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第3話 王都へ 5

 5


 それから数日というもの、私たちはグラン・セリオン観光を満喫した。

 当初の目的だった中央ギルドでのスターボア討伐に関する報告は、拍子抜けするほど簡単に終わった。報告書に基づいていくつかの質問をされただけで、私たちは数分で解放された。私は「ギルドの人にあれこれ質問されて、ハルがまた適当な説明をしたらどうしよう」とハラハラしていたのだが、そんな心配は全く不要だった。帰り際、受付で「今後のことが決まったら連絡するから、それまで待機していてください」と告げられて終了だった。

 ギルドからの連絡を待つ間、「せっかくグラン・セリオンに来たのだから」というハルの提案で、私たちは連日、朝から有名な寺院や大聖堂を回り、市場や繁華街の屋台で食べ歩きを楽しみ、人気の有名飲食店を何軒も回った。

 ある高級飲食店で、私たちが昼食を取っているときのことだった。

 ハルが珍しく真剣な表情で、小さな箱を取り出して私に手渡した。

「これ……受け取ってくれへんかな」

「え……何、これ……」

 蓋を開けて、私は言葉を失った。

 中に入っていたのは、指輪だったのだ。

 およそ装飾用とは言い難い無骨なデザインだったが、それでも指輪であることに変わりはなかった。

 そして、独身の女に指輪を送るというのは、求婚の印だ。つまり……

「え、あ、その、ちょ、えっと……」

 私はうろたえながら、まるでトゲのある実でもつかんだように手の中の小箱をテーブルに落とした。

 ハルのことは(ツッコミどころばかりとはいえ)頼りになる仲間だとは思うけれど、年齢的には親子ほどの差がある。とてもじゃないけど、男性として意識するような相手ではない。それでもこうして面と向かって指輪を渡されるという経験は生まれて初めてのことでドギマギするなと言われてもどうしてもビックリするし何がなんだか分からなくてどう答えたらいいのハルの気持ちは決してうれしくないわけじゃないし誰か特定の思い人がいるわけでもないんだけどそれでもやっぱりこの指輪を受け取るわけにはいかないと思うし――

 私が顔を真っ赤にしてあたふたしているのを見て、しばらくハルは不思議そうな顔をしていたが、やがて、

「あー、そっか。誤解やで。『そういう意味』とちゃうねん」

と、大笑いしながら言った。

「『そういう意味』って、どういう意味よ!?」

 腹を抱えて大笑いするハルに、私は食ってかかる。しばらくして笑いの波が収まったハルは、

「……まさかと思うけど、プロポーズの指輪やと思った? いや、いくらなんでも求婚やったら、おっちゃんももうちょっとエエもん用意したるで? そうちゃうねん。これ、『精神干渉無効』の指輪やねん」

「どういうこと?」

 ハルは小箱から指輪を取り出して顔の前に掲げた。

「ほら、こないだギルドでおっちゃんが『説得』するとこ見たやろ? あれを見たら、今後、おっちゃんがレイナちゃんに何か話しかけても、『また『説得』されちゃうのかも……』って考えてしまうと思うねん。おっちゃんとしては、レイナちゃんの心を勝手にいじるようなつもりはないけど、『やらない』って言うだけでは信用できへんやろ?」

 それは確かに、その通りだと思う。一緒に旅をする仲間を疑いたくはなかったけれど、ハルの力の底知れなさを目の当たりにして、全幅の信頼を置けるほどには、まだ私はハルのことを知らなかった。

「だから、これを着けといてほしいねん。この指輪はおっちゃんの『説得』も含めて、ありとあらゆる精神操作系の魔法を無効化してくれる。たとえおっちゃんがレイナちゃんの気持ちに反する『説得』をしようとしても、絶対に効果はない。それに、これを着けてたら、今後の戦いの中でレイナちゃんの身を守ることにもつながると思うねん」

「そういうことだったのね……」

 私は深いため息をつきながら、指輪を受け取った。一人でドギマギして顔真っ赤にして、何やってんだろう、私……。

「あ、でもお望みやったら指輪、おっちゃんが着けさせたろか? やっぱり左手の薬指がええかな?」

「馬鹿! 自分で着けるわよ!」

 私はベーッと舌を突き出しながら、左手の人差し指に指輪を通したのだった。


 その後も私たちはさまざまな有名スポットを回った。

 特に私の印象に残ったのは、グラン・セリオンの外れにある小高い丘だった。

 ふもとまではなだらかな斜面が続き、牧草が生い茂って羊や牛が放牧されている。少し離れた場所に王宮と、その周辺を取り囲む城壁が見える。

 ここは「五英雄叙事詩」の中で、特に有名な場所だったのだ。

 魔族の侵攻が激化し、魔王軍がこのグラン・セリオンまで攻め込んできた。そのとき、五英雄が迎撃のための本陣を置いたのがこの丘だった。丘の上には当時の戦況を記した石碑と、英雄たちが立って戦場を見下ろしたとされる石の台座が残されていた。

「ここが……伝説の舞台……」

 私は石の台座の上に立ち、うっとりと、眼下に広がる景色を見渡した。

 今は家が建ち並んでいるが、500年前、ここは王宮とその周辺以外ほとんど建物がなく、一面の草原だった。台座に立って街を見下ろすと、叙事詩の光景が浮かんできて、五英雄たちがすぐ近くにいるような気がした。

「あー、感傷に浸ってるとこ悪いんやけどな。500年前はその石、なかったんやで。その台座、そっちの石碑と一緒に設置したんやから」

 ……「自称バルフォード」が何か言ってるけど、無視よ無視! せっかくの歴史ロマンが壊れちゃうからね、うん。

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