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第3話 王都へ 6

 6


 王宮の一室で、会議が開かれていた。

 列席していたのは、近衛騎士団長レオナール・ヴァン=アーデルハイト、聖騎士団長セラフィナ・ルミエール、王国軍団長ガルド・バルグレイヴ、宮廷魔術師長イゼルマ・クローディア。そして冒険者ギルドから、中央ギルドのマスター、ディラン・フォルセティが召喚されていた。

 ディランが分厚い書類を掲げながら話を始めた。

「こちらの報告書は、各地のギルドから寄せられた魔族の活動についての情報をまとめたものです。半年ほど前から各地で魔族や魔獣の活動が活発化しておりますが、ごく最近になって、とうとう『星詠みの祠』でSランクの魔獣スターボアが出現したという報告がありました。添付している地図をご覧ください」

 ディランの説明で、全員が一斉に資料から地図を取り出した。魔族や魔獣が目撃されたり、人家が襲撃を受けた箇所に印がつけられている。

「魔獣の目撃が報告されている場所の多くが『魔界大戦』の際の遺跡です。これらの遺跡の中には、魔王の力や、魔界への門を封じるための結界として設置されてきたものが少なくありません。魔獣の出現と共にそれらの遺跡が破壊され、封印の力が弱まりつつある。事態はもはや一刻を争う状況にあると言っていいと思われます」

 ディランの説明に、居並ぶ一同の表情が険しさを増す。

「もう一枚の地図をご覧ください」

 二枚目の地図を開いた途端、

「これは……っ!」

 一同の口から驚きの声が漏れた。

 描かれていたのはこの国の東部にある火山地帯の地図だ。ある特定の場所だけに、いくつもの印が描かれていた。

 大断層。そこは過去の火山活動によって山岳に大規模な亀裂が入り、焦げ付いた土壌からは頻繁に有毒の火山ガスが噴き出す魔境だ。さらに魔界大戦の際、魔王軍の幹部の一人が根城にしたダンジョン「灰燼の円宮ザル・イグニス」につながっていることで知られていた。

「大断層の周辺はもともと火山ガスなどの影響で、十分な結界を張ることができなかった場所でした。おそらく、魔族はその間隙を突いているのだと思われます。このままではザル・イグニスが解放され、魔界大戦の再発へとつながる恐れもあると言えるでしょう」

 ディランの言葉を受けて、近衛騎士団長レオナールが言った。

「魔界大戦の再発などは、何としても避けねばならない。事は急を要する。軍を動かすべきではないか」

 軍団長のガルドが渋い顔をする。

「王宮の防備を手薄にするわけにはいかんぞ。それに、魔族や魔獣が相手ともなれば、大軍を送ったところで蹂躙されて終わりだ。聖属性を付与した武器の数には限りがあるのだからな」

 聖騎士団長セラフィナが言った。

「やはり、ここは勇者たちを召集すべきだと思います。そのために認定試験を行い、支援をしてきたのですから。加えて、『あのお方』のお力を借りるべきではないでしょうか」

 魔術師長イゼルマが重々しくうなずいた。

「異議ありませぬ。勇者たちへの連絡は、私共のほうで進めましょう。ディラン、『あのお方』の所へ派遣する冒険者の人選を頼めるか。難しいお人ゆえ、我らの関係者を遣わすわけにはいかぬ」

 ディランは険しい顔でうなずいたのだった。


 ある街の宿で。

 窓の鎧戸の隙間から差し込んだ光が、床に細長い線をいくつも描いていた。

 既に夜が明けて数時間が経過しているのだ。しかし、ベッドの上の男女はまだ互いの体を絡ませ合ったまま、静かな寝息を立て続けていた。

 窓の外からバタバタという羽音に続いて、コツコツと硬い物が鎧戸にぶつかる音が響く。

「んだよ……」

 男がぼやきながら起き上がった。昨夜、大量に飲んだワインの酔いが、頭の中にずっしりと居座っている。ふらつく足取りで窓のほうへ歩み寄る途中、ゴロンと音を立ててワインの大壷がいくつか床に転がった。

 鎧戸を開け放つ。まばゆい真昼の陽光が男の裸体に降り注ぎ、彫刻のような筋肉を浮き上がらせた。

 窓の外にいたのは一羽の伝書鳩だった。到着を知らせるため、くちばしで何度も鎧戸をつついていたのだ。

 男は鳩の足に着けられた管から小さな手紙を抜き取る。しばらく読むと、男は舌打ちをしてその手紙を床に投げ捨てた。

「ルカ……どうしたの?」

 男の背後から眠そうな声がした。ベッドで二人の女がシーツを巻きつけた体を起こし、男のほうを眺めていた。

「ああ、グラン・セリオンから召喚命令が来た。『特別クエスト』だってよ」

「じゃあ、グラン・セリオンに行かなきゃいけないのですね」

「ハンナ、グラン・セリオンでスイーツ食べたーい」

「面倒くせえよなあ……。でも、支援金もらうためには仕方ないな……」

 ルカは心底面倒くさそうにつぶやくと、窓の鎧戸を閉めなおした。部屋の中が夜の暗さに戻る。

「とりあえず、昨日の続きしようぜ。エリサ、ハンナ、来いよ」

 程なくして、二人の女の嬌声と濡れた声が閉め切った鎧戸から外に漏れ始めたのだった。

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