第4話 伝説の英雄 3
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王宮の深奥部。大勢の衛兵によって守られた通路の先に、国王の座す謁見の間があった。
ここに今、「勇者」の称号を授けられた冒険者と、その仲間が全員、集められていた。現役の勇者は現在、6人いる。その仲間も含めると、およそ30人の集団である。
今まさに、国王から勇者たちへの授剣の儀が執行されているところだった。
国王の前に拝跪するのはグレゴール・マルセイン。初老に差し掛かったいまも堂々たる巨躯を保ち、歴戦の戦士たる風格を漂わせている。勇者の称号を得て既に20年以上になるグレゴールは最年長の勇者であり、その華々しい戦歴の数々は文字通り「生きる伝説」「英雄」と呼ばれるにふさわしいものだった。特に10年前、ある地方都市が大発生した魔獣の群れに包囲された際、民間人から一人の犠牲者も出さずに籠城戦を行い、魔獣を退けたというエピソードは広く知られており、吟遊詩人たちが叙事詩として語り継いでいた。
グレゴールは召集された勇者たちの代表として、国王から聖属性を付与された剣を受け取っていた。
「勇者グレゴール、灰燼の円宮ザル・イグニス征討を命ずる。余の手腕としてこの剣を振るい、破邪降魔の務めを果たせ」
王の言葉を受け、グレゴールはひざまずいたまま両手を差し出して剣を受け取る。
厳正そのものの儀式の中で、最後方に拝跪するルカはあくびをしながらぼやいていた。
「だりぃなあ……。こんなモン、さっさと終わらせろよ……」
「静かにしないと、聞こえちゃいますよ」
隣にいるエリサがたしなめるが、ルカは軽く舌打ちをすると、
「あんなオッサンよりオレのほうがずっと強いってのに……」
傲慢な言葉を聞いた別パーティーの男性僧侶が、眉をひそめてルカのほうをにらむ。
「んだよ、文句あるってのか!?」
「ルカ、ダメですってば……」
小声でつぶやきながら、僧侶のほうをにらみ返すルカ。エリサが必死でそれをなだめながら、僧侶に向かって何度も頭を下げた。
不機嫌に舌打ちをするルカだったが、授剣の儀が終わり、聖剣を配られると機嫌は直ったようだった。国王から下賜される剣だけあって、ただ聖属性を付与されているだけではなく、豪華な装飾が施されており、剣としての拵えも実に見事なものだったのだ。名工と呼ばれる鍛冶屋が腕を振るい、鍛え上げた名剣であることは疑いようもなかった。
「いいじゃん、気に入ったぜ。こういう剣をもらえるんだから、勇者はやめられないよなあ……」
抜剣しニヤニヤと刃を眺め、軽く素振りをする。少し離れた場所から、先ほどの男性僧侶が眉をひそめてにらんでいたが、ルカは全く気づかなかった。
王宮から勇者一行が出発する際には、全員が馬車に乗せられ、音楽隊の先導で城門まで送り届けられる。沿道には勇者たちを一目見ようと多くの住民が詰めかけ、勇者たちに手を振り、歓声を送った。
「……な、なんかスゴいね」
馬車の上で所在なさげに座っていたハンナは、人々の熱狂ぶりに戸惑いながら隣のエリサにつぶやいた。
「街の人たちからすれば、『勇者たちが伝説の魔族と戦いにいく』という物語の一幕を目の当たりにしているんです。熱狂するのは無理ないですよ。あの人たちにとって、私たちは『輝く英雄』であり『希望の象徴』なんです」
「そーいうこと。だから、堂々としてみんなに手でも振ってやりゃいいんだよ」
ルカはそう言ってヘラヘラと笑いながら、沿道の人々に手を振る。ルカと目が合った若い女性たちが悲鳴のような歓声を上げた。
グラン・セリオンに出てきてから数日というもの、ルカはハンナとエリサの待つ宿には帰らずにいた。
「勇者にはいろんな付き合いがあるんだよ」
ルカの説明はそのひと言だけ。エリサは訳知り顔でうなずき、それ以上、何も聞こうとしない。そのため、ハンナもそれ以上の追求はあきらめたのだった。
(こうやって手を振ってる女の子の中には、この数日の間、ルカと一緒にいた子もいるんだろうね……)
そう考えると、胸がチクリと痛んだ。
そして、つい数日前に中央ギルドの近くで再会したレイナのことを思い出した。
自分よりずっとスタイルが良くて、大人っぽい魅力にあふれるレイナ。彼女が仲間になったことで、自分のような幼児体型のお子サマは捨てられてしまうんじゃないか。ルカと深い関係を続ける中で芽生えたのは、恋心というよりも独占欲に近い感情だった。
だからこそ、レイナを追放することに賛成した。
怪我をしたレイナを、薬も明かりも食料も地図もないまま、ダンジョンの奥底に置き去りにする。それは、死の宣告と同義だった。
ほんの数カ月とはいえ、寝食を共にした仲間を見殺しにした。その罪悪感と、「これでルカを取られる心配がなくなった」というささやかな満足感。それらが、このグラン・セリオンで全てひっくり返った。
ルカにとって私は、体だけの関係なの? ほかにも言い寄ってくる女の子がいれば、簡単にその子のほうへ行っちゃうの? そんな思いが尽きることなく湧き上がる。
そして、死んだと思っていたレイナが生きていた。見た目は地味だけど、人の良さそうな男性と一緒に行動していた。
「生きてて良かった。置き去りにしてごめん」
その言葉が喉元まで出そうになった。しかし、それは絶対に口にしてはいけないことだと分かっていた。自分は加害者なのだ。ルカを独占したくてレイナを見殺しにしたのだ。謝罪の言葉を口にしたところで、偽善と自己満足にしかならない。
罪悪感と嫉妬、その他諸々の複雑な感情を抱えながら、ハンナは沿道の人々に力なく手を振り続けるのだった。




