第2話 再出発 2
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冒険者ギルドは大勢の冒険者でにぎわっていた。直接話したことはなかったが、顔を知っているパーティーのメンバーも何人かいた。
私がギルド内に足を踏み入れた瞬間だった。
ざわ……と室内がどよめいた。
「勇者パーティーの……」
「追放……」
ひそひそとささやき合う声。容赦なく突き刺さる哀れみや嘲りの視線。
「勇者パーティーの女剣士」という立場が、ほかの冒険者たちから否応なく注目されるものだったのだと思い知らされる。
まあ確かに、人並み程度の実力しかない小娘が、ある日突然、勇者パーティーの一員に抜擢されて優雅な暮らしを手に入れた、なんて話を聞けば、誰しも興味を持つだろう。「羨ましい」と思うぐらいならいいけど、「なんでアイツだけが……」とやっかむ人がいても不思議ではない。そんな相手がたった3カ月で勇者から置き去りにされ、パーティーを追放されたとなれば、「ざまあ見ろ」と思う人だっているだろう。
しかし、「そう思う人がいる」と頭で分かっていても、露骨な嘲りを向けられるのは、やはり不快だった。
突き刺さる視線を無視しながら、依頼表を貼り出している掲示板に向かう。
やはり多いのは「薬草採取」「鉱石採取」といった、冒険者ランクで言えばE、もしくはDランクの小クエストだった。「妖魔退治」やクマ、オオカミといった「危険生物駆除」などのクエストになると、ほとんどが「複数人パーティーであること」を条件にしている。私一人で受けることのできるクエストはほとんどなかった。
仕方がない。低ランククエストを何件かまとめて受けよう。そう思っていたとき、
「これ、ええんちゃう?」
ハルが勝手に一枚の依頼表を手に取った。
「遺跡探索と妖魔退治。必須条件:Bランク1人以上、複数人パーティー」
「え、あ、ちょっと、ハル! 勝手に決めないでよ!」
慌てる私を尻目に、ハルはスタスタと受付窓口に依頼表を提出する。
「このクエスト受けたいんやけど」
受付窓口の女性は依頼表を受け取ると、
「では、登録証をお見せください」
淡々と言った。ハルは私のほうを振り返ると、
「あ、レイナちゃーん。おねーちゃんが『登録証見せて』って」
「いえ、あの、お連れの女性の方の登録証も必要ですけど、あなたご自身の登録証も出していただかないと……」
「あ、そうやった。ごめんごめん、おっちゃん登録証持ってへんねん。新規加入の手続き、やってもろてええかな?」
淡々と処理しようとしていた事務員の女性の表情が変わった。明らかに不審者を見るような目をハルに向けている。そりゃそうだよね、こんな中年になって、初めて冒険者登録する人なんて私だって見たことないもん。
「では、あちらの記入台で、この用紙に必要事項を記入してきてください」
「はーい」
用紙を手に、ハルは記入台へ移動する。
「えーと……名、姓、年齢、出身地、過去の戦歴、所持スキル……。めんどくさいなあ……」
頭をかきながらブツブツつぶやいていたハルだったが、「ちょいちょい」と私に向かって手招きをした。
「なあなあ、コレ……ホンマのこと書くの面倒やから適当に書いてもええかな?」
「ダメに決まってるでしょ!? 自分の身分証明なのよ!? これからの仕事にだって影響するのに――!」
「声が大きいって。せやけど、おっちゃんがコレ真面目に書いたら、そっちのほうがいろいろ面倒なことになると思うねん……」
「あなた……いったい、どういう経歴の持ち主なのよ……」
「ただのおっちゃんなんやけど……ちょっとワケありやから……」
「まさかとは思うけど、やっぱりあなた、犯罪歴があったりするんじゃないでしょうね……?」
「いやいやないない、それはない。これだけはホンマやで」
「それならいいけど……。とにかく、可能な限り正直に書いて! いいわね!」
私は強く念を押した。ハルはため息をつきながらペンを取り、用紙に記入を始めた。
しばらくして、ハルは窓口に用紙を提出した。
「はい、結構です。では、書面の複写と仮登録証をお渡しするのでしばらくお待ちください。次回、ギルドに来られた際に正規の登録証をお渡しします。それまで複写と仮登録証を紛失しないようにしてくださいね」
「はーい。いやあ疲れたわー。最近、老眼が始まって近くのものが見えにくいから、細かい字書くのしんどいねん……」
程なく、事務員の女性がハルを呼び出した。
「ハルさーん。タダノ・ハルさーん。窓口へどうぞー」
「はいはーい」
ハルは書面の複写と仮登録証を受け取ると、
「ほな、レイナちゃん、クエストの申し込み手続きするで。登録証貸して」
私の登録証を取り上げて勝手に手続きを始めた。やがて手続きが終わったのか、事務員が私に手招きをした。
「こちらのクエストですが、基本的な内容は小型遺跡の探索と、そこに住みついた小型妖魔の退治となっています。ただし、先日、遺跡の確認に行った調査員が消息不明になっていますので、十分に注意してください。特にハルさんのような低ランクの方を帯同する際には、絶対に無理をせず、少しでも危険を感じたら撤退することを強くお勧めします。いいですね?」
妙に強い口調だった。これまで何度もBランククエストを受けてきたけれど、こんな注意をされたことはない。それに、「ハルさんのような初心者」ではなく「ハルさんのような低ランク」と、わざわざランクの低さを強調した言い方になっていたのが気になった。
「さ、行こ行こ」
スタスタとギルドを出ていくハル。
「ちょ、ちょっと待って、ハル! お願い!」
風のような速さで歩くハルを必死になって追いかけ、肩をつかんだ。
「あーごめんごめん、あの事務のおねーちゃんが面倒やったから、ちょっとだけわざと速足で歩いた」
「はあ、はあ……。ちょっと、ハル……。さっきの書面と仮登録証、見せて……」
「えー、そんなん見られて噂になったら恥ずかしいやん」
「いいから、見せて!」
「いやあん、えっちー」
「ふざけてないで、見せなさいっ!」
強引に奪い取って書面を広げる。私の目が点になった。
「名:ハル 姓:タダノ 年齢50歳 出身地:ドイナカ国 前職:契約社員(役職なし) 所持スキル:特になし 過去の戦歴:特になし 特殊能力:特になし 特殊技術:特になし 備考:虚弱体質(風邪をひきやすい)」
「な……何なの、これ……。こんなの、よく受理されたわね……」
「えー? 特に何も言われへんかったで?」
「仮登録証も見せて!」
「いやんもう……恥ずかしいわあ……」
差し出された仮登録証に書かれていたランクは「E」だった。
20時30分から「第2話 3」を公開します




