第11話 サクラ
「ごめんね、まだ全部は話せないんだけど」
サクラはそう言って話し始めた。
「何から話せばいいのかな……わたしはね、簡単に言えば『人気者』になりたかったんだ」
人気者。確かにサクラにはぴったりの言葉だろう。その容姿から男子からの人気も高く、女子同士でもその明るく快活な性格もあって、友人が多い。
「だから、そのために『自分』を抑えることにしたんだ」
「『自分』を抑える……?」
「うん」
そういえば、と思い出すことがあった。『声』が始まった日のことだ。
―――そんな……。普段隠している気持ちがばれるってこと……
あの時サクラはばれると言った。ばれたくない『普段隠している気持ち』とは、このことか? だけど、それでも疑問が残る。
「その『自分』を抑えるってどういうことだ?キャラ付けをすることくらい誰でもやっているだろ?」
「確かにみんな少しくらいはやっているのかもしれない。でも、わたしは『少し』なんて言葉じゃあ片づけられないの。学校にいるとき、家にいるとき、街中で友達と遊んでいるとき……わたしは常に『自分』を抑えている」
サクラは顔がいつの間にか俯いてしまっている。それほど気にしているのだろう。
「ううん、もっと言えばわたしは『自分』そのものがない。意志だとか、好みだとか。守がパソコンに詳しかったり、響香みたいに本が好きだったり。そういったものがわたしにはないっ!」
サクラの口調が激しくなってくる。
「だからわたしはっ、……そういうものがほしかった! 2人が羨ましかった! 他人を基準にしないと自分自身を認識できないなんて――”イヤだ!”」
心からそう叫んだサクラの目は赤くなっていた。
知らなかった。高校に入学して、サクラと出会ってほぼ半年。同じ新聞部の仲間としてある程度は深い仲を築きあげてきたと思っていた。
だけど実際は、こうしていつも近くにいた同じ部活の友達のことを何も分かってやれなかった。
「サクラ……」
どうする。俺にできることは―――
「叫んだりしてごめん。あと、聞いてくれてありがとう。……じゃあね」
―――何もないのか。
そんなことがあったのだ。どのように報告しようか。それとも、サクラに一回確認をとるべきかな。さすがに個人的な悩みを、本人の許可なしで他の人に話すのは気が引けるし。だけど、次はどのように切り出すべきか……と悩みながら俺は佐々木のことも考えなければならないこの状況に苦しんでいた。サクラの悩みの正体が分かっただけ状況は改善したとも言えるが、課題は山積みのままだ。
「とりあえず、これ以上は話し合っても答えが出ないなら、とりあえず仕事をしながら佐々木を待つか。締切も迫っている上にテスト期間だからあまり時間を無駄にはできないからな」
中村先輩の言葉で俺たちは作業を開始したが、全員集中できておらず明らかに作業がはかどらない。そうしているうちに佐々木とサクラがやってきて、さらに部室に気まずい空気が流れる。
『俺たちは自分でできることって限られているだろ。だから自分一人じゃあ今回のことに限らずさ、何かを解決していくのって難しい気がするんだよ』
さっきはサクラにそういったが、これだけ人がいるときに話を切り出すのはさすがにためらう。じゃあどうやって佐々木から話を聞こうか。どうにかして二人の話が他の人に聞かれない、都合の良い状況をつくり出す必要があるな。それとも雅史か先輩に聞き出してもらおうか……?




