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第4話 伝説の英雄 2

 2


 ギルドを出て、しばらく歩く。

「なあ……。どうしても、おっちゃん一緒に行かなアカン……?」

「まだ言ってるの!? いい加減にしてよ!」

 未練たらしい声を出すハルに、私はキレそうになった。

「世界の危機だって話だったでしょ!? どうしてそんなに嫌なの? エルフと揉めたことでもあったの? 遠くから弓で撃たれたって、あなただったら平気なんじゃないの!?」

「いや……そういうわけでは……ないんやけど……」

「だったら何よ!? ハルは私一人でエルフの森に行って、道に迷って撃たれてハリネズミになってしまえって言うの!?」

「いや、絶対そんなことにはならへんよ。彼らは基本的にええヤツやから」

「だったら、どうしてそんなに嫌なの!? 説明してよ!」

 黙り込むハル。

「説明できないの!? 理由は言えない、でも行きたくないなんて、そんなことで私が納得できると思う!?」

「……」

「どうしても私に理由を言えないの!? 私と出会って時間が短いから? あなたよりもずっと弱いから? 信用できないの? 私たちは仲間なんじゃないの!?」

 言いながら、感情が高ぶって涙が込み上げてきた。

 よしよし……とでも言うように、ハルが私の頭を撫でてくる。スキルで「説得」でもするつもり? ふんだ、この前もらった指輪をつけてるから、説得スキルなんか効かないんだからね!

 大通りのど真ん中で騒ぐ私たちを、行き交う人たちが遠巻きにして眺めている。涙を流して叫ぶ女と中年の男。事情を知らない人からすれば、痴話喧嘩にしか見えないだろう。

 ハルはしばらく困りきった顔をしていたが、やがて、深いため息をついた。

「分かった。ほな一緒に行こ。その代わり、エルフの森で何があっても知らんで。これまで通り、というわけにはいかなくなると思うで?」

「……そうやって、結局、肝心なところは説明はしてくれないんだよね。どうして行きたくないのか、私には話したくないの?」

「そういうわけちゃうねん」

「違うのなら何よ! 何が違うのよ! 言えないんでしょ!?」

「わかった、わかったから。エルフの森に行ったらきちんと話すから。約束する。せやから、いま、ここで駄々こねるのは勘弁して」

「本当に? 約束だからね?」

「約束する。絶対に話したるから……。せやけど、聞いてしまったら、ホンマにこれまで通りというわけにはいかなくなるで」

「本当にいったい、何なのよあなたは……」

 私は大きなため息をついた。

「おい、どけよ」

 すぐ近くから不機嫌な青年の声がした。

 私たちは大通りの真ん中で立ち止まって騒いでいたのだから、通行する人からすれば迷惑だっただろう。

「あっ、ごめんなさい!」

 私はあわてて謝罪し、道端へ避けようとした。そのとき、

「お前……」

 青年が驚いた声を出した。

 私は相手の顔を見る。心臓がズキリと痛みを発した。

 そこにいたのはルカだった。彼の後ろにはエリサとハンナの姿もある。

「生きてたのか。あのダンジョンから、どうやって抜け出せたんだ?」

「あ、えっと、この人に助けてもらって……」

 隣にいるハルを指し示す。ルカの顔が露骨に侮蔑のこもったものになった。

「俺の誘いに乗らなかったのは、こんなオッサンが趣味だったからかよ」

「ち、違……っ!」

「俺の女になるからパーティーに戻らせてくれって言うなら考えてやるつもりだったけど、こんなゲテモノ趣味な女だとは思わなかったな」

「……おい、兄ちゃんよ」

 ハルが珍しくドスの利いた声を出し、私とルカの間に割って入った。

「レイナは俺の大事な仲間なんや。仲間を侮辱するって言うんなら、その喧嘩、買うたるで?」

 ハルとルカの身長はどちらも同じくらい。とはいえ、筋骨隆々のルカと並ぶと、ハルの痩せた体はいかにも華奢に見えた。

「なんだと!?」

 激高したルカがハルの胸元をつかむ。ハルは平然とその手をつかみ、ひねり上げて胸元から外した。ルカの顔が苦痛に歪む。

「てめえ……モヤシみたいな腕のクセに……」

 必死で抵抗しているのだろうか。ルカの腕がブルブルと震え、顔に青筋が浮かんでいる。ハルのほうは文字通り「赤子の手をひねる」みたいに、平然としている。

「『ごめんなさい』は?」

「……くっ!」

 ルカは怒りと苦痛で顔を歪ませ、必死でハルをにらむ。ハルはその視線を受けとめていたが、軽いため息をつくとルカの手を離した。

「ごめんなさいも言われへんアホの子、相手にする値打ちもないわ。レイナちゃん、さっさと行こ」

 小石を投げ捨てるように無造作にルカを突き放すと、ハルはスタスタと歩き始めた。その後ろで、地面に尻もちをついたルカを、エリサとハンナが抱き起こしている。私は急いでハルの後を追った。

 ルカたちの姿が見えなくなったところで、

「あのね、ハル……」

「あいつらやろ?」

 私の言葉にかぶせるように、ハルが断言した。

「あいつらが、レイナちゃんをダンジョンに置き去りにしたんやろ?」

「そ、そうなの。実は……」

 言葉を続けようとする私に、ハルはパタパタと手を振った。

「言いたくないもんは無理に話さんでええ。過去なんてどうでもええとは言わんけど、無理やり聞き出すつもりはないからな。どうしても話したくなったら、聞かせてくれたらええねん」

 ぶっきらぼうに言って歩き続ける。言い方は乱暴だったが、声のトーンは優しい。それが、彼なりの不器用な気遣いなのだろうと思った。

「ありがとう……」

 小さな声でハルの背中に呼びかける。

 聞こえたのか、聞こえなかったのか。ハルの足取りは変わらなかった。

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