第7話 旅立つ二人 2
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500年前、ハルたちがベルゼと戦ったときは、ハルとバルフォードの二人が前衛だった。だから、「バルフォードがベルゼの攻撃を受けとめた隙に、ハルが速攻を仕掛ける」「ベルゼがハルの連撃を受けとめた隙に、バルフォードが重い一撃を打ち込む」といった連携攻撃を取りつつ、後衛の3人が弓と魔法で援護することができたのだ。
しかし今、ベルゼと戦っているのは、私を含めても3人だけ。前衛も、後衛も足りていない。私が立て続けに発動させている呪符の魔法も、エルディンやフィオナの使っていた魔法に比べれば、決して効果は高くないだろう。状況は、私たちが圧倒的に不利だった。
一枚、また一枚と呪符を消費していく。どんなに攻撃を重ねても、何度魔法を直撃させても、ベルゼの動きに変化はない。ベルゼにダメージは入っているはず。だけど、効果はあるのだろうか。徐々に焦りと不安が募っていく。
(このままじゃ、ジリ貧だわ……)
この状況を打開する方法はないだろうか。考えても、答えは見つからない。私はひたすら呪符を発動し続けることしかできなかった。
そんな中、私たちの後ろの通路からバタバタと足音が響いた。4、5人くらいの集団が、いくつも私たちのほうへ走ってくる。現代の勇者パーティーたちだった。
「君たちは……!」
先頭に立ち、一同を率いているのはグレゴールだった。私の隣にいるギルロスの姿を見ただけで状況を把握した彼は、即座に剣を振りかざした。
「ギルロス様、ご支援に感謝いたします! 皆、行くぞ!」
「おおーっ!」
30人近い勇者たちによる一斉突撃。それぞれの勇者たちが能力向上のスキルを発動させ、光のオーラをまとってベルゼに突撃する様子は、まさに壮観だった。
しかし、ベルゼはまったく意に介さず、掲げた右手を勇者たちに向けると、ゆっくり撫でるような仕草をした。聖属性の加護を受け、精神操作への抵抗を高めているはずなのに、その動作だけであっさりと精神を支配され、バタバタと勇者たちが倒れていく。あまりにも無力だった。
歯を食いしばり、精神操作に耐えきったのはグレゴールただ一人だった。「歴戦の勇者」「生きる伝説」の二つ名は伊達ではない。剣の技量のみならず、幾度とない戦いを通して練り上げた不撓不屈の精神こそが、グレゴールの最大の強みなのだった。
とはいえ、人間離れした速度で斬撃の応酬を続けるベルゼとハルの間に割り込むことは、さすがのグレゴールにも不可能だった。
私は唇を噛むと、自分の手元に残っていた呪符を全て、グレゴールに手渡した。
「グレゴール様! これを使ってください!」
「……君は、どうするんだ?」
「私には、これがあります」
私は腰からミルセリオンを抜いた。グレゴールは一瞬、「短剣?」と怪訝な顔をする。しかし、剣から放たれる強い聖属性のオーラと私の表情を見て、何かを素早く読み取ったようだった。
「分かった。気をつけろよ」
そう言って、グレゴールは呪符の束を受け取った。
私はミルセリオンを強く握りしめた。
ミルセリオンの力を解放して、その効果が切れるまでにベルゼを倒せるだろうか。
「銀月の加護」を受けても、本当に私はハルのスピードについていけるだろうか。
不安しかない。
しかし、ここで最大の戦力を出し惜しみして、ジリ貧のまま全滅してしまうよりは、一か八かの賭けに出るしかないと思った。
大きく息を吸い込む。
ミルセリオンを高く掲げる。
そして、私は高らかに解放の言葉を唱えた。
「Lunareth silmera, envalis Mirserion(高貴なる牙、目覚めよ銀月の乙女)!」
ミルセリオンの刀身が光に包まれ、同時に体中に不思議な力がみなぎっていく。
そんな中で、ハルが驚きの声を上げた。
「ええっ、その呪文は……!?」
そして。
私の隣で、いきなりギルロスが大爆笑しだした。
「あっはっはははははははああはっはっはっはは」
ちょっと待って。戦闘中だよ、いま。どうして笑ってるの!? 私が決死の覚悟でミルセリオンの真名を解放した場面の、どこに大笑いの要素があるっていうの!?
「ああっ、アカン、アカンって! ギルロス、お前許さんぞ!」
当惑しながら、ギルロスに向けて非難めいた叫びを上げるハル。何が「アカン」のだろう? そんなハルを無視して、戦闘中なのに大爆笑を続けるギルロス。いったい何が起きているのか、私にはさっぱり分からない。
私たちの目の前で、ハルの体が光に包まれた。ハルの隙をついて、ベルゼの斬撃が襲いかかる。しかし、ハルの体を包む光そのものが守護の力を持っているのか、その斬撃を跳ね返す。
光の中で、ハルの髪がフワリとたなびいた。
その色は、彼を包む光と同じ、鮮やかな金色。
そして、ハルの身に着けていた鎧が、美しい白銀の光を放つ。
ハルの顔が、体が、若返っていく――。
光が収まったとき、そこに立っていたのは、長い金髪をなびかせ、白銀の鎧に包まれた美男子。
絵物語に描かれた「閃光の聖騎士」ハロルド・グレイアークそのものの姿だった。




