第7話 旅立つ二人 1
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「貴様らは……」
ベルゼの声がホールの奥から響いた。さすが伝説の魔王軍幹部。声の威圧感がものすごい。私はハルとギルロスの後ろで、思わず身震いをした。
「レイナちゃん、打ち合わせ通りにいくで。ええな?」
ハルの言葉に私はうなずき、冷静さを取り戻す。
「うん、分かってる」
私はアイテムポーチから何十枚もの呪符を取り出した。聖属性や氷属性の魔法を封じたもので、魔法を使えない人でも魔法と同じ効果を発動させることができる。
「聖炎浄滅」
「神光断罪」
「霜牙突撃」
「氷嵐襲来」
「白銀終焉」
どれも、Sクラスの魔術師や僧侶、聖騎士たちが使うような高位呪文ばかりだ。ベルゼは炎属性の攻撃に強い耐性を持っている。だから、魔族に高い効果を発揮する聖属性や、氷属性の魔法ばかりを集めた。
それらの呪符は、ギルロスが長年かけて集めたものや、エルフたちが防衛用に備蓄していたものだった。
私たちの立てた作戦は、こうだった。
ハルが前衛。スピードを生かしてベルゼに攻撃する。
ギルロスが後衛。後方から射撃でハルを援護する。
私は後衛。ありったけの呪符をアイテムポーチに詰め込んで、魔法攻撃でハルを援護する。
「悪いけど、レイナちゃんは前線に出たらアカン。おっちゃんとベルゼの戦いは、レイナちゃんには速すぎてついてこれへんと思うからな。それに、ベルゼの攻撃はおっちゃんの本気よりも遥かに強い。レイナちゃんがまともに食らったら、一撃で致命傷になる。だから、後ろから呪符を使って魔法攻撃を続けて。それが一番安全かつ効果的な手段やから」
ハルの言葉は、裏返せば「お前は剣士として役に立たない」と言っているのと同じだった。だけど、私は反論しなかった。私とハルの技量に大きな差があるのは歴然としていたからだ。唯一、ハルと肩を並べて戦えるとしたら、ミルセリオンの力を解放した時だろう。だけど、ミルセリオンの力を使える時間は長くはないし、効果が切れれば完全に身動きが取れなくなる。だから私は、ミルセリオンを使うのは最後の手段にするべきだと思っていた。
「行くで!」
ハルが叫んで駆けだす。その後ろからギルロスが立て続けに矢を放った。ハルの体の横を流星のように矢が飛び、ベルゼを射抜く。しかし、ベルゼは全く効いていない様子で右手を私たちに向けて差し出し、何かを撫でるようなそぶりをした。
頭の中に手を突っ込まれたような不快感が湧き、強いめまいを感じる。でも、それだけで済んだのは、ハルにもらった精神操作無効の指輪のおかげだろう。
「ああもう、気持ち悪いったら!」
「相変わらず、嫌らしい攻撃やで……!」
ギルロスが一瞬たじろぎ、ハルが舌打ちをする。戦女神の加護を受けた二人でさえ、影響を受けているのだ。ルカやエリサたちがアッサリと精神を操作され、ベルゼの支配下に置かれてしまったのは無理もなかった。
ベルゼ・グラナド。「灼滅の狂剣士」の異名を持つのは、敵を焼き尽くす炎の使い手だからというだけでなく、「敵対する者を狂わせる魔法の使い手」だからでもあるのだ。伝説によると、剣技では魔王すらしのぐ腕前の持ち主だと言われている。それなのに、精神操作でまともに攻撃できないようにしてくるのだから、悪辣極まりない敵だった。
「霜牙突撃発動!」
私は呪符を構えて発動の詞を唱えた。呪符に描かれた紋様が光を放ち、巨大な氷の牙となってベルゼに襲い掛かる。内包した魔力を使い果たし、ただの紙になった呪符を投げ捨てると、私は次の呪符を取り出した。
「聖炎浄滅発動!」
「神光断罪発動!」
立て続けに呪符を発動させる。
聖属性の炎が、神の裁きの光が、ベルゼに向かって降り注ぐ。
こんな強力な魔法を内包する呪符を魔術師ギルドで購入すれば、一枚につき、金貨十数枚は必要になるだろう。そんな超高級品を惜しげもなく連発するなんて、私の人生でこれが最初で最後だろうな。戦いの真っ最中だというのに、私はそんなことをチラリと考えてしまった。
ハルは一瞬でベルゼとの距離を詰めると、光のような速さで激しく剣を振り下ろした。
一撃。二撃。刃が噛み合うたび、二人の間に火花が散る。
Sクラスの魔獣さえ一撃で斬り倒すハルの斬撃を、ベルゼは無造作に受けとめる。巨大な剣をただの棒きれみたいに軽々と振り回しながら、ベルゼは笑みを浮かべた。
「思い出したぞ! 貴様らは500年前、我らを封じた賊徒どもだな! まだ生きていたとは小癪千万、このまま骨すらも残さず焼き尽くしてくれよう!」
ハルの斬撃の合間に、何度もギルロスの矢がベルゼを射抜いている。私の発動させる聖属性魔法や、氷属性魔法も何度も直撃している。何本もの矢を体に突き立て、魔法を浴びながら、それでもベルゼの動きは衰えを見せない。ハルと互角以上の速度で斬撃の応酬を繰り返している。ううん、もしかして……ハルのほうが、押されている!? そんな、まさか!?
「ちぃっ、ちょっと手数が足りんなあ!」
斬り結ぶ合間、ハルが苦しそうにつぶやいた。




