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第2話 再出発 3

 3


「Eって……初めて見たわ……。実在したのね……」

 私が初めて冒険者登録したときのランクはCだった。登録前に剣術道場で修行していた実績や、過去の剣闘大会の出場記録などが評価されたためだ。たいていの冒険者はDランクから始まる。Eというのは、文字通りランクの中で最低の評価だった。

 戦歴も技術も能力も「特になし」、冒険者登録するにはどう考えても遅すぎる50歳という年齢、しかも「虚弱体質」なんて書いてあったら、そういう評価が下されるのも当然と言えば当然だった。

 だけど……、だけど!

 じゃあ、あの常識外れの強さは何なのだ。特殊能力やスキルを持っていないわけがない。過去の戦歴が何もないのに、あんな強さになるわけがない。

 つまりこの男は、明らかに嘘の経歴で申請したのだ。

「何なのよアンタ……馬鹿なの? いや、馬鹿でしょ、大馬鹿でしょ!! 面倒だからって、こんな適当なこと書いて!」

「ええやん、もう……。クエスト受けることはできてんから、何とかなるって。それに、こんなカードで人間の値打ちは決まらへんよ」

「ちょっといいこと言ってやった、みたいな顔しないでよ! そういうのは実績のある人が言うから説得力があるのであって、こんな真っ白な申請用紙を書くような人が言うもんじゃないのよ! そもそもどこにあるのよ、このドイナカ国って! 契約社員(役職なし)って何なのよ!」

 早口でまくしたてる私に、

「まあまあ、落ち着きや。よしよし……」

 ハルはノンビリした口調で言いながら、頭を撫でてきた。ええい、私は頭を撫でられて喜ぶような子供じゃない! っていうか、好きな人にナデナデされるのはちょっと憧れるけど、こんなオッサンにナデナデされてもお父さんのことを思い出すくらいで、別に嬉しくなんてない!

 ……と、思ったものの、「よーしよし、ちょっと落ち着こうな……」と、穏やかな口調で言われて頭を撫でられていると、だんだん気持ちが落ち着いてきた。息切れしているのに騒いだ反動からか、ちょっと頭がぼんやりする。

 私は大きなため息をついた。もう、これで申請してしまったのだから、仕方がない。本人が「これでいい」と言っているのだ。再申請がとても面倒なのは事実(ただ再申請するだけでなく、前回の申請を無効にする手続きや、どうして再申請が必要なのかを説明する手続きなどが必要になる)なのだから、これ以上、文句は言わないことにした。

「もう、いいわ。気を取り直して、クエストを進めましょう」

「そうやね、それがええと思うわ」

 嘘の申請をするような人でも、いまの私にとって、頼りになるのはハル一人なのだから。


 気を取り直し、遺跡に向かう準備をするために私たちは歩きだそうとした。

 その矢先、数人の子供が棒を振り回しながら走ってくるのが目に入った。

「俺ハロルドな!」

「じゃあ俺バルフォード! くらえ斬岩剛断波!」

 子供の振り回す棒が、ハルに当たりそうになった。ハルはひょいとその棒を避ける。

「あっ、ごめんなさいオジサン!」

「かまへんよ。でも、周りに気をつけて、広いところで遊ぶんやでー」

 走り去る子供たちを、ハルはニコニコと見送った。

「……子供が好きなの?」

「子供が好きというか……そうやなあ。結婚して普通の暮らしをしてたら、自分にもあれぐらいの子供か、孫がおったかもしれんと思ってな……」

 そう答えるハルの顔が、一瞬だけ、ひどく寂しそうに見えた。

 ハルの過去に、いったい何があったんだろう。そんな疑問が浮かんだ。だけど、聞いても、絶対にふざけた答えしか返ってこない。そのことは分かっていた。

「ところでレイナちゃんは、五英雄の中で誰が好きとかあるの?」

 ハルが唐突に尋ねた。

「五英雄」。それは500年前にあった魔王との戦い、通称「魔界大戦」において、戦女神の加護を受けて活躍した五人の英雄のことだった。

「閃光の聖騎士」ハロルド。白銀に輝く鎧をまとった聖騎士。長い金髪をなびかせた美男子で、鋭い剣風は鋼鉄さえ切り裂いたという。

「剛腕の戦斧」バルフォード。深紅の鎧をまとった重戦士。彼が振るう巨大な戦斧は、山を砕き海を割り、立ちはだかる敵を文字通り粉砕したという。

「冷徹賢者」エルディン。青のローブをまとった賢者。さまざまな魔術を駆使すると共に、どんな時も冷静沈着さを失わず、常に最良の戦術で仲間を導いたという。

「光の射手」ギルロス。緑の胴衣チュニックを着たエルフの弓使い。女性と見間違えるほどの美青年で、彼の放つ矢は光よりも速く、どんな遠くからでも敵を射抜いたという。

「癒やしの聖女」フィオナ。鎧の上に、戦女神の象徴である紫の法衣をまとった女僧侶。その慈愛は海より深く、どんな重い怪我や病気も、たちどころに治癒したという。

 五人の活躍は叙事詩として吟遊詩人たちに語り継がれるだけでなく、子供向けの絵物語としても描かれている。この国に住む者なら誰しも一度は必ず目にするほど有名なものだった。絵物語の中で、ハロルドは必ず「白銀の鎧と長い金髪」、バルフォードは「深紅の鎧の巨漢」として描かれており、五英雄の名前を上げれば、誰もが共通認識として彼らの絵姿を思い浮かべることができるようになっていた。

「そうね……。絵物語の挿絵で言えば、ギルロスが一番好みだったけど……。剣士として目指したいのは、やっぱりハロルドかな……」

「そっかぁ……。ハロルド、人気やねんなあ……。バルフォードは?」

「うーん……。仲間にいたらすごく頼もしいと思うんだけど、やっぱりああいうパワー系の戦い方は、私には無理だから……」

「まあ、それもそうやなあ……」

 ハルは少し笑うと、朗らかに言った。

「ほな、あの子たちを守るためにも、討伐クエスト頑張ろうな。あの子たちが、未来の五英雄になるかも知らんからな」

20時40分から「第2話 4」を公開します

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