感じる。
「そうね、そんなこともあったわ。ニゴちゃんはお姉ちゃんの癒し。もちろん、宗ちゃんや妹たちもね」
恥ずかしいこと言うなあ、と視線を逸らすと愛姉が目に入る。ぽーっとシャロ姉を見つめていて、目をきらきらさせていた。
彼女の視線にシャロ姉も気づく。
「どうしたの? 愛香ちゃん」
「あっ、いえ、……その、わたしもシャロさんのようなお姉ちゃんが欲しかったなあって」
「あらあら、嬉しいわ。でもどうして?」
「はい、わたし、一人っ子じゃないですか。父はなかなか家に帰ってこられないし、母はいつも眠そうでいろいろ適当で……だから包み込んでくれる存在が欲しかったんです。そして、そんな人になりたいとも思ってた、んですけど、」
愛姉は両の指をもじもじと絡ませながらも、真面目な彼女らしくシャロ姉と目を合わせている。
「わたしにはお手本がいなかったんです。でも、弟くんや響という、放っておけない存在がいて。だから自分なりに自分を律して、目指すものに自分で近づこうとして……それでもなかなか、未だにちゃんとできない感じで。だけどシャロさんはとっても母性的で、わたしの憧れそのものなんです。その……はい、以上です……」
愛姉は力尽きて体をちぢこませ、頬を染めて顔を伏せた。姉さんは真面目で、比較的こういったことを言うのは平気なはずだが、さすがに恥ずかしかったらしい。
シャロ姉は少し驚いたような表情をしていた。それから、なぜかちょっと残念そうに苦笑いをする。しかし再び優しく微笑んで手を伸ばし、愛姉の手を握った。
「ありがとう愛香ちゃん。わたしとたくさん仲良くしてね。わたしのことはシャロお姉ちゃんって呼んでいいのよ。こちらからも愛ちゃんって呼んでもいいかしら?」
「はい! あの、よろしくね、シャロお姉ちゃん」
「ええ、愛ちゃん、よろしくっ」
手を握られた愛姉は目をまんまるにして感激し、こくこくと頷いた。シャロ姉も満足げだ。
愛姉がそんなふうに思っているとは知らなかった。幼い頃から姉さんは世話焼きだったが、その性格をここまで育ててきたのにはそんな理由もあったのかと新しい愛姉を見つけた気分になる。
マリカーで遊ぶ姉貴たちを見て笑う愛姉の横顔に、声をかけた。
「愛姉」
「ん?」
「愛姉はちゃんとできてないなんてことないよ。包み込んでくれるところある。尊敬してる、感じは、その……」
俺は先ほどシャロ姉に告白した愛姉のような状態になり、顔を伏せる。幼馴染の姉さんはそれを見て微笑み、俺の頭を嬉しそうに撫でた。
「そうかな? えへへ、ありがと、弟くん」
顔が火照るのを感じる。隣からシャロ姉の「まあ」という声が聞こえ、更に恥ずかしくなりつつも顔を上げてテレビ画面を見た。ニゴ姉が他のプレイヤーに一周差をつけて一位でゴールし、姉貴たちが頭を抱えているところだった。ニゴ姉のキノピオがアヒャヒャヒャと高笑いする。恐怖のマリカー大会は終わらない。




