第6話 封印崩壊 3
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ベルゼ討伐戦に向けた勇者たちの会議は紛糾していた。
リーダーを最年長のグレゴールが務めることは、グラン・セリオンを出発する時点で既に決まっていた。しかし、約30人の一行が全員で同時に突撃することはできない。そのため、複数のパーティーを組み合わせて一つの分隊とし、ダンジョンに侵入する。最終的に、ベルゼの封印されている場所で全員が合流し、ベルゼの再封印を行うことになっていた。しかし、揉めていたのは、その分隊編成だった。
複数の勇者パーティーが共に行動することは、滅多にない。勇者は強大な力を持ち、高レベルの勇者ともなれば、一人でも戦術・戦略に影響を及ぼすことさえある。だからたいていの場合、勇者は並行して個別・独自に行動するのだ。しかしその弊害として、今回のように一つの目標に向かって行動する場合、足並みを揃えられないことがある。勇者として圧倒的なカリスマ性を持つグレゴールであっても、ほかの勇者たちをまとめることは容易ではなかった。
「だーかーら! こんな会議をダラダラ続けること自体が無駄だっつってんだろ!」
グレゴールに反発する勇者の筆頭が、ルカだった。彼は当初から会議そのものを否定し、自分が中心となって突入すればいいと主張していた。
「いい加減にしたまえ。血気盛んなことは結構だが、勇気と向こう見ずは違うのだ。相手は魔王軍幹部の中でも最強のベルゼ・グラナド。単身で突入しても、勝てるかどうか分からない。我々は賭博者ではない。国のため、人々のため、確実に勝たねばならないのだ」
「ははっ……。前々から言いたかったことなんだけどよぉ、オッサン……」
ルカの口調は、あからさまに嘲笑を含んでいた。
「お前ら全員、弱いからそうやって策を練ることしかできねーんだろ」
その場にいた全員の顔色が変わった。口々に「ガキが……」「増長して……」とつぶやき、剣の柄に手をかける。
「お? やる? やる気のあるヤツから掛かってこいよ。何なら、全員まとめてぶっ飛ばしてやるぜ?」
「言わせておけば……っ!」
激昂する勇者たちをなだめて、グレゴールが立ち上がった。
「最年少で勇者の称号を得たからといって、図に乗るなよ若造……」
グレゴールの体から、湯気のようにオーラが湧き上がる。そのオーラにふれただけで、下級妖魔であれば尻尾を巻いて逃げ出すだろう。普段は温厚な人柄で知られているが、彼の戦いは苛烈そのものであり、その剣技は現在も最盛期の強さを保っていることで有名だった。
「表に出ろ!」
幾多の戦場で鍛え抜かれた声が天幕を震わせる。気の弱い者なら、その声だけで失神しそうなほどの怒りが込められていた。しかし、ルカは薄笑いを浮かべながらスタスタと天幕を出ると、手招きの仕草をした。
「御託はいいから、さっさとかかってこいよ」
「よほど痛い目に合いたいようだな……」
天幕を出たグレゴールは剣を抜き放つと同時に、複数のスキルを発動させた。
自分の身体能力を限界まで引き上げる「光臨の加護」。さらにその能力とスキルを増幅させる「勇気昇華」。剣技や体技のスキルを上昇させる「神技真撃」など。それらのスキルは重複して発動させることで効果が何倍にも跳ね上がる。ルカ一人に対する攻撃としては明らかに過剰すぎるものだった。それだけ、ルカの態度にはグレゴールも腹を据えかねていたのだろう。彼を取り巻くオーラが数倍にふくれ上がり、パチパチと音を立てて弾けた。それは、グレゴールの怒りを具現化した火花のように見えた。
「天穿絶剣!」
光のオーラを放ちながらグレゴールが斬りかかる。その姿は朝の空気を切り裂く流れ星そのものだった。
「……っ!」
ルカも剣を抜き放ち、グレゴールの斬撃を受けとめる。鍔元で噛みあった刃がギリギリと音を立てた。
「オッサン……。そんなヌルい剣が俺に効くと思ってんのかよ……」
ルカは歯を食いしばって剣を支えながら、それでも侮蔑の口調で言い放つ。
グレゴールはニヤリと笑った。
「たった一撃、受けとめただけでいい気になるなよ、小僧……。光臨剣舞!」
グレゴールの剣が一層の速さを増し、幾度も振り下ろされた。それはまさに降り注ぐ流星の束のようだった。一つひとつの斬撃が必殺の重さを持ち、幾千、幾万の敵を屠ってきたグレゴールの神技だ。たとえ神の加護を受けた勇者であっても、この圧倒的な連撃を受けて無事でいられるはずはない。誰もがそう思った。
しかし、
「……『炎光輝ルカ』がナメられたもんだなあ、おい!」
剣風が収まったとき、ルカは平然と剣を構えた姿勢を保っていた。その体には、傷一つついていない。
「なん……だと……!?」
目を見張るグレゴール。ルカは唇を歪めて笑う。
「おいおい……。生きる伝説だの、英雄だのって言われてる『最強の勇者』が、この程度かよ……」
唇を噛み、冷や汗を流すグレゴールに向かって、ルカはゆっくりと剣を振りかぶった。
「俺の真の力を見せてやるよ」
深紅のオーラが剣を取り巻き、鮮やかな炎に変わる。
「烈火一閃!」
聖なる炎をまとった斬撃が、グレゴールに襲い掛かる。加護の防壁に守られ、炎で体が焼かれることこそなかったが、衝撃を防ぎきることまではできない。ただの一撃でグレゴールの体は弾き飛ばされ、地面に叩きつけられた。ルカは無造作に剣を収めると、地面につばを吐き捨てた。
「この程度の『最強の勇者』なんかと、一緒にやってられっかよ。俺たちは俺たちで突入する。群れることしかできないお前ら雑魚どもは、勝手についてこい」
傍若無人な言い方だったが、誰も反論することはできなかった。ルカの強さは、単なる虚勢ではない。グレゴールを一撃で吹き飛ばしてみせたその実力は、間違いなく本物だったからだ。
その場にいた誰もが、スタスタと歩き去るルカの後ろ姿をにらむことしかできなかった。




