第2話 再出発 1
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「さて……。今後の身の振り方を考えなきゃね……」
宿の1階にある酒場で朝食を食べながら、私はハルに言った。
当然といえば当然なのだが、この朝食1人分だけでも普段の私の1日分の食費がまかなえて、さらにおつりがくるぐらいの豪華さだった。自分の懐が痛むわけじゃないとはいえ、こんな贅沢をしていいのかと不安になる。
勇者パーティーを追放された私が収入を得る方法は、一つしかなかった。
冒険者ギルドに行って依頼を受け、それを達成して報酬をもらうことだ。
勇者の仲間になっていれば、こちらから依頼を探さなくても、王族や貴族、教団からさまざまな依頼が寄せられる。身辺警護や魔物退治といった内容だけでなく、時には特使として外交の舞台に立つことだってある。
まあ、私自身はそんな晴れやかな舞台に立つ間もなく追放されたわけなのだけど。
それはさておき、冒険者ギルドで受けられる依頼は、パーティーを構成するメンバーの人数や冒険者ランクで厳密に区分されている。たとえば3人パーティーで、全員がBランク以上であれば、Bランクの依頼を受けることができる。しかし、3人のうち1人がB、ほかの2人がC以下であれば、Bランクの依頼を受けることはできない。
また、どんなに高ランクの冒険者であっても、「複数人パーティーであること」が条件になっている場合、単身ではそのクエストを受けることができない。
これは100年以上前に世界中に冒険者ギルドが設立され、ランク制度が導入されてからというもの、国を超えて厳密に運営されてきた仕組みだった。
言うまでもなく「冒険者」というものは、極めて不安定な生き方だ。いつ何時、命を落とすか分からない。しかし、魔物や野生生物からの生活区域保護、遺跡探索による古代遺物発掘など、さまざまな形で需要があるのも事実。だからこそ、少しでも冒険者が安全に活動できるよう、ランクを制定し、初心者や技術の未熟な者が無謀なクエストに挑戦して命を落とすことのないような仕組みを作ってきたのだ。
初心者向けのクエストはポーションの材料となる薬草や、武器・防具の作成に必要となる素材収集などが中心だ。危険は少ないが、得られる報酬も少ない。ランクが上がるにつれて危険なクエストも増え、その分だけ報酬も増えていく。
ランク制度が確立される以前であれば、たった一人で魔物の群れを壊滅させて一気にランクアップする、といった事例もあったようだが、現代において、そんなことは不可能だった。よほど特殊なケースでなければ、安全なクエストを何度も達成して地道に実績を積んでいく以外、ランクを上げる方法はなかった。
ちなみに、「よほど特殊なケース」の一つが「勇者」の称号を許された者の仲間になることだった。
勇者は、国が魔族との戦いや異界の脅威に備えて定期的に実施する「勇者選定の儀」で選ばれる。戦闘能力以外にも魔力適性、神聖属性への親和性、闇属性への耐性など、さまざまな能力を審査され、選定されるのだ。
勇者に選ばれることで神様からの加護を受け、さまざまな特殊スキルが使えるようになる。また、定期的に国から資金が援助されたり、装備品が支給されたりする。ギルドや貴族も勇者には全面的に協力する必要がある。
つまり、勇者の仲間であれば、ランクを飛び越えてクエストを受けることだって可能だし、ギルドを通さずに直接、王族や貴族、教団から依頼を受けることだってできる。そもそも、支給される資金があれば、ちまちまクエストを受けなくても何不自由なく生活できたのだ。
いまの私は、そういった後ろ盾を全て失い、ただの「Bランク冒険者」になってしまった。ハルへの恩返しができるほどの収入を得ようと思ったら、ひたすらクエストを受け、達成していくしかなかった。
「ところで、ハルって、冒険者ランクはいくつなの?」
私は尋ねた。彼の非常識な強さからしたら、最低でもAかS、もしかしたらSSランクぐらいは持っているだろうと思った。上位ランク保持者が仲間にいれば、受けられるクエストは一気に増えるのだ。
しかし、彼の返事は意外なものだった。
「へ? ランク? おっちゃんそんなん持ってへんで」
「はあ!?」
「っていうか、そもそもおっちゃん、ギルドに登録したことないねん」
「はあ~~~~~~~!? 何それ!? ギルドに登録したことがないとか、あり得ないんですけど!?」
ギルドに登録するのは、ただクエストを斡旋してもらうためだけが理由ではない。
「どこそこ地方のギルドに所属している」という証明を得ることで、冒険者は「身元不詳・正体不明の根無し草」から、「ギルドによって身元を保証された存在」になるのだ。加えて、冒険者ランクによって能力が可視化されることで、強さや技術の客観的な証明にもなる。
冒険者稼業に携わる人間でギルドに登録していないのは、犯罪を犯したために除名処分を受けたとか、ギルドが存在しないような辺境でしか活動せず、登録の必要がないような人ぐらいだった。少なくとも、ここみたいな大きな街で、ギルドに登録せずに冒険者として活動するなんてことは不可能なはずだった。
「え……。まさかあなた、犯罪者とか……」
「ちゃうちゃう。おっちゃんが住んでた国には、そもそもそういう仕組みがなかってん。それにおっちゃん、こっちでは金持ちやからそういうことやらんでも生活できたし……」
「その国……どんな田舎なのよ……」
私は頭を抱えた。ハルが冒険者ランクを持っていない以上、自分一人で受けられるような小さなクエストを地道にこなしていくしかなかった。
「……とりあえず、ギルドに行きましょ。あと、ハルもギルドに登録して」
「えー……めんどくさいなあ……」
「登・録・し・て!」
「怖い顔やなあ……。あんまり怒ったらシワ増えるで?」
「登・録・し・て!!」
「分かったって……もう……」
渋々うなずくハルを連れて、私はギルドへ向かうのだった。
20時20分から「第2話 2」を公開します




