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第6話 封印崩壊 4

 4


 ルカはエリサとハンナを連れて、ダンジョンの奥深くへ進んでいた。

 火山の中に構築されたダンジョンは蒸し暑く、硫黄っぽい火山性ガスの匂いが漂っている。

 三人は何度もモンスターの襲撃を受けた。魔王軍の大幹部であるベルゼ・グラナドを封印している遺跡とあって、襲ってくる敵はどれも凶悪なものばかりだった。しかし、そのどれもがルカの放つ聖なる炎の斬撃によって斬り伏せられていった。

 通常、このダンジョンのような火山地帯に住むモンスターは、炎や熱などの攻撃に対する耐性を持っている。こうしたモンスターに対して大きな効果を発するのは水や氷といった属性の攻撃であり、炎による攻撃は効果が極めて薄くなる。それでもルカの攻撃が大きな効果を発揮したのは、耐性を弱体化する聖属性の力によるものだった。特に強い聖属性の力を持つルカは、敵の属性防御能力をほぼ無効に近い状態まで弱体化することができた。そのため、敵がどれだけ強い炎熱系の耐性を持っていても、ルカにとってそれらはほぼ意味をなさなかったのだ。

 幾度となく戦闘を繰り返し、奥へ奥へと進んでいく。ダンジョン進入から数時間で、三人は最深部へとたどり着いた。

「……え? どうして明るいの?」

 最深部のホールに入った瞬間、ハンナが驚きの声を上げた。

 それまで漆黒の闇に覆われていたダンジョンの中に、突然、あかあかとかがり火が焚かれていたのだ。そこは、ダンジョンの中だということが信じられないほど広々とした空間だった。数十人の騎馬部隊が展開して走り回ることさえできそうなほどの広さに、等間隔でかがり火が置かれている。

 それはつまり、明かりを必要とする何者かが、ごく近い時間にこの場を訪れたということなのだ。

 では、一体誰が……?

 ホールの奥へ進んでいくと、すぐにその答えが判明した。

 かがり火に照らされて、黒いローブに身を包んだ数人の怪しげな人影が儀式を行っていたのだ。

 彼らはホールの奥の扉に向かって一心に祈りを捧げていた。かがり火に照らされる彼らの体からは怪しげなオーラが立ち上っている。彼らの詠唱が熱をもって繰り返されるたび、扉に施された封印が不規則に明滅した。

「おい、お前ら! 何をやっているんだ!」

 ルカが怒鳴りつける。人影が振り返り、怒鳴り返してきた。

「ベルゼ様復活の儀を妨げるな、愚か者!」

 その声にエリサが驚いて息を飲む。

「……うそ! 人間なのですか!?」

 彼女はベルゼ復活のため、封印を解こうとしているのは魔族か、妖魔の仕業だと思っていた。人間にとって魔王や、その手先であるベルゼは天敵とも言うべき存在である。その復活を願う者がいるということが、彼女には信じられなかったのだ。

「各地で魔王の遺跡の封印を解いて回っている奴らがいるって聞いていたけど……、まさか、お前らのことだったのか」

 ルカが忌々しげにつぶやく。グラン・セリオンで列席させられた会議の席で、そんな話題が出ていたことを思い出したのだ。

封印解放機関(シール・ブレイカーズ)……だったか」

 そんな名前で活動しているカルト集団だったとルカは記憶していた。会議の席ではその集団の規模や主な活動など、さまざまな話題が出ていたように思うが、「どうでもいい」と思って聞き流していたため、それ以上の情報はルカには思い出せなかった。

「それは、貴様らが勝手につけた名称だ。我々は『終刻解放派』なのだ!」

 黒ローブの一人が叫んだ。その手にはかがり火を受けて不気味に輝く短剣が握られている。

「終刻解放派!? まだ残っていたというの!?」

 エリサの血の気が引いた。

 それは現代の聖職者なら、必ず教学の講義で耳にするカルト教団の名前だった。

 魔界の扉を開き、魔王をこの世界に顕現させて人類を滅亡させる。破滅こそが世界の救済であり、破滅の象徴である魔王を神としてあがめる、極めて危険な集団だった。彼らの暗躍が、500年前の魔界大戦を引き起こしたと言っても過言ではない。だからこそ、五英雄は魔界大戦終結後、真っ先にこのカルト教団の根絶に取り組んだと言われている。

「破滅こそが救済、破滅こそが解放! 我らの理念を理解できない愚物どもに、生きる資格などない!」

 短剣を振りかざし、黒ローブの集団が一斉に斬りかかってきた。その動きは俊敏で、人を殺すことに一抹の躊躇も感じられない。

 エリサはかつて、教学の講義の際に聞いた「終刻解放派は暗殺者ギルドと強い結びつきがあり、一人ひとりが殺人の技量に熟練していた。だからこそ魔界大戦後、五英雄はこのカルト教団の存在を危険視し、根絶に取り組んだ」という話を思い出していた。明らかに彼らは、一人ひとりが熟練の暗殺者のようだった。

「ルカ、気を付けて!」

 エリサの警告にうなずき、ルカは剣を構え直した。一人の攻撃を受け流し、反撃しようとした瞬間、死角から複数の短剣が突き出される。

「クソッ!」

 かわしきれなかった一本の短剣が、腕をかすった。浅い傷のはずだが、ルカの腕にひどい激痛が走り、痺れて剣を落としそうになる。

「毒か!」

「解毒の光よ!」

 ルカの反応を見て、エリサが慌てて解毒の呪文を唱える。

氷矢射出(フリージングアロー)!」

 ハンナの呪文で生み出された複数の氷の矢が暗殺者たちに炸裂し、一瞬、動きを止める。それはほんの刹那の停滞だったが、ルカにとっては十分な時間だった。

烈火一閃(ブレイズ・スラッシュ)!」

 炎のオーラをまとった斬撃が周囲を薙ぎ払う。その一閃でルカを取り囲んでいた暗殺者たちはまとめて両断され、死体すらも残らず焼き尽くされた。

 暗殺者たちの姿の消えた大ホールで、ルカは腕を押さえてうずくまった。エリサの解毒の呪文で毒は消えているはずなのに、痛みと痺れが収まらない。

「ちくしょう……、なんだコレ……」

 エリサはルカの鎧の隙間から傷口を確認して、息を飲んだ。

「これは……っ!」

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