第10話 前進
守が部室に入ったのは、雅史が佐々木のことを話終えた時だったようだ。
そこで聞いた原田先輩の助言は至って単純だった。普通のこと、といえた。
「本当のことを言いたくないんだとしたら、それを言った場合本人に何らかのデメリットがあるってことでしょ? だったら告白することにメリットがあることを示せばいい。あと、何を言われようと構わないって姿勢をみせることも大事だね」
「なるほどな。たまにはお前も役に立つんだな」
「珍しく褒められた……とみせかけてさりげなくバカにされた!?」
先輩二人が騒ぎ出す(正確には騒いでいるのは原田先輩だけだが)中、俺はさっきあったことをどのように報告するか悩んでいた。今日の授業が終わった後、佐々木のことを先輩に早く報告しておきたいのか雅史は誰にも声をかけずに教室を出ていき、俺は掃除当番の仕事のために残った。掃除を済ませ、ゴミ出しのじゃんけんに負けた俺はゴミ箱を持って校舎裏の集積所に向かっているときにサクラに会ったのだ。
「おう、サクラ。お前もゴミ出し?」
「あ、守……。うん、そう」
しかし、そう声をかけてからサクラが何か思いつめたような顔をしていることに気が付いた。さらに言えば、あの日――初めて『声』が聞こえた日――に見せた表情。それと同じような気がした。
「サクラ!」「っ!」
……あれ? どうして自分はこんなに大声を出してしまっているのだろうか。
「ど、どうしたの……守」
「いや、えっとだな……」
落ち着け、俺。ここで言いたいことをはっきりと言えばいい。こんな、二人だけで他の誰にも話を聞かれない状況はそんなにないのだから。他の根拠はないのだけれど……これはおそらくチャンスだ。
「サクラ、今更だけどさ。俺たち、普通は信じられないような、大変なことになっているよな」
「えっ……う、うん」
サクラは戸惑った様子を見せながらも、取り乱すことなくこちらの話を聞いてくれる。
「こんな状況だけどさ。いや、こんな状況だからこそかな。もっと人を頼ってもいいんじゃないかと思うんだ。自分の本当の気持ちが周りに筒抜けになってしまうから、難しいとは思うんだけれど」
でも、
「なんというか、さ。俺たちは自分でできることって限られているだろ。だから自分一人じゃあ今回のことに限らずさ、何かを解決していくのって難しい気がするんだよ」
今回の状況。いつの間にか自分が一方的に考え、雅史に話していただけの気がしたのだ。本来ならば、あの時に雅史にも意見を聞いたりして改めて考えるべきだったのではないか。いや、もっと言えば自分はスタンドプレーに走っていた。本来信頼すべき仲間を頼っていなかったのだ。
今更ながら悔やまれる。でも、今からでも間に合うはずだ。
「守……うん、そうだよね」
サクラは久しぶりに笑顔を見せてくれた。すると
「守、話があるんだ」
真剣で、でも少し悲しそうな表情を見せながらサクラは言った。




