04. 衝動の正体
「これ、ですか……っ」
私が求めた情報。
それは、フィオーレ城の図書室で五冊目に手に取った、古い医学書にありました。
仕事の空き時間を見繕って訪れた、普段なら静謐で落ち着くはずの場所。
ずらりと並ぶ書棚と羊皮紙の匂いに包まれながら、私は逸る胸を落ち着けるように、かさついた頁を捲り続けます。
『犬歯が尖り、血液に対して異常な興奮を覚える奇病。満月の夜に発症する』
まさにその通りです。
昨夜は、窓から眩しいほどの月明かりが差し込んでいました。
嫌になるほど、私の状況と一致しています。
――吸血症。
それが私の思考を蝕んでいる病の名前でした。
その正体がわかり、ふう、と息を吐いたのも束の間。
さらに読み進めるにつれて、私の指先からすうっと血の気が引いていきました。
『冷静だった患者が、血液を視認した途端、強い興奮状態を示したという。吸血を行わせると、その興奮は一時的に収まったと記録されている』
やはり、あの異様な衝動は病のせいだったのです。
指先から滲んだ、ほんのわずかな紅い雫。
それが視界に入った――たったそれだけで、私の理性は吹き飛び、気づけばチェリーさんの指に食らいついてしまった。
口内に広がったあの甘い鉄の味を思い出し、喉の奥が焼き付くように渇きます。
『恋人など、特別な感情を持つ者の血液にのみ強い反応を示す。他者へ感染した事例はない』
特別な感情を持つ者――私にとって、それは妻であるチェリーさん以外に考えられません。
もしもあの時、妻の声が耳に届かなかったら。そう想像するだけで、背筋に冷や汗が伝います。
ですが、救いもあります。この記録を見る限り、私はチェリーさんの血液さえ目にしなければ問題ないようでした。
それに、感染することがないのであれば、少なくともこの病がチェリーさんへ及ぶことはありません。
『原因は不明。観測される患者はごく少数で、人工的な治療法は存在しない』
「そんな……っ」
思わず漏れた声は、静まり返った図書室の空気へ溶けていきました。
この狂気を抑える術は存在しない。
その事実を理解した瞬間、底なしの暗闇へ落ちていくような感覚に襲われます。
しかし、最後の一文を目にした瞬間、その暗闇の中に微かな灯火がともりました。
『だが、発症した満月から次の満月を迎える頃には、例外なく自然治癒したと記録されている』
「……治る」
その二文字を口にしただけで、張り詰めていた胸の奥が、ほんの少しだけ軽くなったような気がしました。




